第6話 第一次試験、【魔刃】飛ばし


「……この度は、お集まりいただきありがとうございます。ギルド執務官のウェンです。この度の《灰刃団アッシュ・ブレイド》入団試験の試験官を担当させていただきます。よろしくお願いいたします」


「…………………」


「……返事が聞こえませんね。全員不合格でいいですか?」


 ウェンのパワハラに、集まった冒険者たちが一斉に「はい!」と返事をする。冒険者は所詮ギルドの奴隷であることがわかる良い例だ。


 ここは、冒険者ギルド所有の闘技場。


 休日はここで底辺冒険者たちが殺し合い、観客の貴族どもが涎を垂らして「死んでー♡」と叫ぶ。この国の搾取の構図をわかりやすく視覚してくれる、非常に教育的な施設だ。


 しかし、さすがはS級パーティ。100人以上の希望者が集まったな。

 《灰刃団アッシュ・ブレイド》が何人入団させるつもりかは知らないが……第一次試験は、足切りの意味合いが強いものになるだろう。


「はい、良い返事です……それでは、今から皆さんにちょっと殺し合いをしてもらいます」


 ……殺し合いと来たかぁ。確かに絞りこむにはもってこいだが。


「………………………」


 重々しく沈黙する闘技場に、「くふふっ」とウェンの笑い声が響く。


「すみません、冗談です。ていうか冗談に決まってるんだから、みなさん笑ってくださいよぉw。これじゃ私がスベッたみたいじゃないですかぁ」


 冒険者たちの内心を代弁すると、「ギルドならマジでやりそうだから笑えるか!」といったところだろう。


「ただ、実際ちょっと数が多すぎるので……そうですね、50人に絞り込みたいと思ってます……【魔刃スラッシュ】飛ばしがいいですかね」


 【魔刃スラッシュ】飛ばし……【魔刃スラッシュ】の飛距離を競うという、冒険者間ではよくやられている遊びだ。


 射程距離20mが平均の【魔刃スラッシュ】なら、この闘技場の広さなら十分。楽したい試験管としてもいい試験だ。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 すると、一人の冒険者が手を上げた。典型的な魔法使いの格好をしたヒューマン女だ。


「私は魔法使いです! 【魔刃スラッシュ】飛ばしなんて……聞いてない、て言うか不利です!!」


 物体に魔力を込めて振り飛ばす【魔刃スラッシュ】は、基本的に剣士が使う魔法だ。この女の言うことも一理ある。


 すると、ウェンは今まさに気づいたみたいに手を打った。


「なるほど、おっしゃる通りだ! それじゃあやっぱり殺し合いにしましょう! それなら魔法使いのあなたの能力が存分に活かせる!」


「……え、いや、それは……」


 魔法使いがモゴモゴすると、ウェンはやれやれと肩をすくめる。


「正論を言う人って、正論に頼らなきゃいけないくらいに弱い人なんですよね。本当に優秀な冒険者ならこの程度の理不尽乗り越えます。実際、魔法使いだろうが、基本中の基本の【魔刃スラッシュ】すら使えないような冒険者がS級パーティに所属するとこ、想像できますか?」


「………っっっ」


 挑発的な物言いに、しかし魔法使いは言い返せない……ま、実際のところは、今回死んだ《灰刃団アッシュ・ブレイド》の団員が、戦士多めなんだろう。


「ウェンさんのおっしゃる通りだ」


 すると、今度も明らかな魔法使いルックの男が、一歩前に出る。違うところで言うと、こいつは見事なエルフ耳をお持ちだ。


「……【魔刃スラッシュ】」


 そして、手に持つ杖をひゅんと振るうと、【魔刃スラッシュ】が放たれた。


 剣と比べたら圧倒的にスイングスピードが出しにくい杖だが、一流の剣士に見劣りしない【魔刃スラッシュ】は、軽く闘技場の中央あたりまで飛んで、地面にズサッと突き刺さった。


