横断歩道

冷田かるぼ

1

「信号の待ち時間って無駄だよね」


 学校の帰り道、彩子は言った。赤信号、少しの待ち時間。少しの沈黙。


「なんで?」


 沈黙を破り、なんとなく聞いてみた。まだ信号は青にはならない。車通りも少ない静かな道路。


「だって人生で信号待ちの時間って凄い長いし意味ないじゃん」 

「そうだね」 


 相槌を打ちつつ、考える。

 彩子は昔から若干変人だから言っていることが理解できないことが多いのだ。今回のはまだなんとか分かる範囲だった。


「その時間使って他にやれることめっちゃあるよ、絶対」


 身振り手振りに合わせ表情をころころと変えながら、彩子は語る。やっぱり天才の言うことは違うな、なんて思ってしまった。


 そして彼女は私に手を差し出し、(お菓子を寄越せ)と睨んできた。いつものことだ、カバンの中に入れていたお菓子を取り出す。


「これ、手作り」


 そう言ってチョコレートクッキーを手渡そうとすると、彼女は怪訝そうな顔をして断った。私はあまり料理をしないから、疑っているのかもしれない。別のを寄越せ、とまた睨まれる。


「お願い、味見して欲しくて」

「嫌だ、あんた味音痴なんだからろくな出来じゃないでしょ」


 そうこう言っている間に、信号が青になった。せっかく彩子のために作ったのだから、どうしても食べて欲しい。とにかく説得してみる。


「まずかったら別のを渡すから、お願い」


 そう伝えると、渋々受け取りそれを口に含んだ。彼女の眉間にしわが寄る。歩きながら、私はそれをただ見つめていた。


「……甘すぎるし変な味するんだけど。別の。ちょうだい」


 どうやら彼女のお口には合わなかったようだ。口直し用に、小さなせんべいを渡す。しばらく一方通行の会話を続けて歩いていると、いつの間にか彼女と別れる交差点にたどり着いていた。


「あ、じゃあね」


 そう投げかけてはみたものの、彼女はいつも通り振り返りもせずに横断歩道を渡って行った。私に興味などないのだ。さて早く帰ろう、と思いつつ信号を待つ。さっき赤になったばかりだからだろうか。きっとこの時間も無駄だと彼女は言うのだろう。


「救急車呼んで!」


 遠くから叫び声が聞こえるような気がする。彩子の向かった方向だ。内容からするに、誰かが倒れたらしい。騒ぎ声がだんだんと大きくなっていく。


 と、ようやく信号が青になった。気にせず足早に横断歩道を渡る。もう、振り返ることは無いだろう。


 ばいばい、彩子。

  

  

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