路上占い、あれこれ164【占い師はつきまとわれる】

崔 梨遙(再)

路上エッセイ再開の掌編 2732文字です。

 夜のミナミで路上占いをしていた時のお話です。



 その女性は、最初、少し離れたところから僕を見つめていました。占おうか? どうしようか? 迷っているのだろうか? と、思いつつ、僕は気にしていないフリをしました。


 その女性は、少しずつ僕に近付いてきて、ついに僕の横に立ちました。長身、スレンダー、まあまあ美人。茶色い長い髪。ちなみに僕は茶髪や金髪も好き。かかとの高いブーツなので、更に大きく見えるのでしょう。スレンダーなので威圧感はありませんが。ここまで来たら話しかけてもいいでしょう? 話しかけました。


『占いのご依頼ですか?』

『そうなんやけど、なんぼするの? 私、あんまりお金が無いねん』

『じゃあ、今日は無料(ただ)でいいですよ』

『じゃあ、私が幸せになれるか』

『月単位でも年単位でも占えますが、今回は年単位で占いますね…………うん、急激に良くなりますよ、去年まではパッとしませんでしたが、昇り竜の卦が出ました。しかも雲に乗って自由に大空を駆け巡るさまを表しています。その後で運気変化がありますが、これも大吉! 少なくとも後5年は幸せでいられるでしょう』

『やったー! 良かった。マジ良かった』

『今まで、苦労してきたんでしょうね』

『はい、月単位でも見れます?』

『はい、見ます……これは、いいのですが……』

『何か問題があるん?』

『人間関係に特に良くて、恋愛にも良い卦なのですが、妊娠のキーワードが出ています。注意してくださいね、あ! 仕事とか、他のことにもいいです』

『当たってるわ』

『え? どこらへんが当たってたんですか?』

『私、子供を流産したから』

『そうでしたか』

『同棲してた男がDVやってん。ほんで、腹を殴られたから流産してしもた。それで嫌になって家を飛び出したんや。別れ話をしたら殴られるから、逃げてきてん。今は中学の時の友達が経営してるカフェでウエイトレスをやってる』

『ようやく落ち着いたんですね』

『ところがや、家賃滞納でアパートを追い出されたんや。今は⭕⭕駅の近くの1泊千円とか二千円のホテルに泊まってるねん』

『ちなみに、今の所持金は?』

『五千円!』

『給料日は?』

『来週の水曜日』

『ほな、僕は帰るわ』

『なんで?』

『以前にも、これに似た展開があったんや』

『占い師さん、今夜泊めてくださいよ』

『ほらー! やっぱりー!』

『迷える20歳を置いていくんですか?』

『嘘つきは嫌いや』

『迷える22歳を置いていくんですか?』

『嘘つきは嫌いや』

『すみません、本当は29歳です』

『嘘つきは嫌いや』

『これは、ほんまやー! 見ろ!』

『あ、免許証。ほんまや、29歳や』

『そうそう』

『ほな、大人やな。大人は置いていく』

『ちょっとー! 泊めてやー!』

『ほな、来週の水曜日までの生活費を渡すわ』

『そんなん申し訳ないわ、部屋の隅で寝るから』

『わかった! 寮のある仕事ならええやろ?』

『そんな仕事、あるの?』

『飲酒店とパチンコ店、どっちがいい?』

『パチンコ店』

『今日は土曜、明後日の月曜にパチンコ店の会社の人事部長に連絡するわ』

『マジで仕事紹介してくれるの? ラッキー!』

『はい』

『何これ?』

『1万円』

『何これ?』

『月曜の面接まで、これで生活してくれ』

『金はいらん!』

『電話番号だけ教えてや、面接日時が決まったら連絡するから』

『うん、お兄さんの電話番号も教えてや』

『ほな、また』


『なあ』

『何?』

『なんでついてくるの?』

『たまたま方向が同じだけ』


『なあ』

『何?』

『僕が住んでるマンションに着いてしまったんやけど、何?』

『お邪魔します』

『はあ、コーヒー飲んだらホテルとかネットカフェに行ってくれよ』


『崔さん』

『何?』

『私、ベッドで寝てもええの?』

『しゃあないやんか、女性をフローリングの床の上には寝かされへんやん。もう、ええから寝なさい。明日は昼過ぎまで寝るから。コンビニとか行くなら、この合い鍵を使ってくれ、おやすみ』



『ん?』

『起きた?』

『うん。なんか美味しそうな臭いがする』

『カレー作ったで』

『え? ギャルなのに?』

『家事が得意なギャルもおるねん』

『そのネイルでよく料理できるね』

『すごいやろ? さあ、食べてや』

『美味い!』

『美味いやろ? 料理は自信があるねん』

『僕、胃袋を掴まれたかも』



 月曜、僕は落ち込んで帰った。


『崔さん、どうしたん?』

『人事部長が出張で、梨花の面接が来週の月曜の午後になってしまった』

『まあ、ええやんか。何がアカンの?』

『この生活が月曜まで続くということやで』

『それの何がアカンの?』

『キレイな女性と暮らすのは健康に悪いわ』

『もしかして私としたい?』

『そりゃあ、そうやろ』

『抱いてもええよ』

『アカン! それやったら、僕が行き場所の無い梨花の弱みにつけ込んでることになるやろ?』

『あんまり堅く考えなくてもええと思うけど』

『なんか、部屋がキレイになってない?』

『うん、掃除したから』

『ありがとう、ごめんな』

『夕食は煮物にしたで』

『おお、ありがとう、いただきます』

『美味しい?』

『美味しい!』

『でも、ええの?』

『何が?』

『私に合い鍵を渡して仕事に行ってるけど、私が悪いことしたらどうするの?』

『何か悪いことするんか?』

『しない』

『ほな、ええやんか。そうそう、日曜日はフレンチのフルコースやで。予約したから』

『え!? 気を遣わなくてええよ』

『最後の夜や! ええやんか』



 土曜日はいつも通り、占いで路上に出た。梨花もついてきた。僕の横に座って、楽しそうにしていた。梨花目当ての男性客が多かった。


 出会ってから1週間、理科は僕の仕事の邪魔はしなかったが、僕が仕事以外のことをすると、ベタベタと僕につきまとった。正直、悪い気はしなかった。Hはしなかったけれど。そして日曜日。



『本格的なフレンチのフルコース、初めてやったわ。同棲してた彼はどこにも連れて行ってくれなかったからなぁ……』

『明日の面接、多分、合格や。すぐに入寮できるから、今日でお別れやな』



 そして、その年の僕は寂しい年越しとなった。大晦日、ちょっと用事があって出て、戻ってみると、マンションの前に梨花がいた。


『何してるねん? 寒いやろ?』

『驚かせようと思って』

『早く僕の部屋に行こう、暖房をいれて暖めないと、風邪をひくで』

『クリスマスは休めなかったけど、今日と明日は休めたで。年越しそば、一緒に食べようや。おせち料理も買ってきたんやで。もちろん、お餅も』

『わざわざ来てくれたんか』

『年越し、正月、1人は寂しいやろ?』

『うん、寂しい』

『実は私も寂しいねん』

『そうなんや』

『今夜は除夜の鐘を聞きながら私を抱いたら?』

『いやいや、それはアカンやろ』

『なんで? 今なら私の弱みにつけ込んでないやろ? ええやんか。抱いてや。今は彼女もおらんのやろ? それとも、私が嫌なん?』



『ううん、嫌じゃないよ』




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路上占い、あれこれ164【占い師はつきまとわれる】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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