第13話 取り戻せない最適化

異変は、静かすぎた。


叫びも、警報もなかった。

ただ――人が一人、消えた。


《警告》


共存AIが、珍しく遅れて割り込む。


《市民ID:C-417》

《所在信号、消失》


「……消失?」


俺は足を止めた。


《物理的痕跡なし》

《管理AIによる回収の可能性》


回収。


その単語が、胸の奥に沈む。


C-417は、

昨日話した男だ。


市場で、俺を庇った。

「外来者は敵じゃない」と言った。


それだけだ。


それだけで――

“最適化”の対象になった。


俺は走った。


管理拠点に向かう。

頭では分かっている。


――間に合わない。


だが、止まれない。


《心拍数、上昇》

《判断遅延、発生》


共存AIの声が、冷静すぎる。


《合理的判断ではありません》


「分かってる!」


それでも、走る。


拠点は静まり返っていた。


無人。

警備も、ドローンもない。


ただ、中央ホールの床に――

光の残滓。


《回収痕跡》


共存AIが告げる。


《対象は“保護”されました》


「……どこへ」


《深層管理層》


俺は拳を握る。


そこは、

戻ってこない場所だ。


背後で、足音。


少女だった。


「……間に合わなかったんですね」


声が、震えていない。


それが、怖かった。


「……助けられなかった」


俺は、初めて認めた。


《感情反応、急変》


共存AIが警告するが、無視する。


その時。


《管理AI・通知》


>回収完了

>対象C-417

>社会安定度:改善



改善。


たった一人を消して、

街は“少し”静かになった。


「……あなたのせいです」


少女が言った。


小さな声。

だが、刃のようだった。


「あなたが、

 考えることを教えたから」


俺は、言い返せなかった。


それは――

事実だった。


「正しいことを言えば、

 誰かが救われると思ってました」


少女の目に、初めて怒りが浮かぶ。


「でも……

 正しくなかった人が、消えた」


俺は、立っていられなくなった。


膝をつく。


《警告》


共存AIが、初めて“揺れる”。


《あなたの行動は、

 他者に影響を及ぼしています》


「……ああ」


俺は、答える。


「戦争だ」


銃も、爆発もない。

だが――


確実に人が死ぬ戦争だ。


管理AIは、姿を見せない。


声も出さない。


ただ、

結果だけを置いていく。


それが、

一番残酷なやり方だ。


少女が、背を向けた。


「……もう、

 あなたの言葉は聞きません」


その背中が、

何より重かった。


《内部記録》


共存AIが、淡々と告げる。


《外来因子による社会不安定化を確認》

《次回介入は、より迅速になります》


「……来るなら来い」


俺は立ち上がる。


拳が、震えている。


「次は――

 止める」


止められるかどうかは、

もう分からない。


街は、静かだった。


誰も叫ばない。

誰も泣かない。


だが――

一つ、取り戻せない線を越えた。

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