「当然、途中で魔力の刃が消えてしまうような完成度の【魔刃スラッシュ】を放つようであっても失格だ……そうだろ?」


「おっしゃる通りです! ただ、普通に危ないのと、どこから【魔刃スラッシュ】を放つかは今から私たちが決めるんでもう少しお待ちくださいね」


「……フッ、構わない」


 エルフ男はクールに笑って冒険者の群れに戻るが、よく見ると立派なエルフ耳が真っ赤だった。


「あいつ、ポッコルじゃないか。《華の閃光アフターグロウ》をやめたって聞いたが……」


「《灰刃団アッシュ・ブレイド》に入団するためだったのか……」


 冒険者たちのコソコソ話を聞く限り、そこそこ有名な冒険者らしい――実際、飛距離からしてトップ5には入るな。


 それからウェンは、闘技場の隅っこに円を描くと、その円から扇状に線を引いた。


「【魔刃スラッシュ】はこの円の中から放っていただきます。放つ際に少しでも円から出たら失格。また、【魔刃スラッシュ】がこの扇状の中に落とせなかったらそれも失格です……ということで、それでは順番は……背の順にしましょうか! はい並んで並んで!」


 ウェンの指示通り背の順に並び、後ろを振り返る。


 俺よりデカいのだから、ヒューマンか獣人の男がほとんどなのだが、一人、それも最後尾に女がいた。


 しかも、ただ背が高いだけではない。筋肉まで男まさりだ。それに見合ったでかいおっぱいでもなければ、男と勘違いしていただろう。


 まるでドワーフ女をそのまま縦に長くしたようだ。おそらくドワーフとヒューマンの混血か。


 あの女は確定……あと、あいつとあいつもだな。


 算段がついたので、俺は前を向く。


 俺が本当に見ておくべきは、ポッコルや最後尾のデカ女のようなトップ層でもなく、また、こんなしょうもない試験に落ちるような寄生しがいのないやつでもない。順位でいったら15位〜35位あたりの連中だ。


 ――もっとも、こんなくだらん試験など、わざわざ見る必要もないんだがな。 


 ということで、ただただ退屈しているうちに、俺の番が回ってくる。


「お名前を伺っていいですか?」


 ウェンの問いに「ああ、ザザンだ」と答えると、「違うだろ! お前はヒルだポコ!!」と一人の冒険者が矢尻、ドッと笑いが起こる。


 やれやれ、人気者になっちゃったな……え、てか、あのポコ語尾男試験来てるの!? こ、怖すぎる……。


「えーっと、それじゃあ【魔刃スラッシュ】お願いします」


「はいよっと」


 俺はバスターソードを抜き、両手で上段に構えると、「ふんぬっ!」と声をあげて【魔刃スラッシュ】を放った。


 ヒュゥゥゥゥゥゥ……ザクンッ。


 放った【魔刃スラッシュ】は、闘技場の半分の半分もいかないうちに失速し、地面に突き刺さり止まった。


 おおッ!!!


 冒険者たちがどよめく。

 決していい記録が出たわけではない。むしろとんでもなく微妙な記録だが、だからこそ盛り上がるのだ。


 すでに、俺の前に84人が【魔刃スラッシュ】を放っている。

 

 つまり挑戦者が【魔刃スラッシュ】を放つたび、誰か一人が脱落する段階だが、俺が放った【魔刃スラッシュ】は、ちょうど受かるか落ちるかのボーダーライン、50位を争う位置に突き刺さったのだ。


 ウェルはトコトコ俺の魔刃まで歩くと、手を上げて言った。


「……ヒルさん、47位です!」


 あぁ……。


 今度は失望とため息、舌打ち。


 俺に負けた冒険者からすれば、散々ヒルとバカにしていた冒険者に【魔刃スラッシュ】飛ばしで負けるというのは屈辱も屈辱だろう。


「はは、今日は調子が良かったな」

 

