異世界転生?

第1話(推敲版)

あれ、なにここ。

……高級ホテル?

目を覚ました俺が、最初に思ったのはそれだった。

いつもの、無駄のない家具を並べたワンルームじゃない。

強い日差しが差し込み、天井はやたらと高い。

ベッドも、よく見ればキングサイズだ。

うーん……なんか変だな。

俺、ホテルなんか泊まったっけ?

昨日の記憶を辿る。

B級映画を観て――いや、映画ですらなかった。

PVだけ流して終わったクソ詐欺映画。

そこまでしか覚えていない。

……あれ?

とんとん、と扉をノックする音が響いた。

やばい。

酔っ払って、他人の家に来たんじゃないか?

最近会社も辞めて、ちょっと病んでたしな。

よし、決めた。

怖そうな人だったら土下座。

勝てそうだったら、素通りして出ていこう。

……ふ、完璧だ。

「失礼します、バスタル様。

 おはようございます。今日もいい天気ですね」

透き通るような、綺麗な声。

……え?

ドアの向こうに立っていたのは、

金髪ロングに碧い瞳の美女だった。

服装は古代ローマ風。

魔術師っぽいローブに、サンダル。

完全にファンタジー。

うわぁーお。

……俺、酔っ払ってコスプレ系の大人の店にでも来たのか?

いや……ないな。

どう考えても、これは夢だ。

「あのー、すいません」

「え、え、え?

 ど、どうなされたんですか?」

なぜか、この美女が動揺し始めた。

え?

俺、なんかやばいこと言った?

服は着てるし、触ってもないし、

ただ喋りかけただけなんだけど。

……ん?

なにこの黒いフード。

俺が着ている服、昨日観たPV詐欺映画の

最後に出てきた主人公っぽい。

あ、なるほど、なるほど。

あの映像が、脳に焼き付きすぎたんだな。

じゃあ、お約束だ。

「ビンタ、お願いします」

これで目が覚める。

俺はベッドの上で正座し、目をつぶった。

…………。

沈黙。

なにやってんだ、俺。

目を開ける。

「あの……私を、クビにしたいんですか?」

え?

「そういうことですよね。

 英雄様を殴れ、というのは……」

え、どういう理屈?

「そうですか……私、力不足でしたか」

勝手に話が進んでいく。

この人、感情の起伏が忙しすぎない?

拳を握ったり、落ち込んだり、

覚悟を決めたような顔をしたり。

「でしたら、最後の思い出に……

 ビンタ、させていただきます」

あ、うん。

思い出はよく分からないけど、お願いします。

「いきます」

俺は目をつぶった。

これで起きたら、またワンルームだ。

――バチン。

……っっっっっっっっ痛っ!!!!

身体が反射で跳ね起きた。

なにこの威力。

こんな細身で?

冗談だろ?

本気で、めちゃくちゃ痛い。

目の前の美女は、扉を開けて振り返り、

涙目で深く頭を下げた。

「今まで、ありがとうございました……

 バスタル様」

……は?

バスタル?

誰だよ。

俺、茂木英雄だけど。

そんなカッコいい名前じゃない。

ちょっと待て。

理解が追いつかない。

でも美女は、そのまま去ろうとする。

待て、行くな、行くな!

心の中で叫ぶが、

叩かれた頬が腫れて、声がうまく出ない。

とりあえず、追いかけるしかない。

――いや、待て。

これって……もしかして。

「……異世界転生?」

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