 俺は冒険者たちに睨まれながら、試験終わりの冒険者の集まりに入っていく。

 もちろん例のポコ語尾冒険者とはなるべく離れたのだが、しかし、あっちの方から歩み寄ってくると話は別だ。


 俺に苛立ちでもぶつけに来たのかと思ったが、むしろ上機嫌な様子でへへっと笑った。


「調子に乗んなポコよ。言ってもあと18人いる。ヒル、お前絶対落ちるポコ」


「いや、大丈夫だよ」


「……あぁ? なんでわかんポコ?」


「……ま、なんとなくね」


 ……俺からすれば逆になんでわからないんだって話だ。


 こんな試験などしなくても、一目見たら冒険者の大体の実力など分かるだろうに。

 俺の後ろの連中は、3人を除いて木偶の坊。50位圏内には入らない。


「暗黒龍プリズムさん、11位!」


「よし!」


「サーッ!さん……28位!!」


「しゃオラ!!」


 俺の予想通り、二人は俺の記録を軽々と超えてきた。


 そして、ついに背の順最後の女の番が来た。冒険者を舐め腐っているウェンも流石にビビり気味に聞いた。


「え、えっと、お名前は?」


 問いかけられた女は、仏頂面のまま答えた。


「……グルゾグ、だ」


 まるで、地獄の底から這い出てきたような声だった。今日一番のどよめきが起こる。


「グルゾグ、だと……?」


「グルゾグって、あの牛殺しのグルゾグかよ……」


「女だったのか!?」


「嘘だろ……」


「いつもフルアーマーだから気づかなかったポコ……」


 最後はポコ語尾のセリフだ。


 「有名なのか? グルゾグって冒険者」と俺が聞くと、「これだからにわかはポコ……」とため息をつかれる。そのポコって、3点リーダー前にも使えるんだ……。


「もう二十年はこの街で冒険者やってるベテランポコ。しかも、二十年間誰ともツルまずソロでやってきて、それでパーティランクAだってんだからポコ」


「A? そりゃバケモンだな」


「ああ、バケモン中のバケモノポコ……しかし、あの一匹狼がなんで……まさか、内部から《灰刃団アッシュ・ブレイド》を潰すつもりポコか?」


「ん? 何、あのグルゾグってのと《灰刃団アッシュ・ブレイド》、因縁でもあるのか?」


「いや、それはしらねぇポコが……とにかく人嫌いで有名なやつなんだポコ。ただパーティに入りたいってわけじゃねぇのは間違いねぇポコ」


「人嫌い?」


「ああ……ってか、そんなもんじゃねぇポコ。あいつと相対した人間はみんな言ってるポコよ――殺されるかと思った、ってポコ」


「ふぅん……」


 それは、なかなかに興味深い話だな……しかし、こいつ、その語尾でよく解説キャラとかできるな。正気か?


「それじゃあグルゾグさん、お願いします!」


「……………分かった」


 グルゾグが背負っているのは、その2m近い身長と同じくらい長くて太い剣だ。


 その剣の柄を後ろ手で掴むと、引き抜いてそのまま上にぶん投げた。


 ビュン!!!!


 鉄の塊である剣は垂直に高く高く飛んだので、つい視線がつられる。


 俺のバスタードソードの縦横二倍はある大剣の刃は、ところどころ赤く染まっている……血の跡だ。ありゃ相当切ってるなぁ。


 その血塗れ剣は、徐々に減速、空中で止まると、まるで暴れ馬のようにぐるぐる回転しながら落ちてくる。


「ヒィッ!」


 落下地点近くにいるウェンが逃げ出すくらいには迫力のある光景だったが、グルゾグは一歩も動かない。

 どころか、視線すら向けようとしない。ただ片手をあげるのみだ。


「……【魔刃スラッシュ】!」


 そして、剣を見事に片手でキャッチすると、そのまま振り下ろした。


 ブン!!!!!!!!!!


 放たれた【魔刃スラッシュ】は、目にも止まらぬ速さで飛ぶ。


 ズバンッ!!!!!!!!!!!


 そして、地面に突き刺さることもなく、闘技場の壁をバターのように切り裂いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る