第23話 終焉なき夜、五色の檻に抱かれて

 冒険者ギルド「銀の盾」の二階。そこには、王族や高位貴族が極秘裏に滞在するために誂えられた、ギルドで最も広く贅沢な『特室』が存在する。


 今、その部屋の重厚なマホガニーの扉は固く閉ざされ、内側からはフィオナによる強力な遮音と認識阻害の魔法が幾重にも施されていた。


「……さあ、ルカ君。もう安全ですよ。この部屋には、私たち以外の誰も入ることはできません」


 中央に鎮座する、特注の巨大なキングサイズベッド。十人が一度に寝られるほど広大なその寝床の真ん中に、ルカは所在なさげに座らされていた。

 周囲を取り囲むのは、先ほどまで死闘を演じていたはずの五人の女性たち。彼女たちは今、一時的な「共同親権」とも呼ぶべき停戦協定を結び、ルカという唯一無二の至宝を共有し、監視する体制に入っていた。



「ルカ、まずはその汚れた服を脱ぎましょう。……私が、新しい夜着を用意させました」


 エルザが、自らの手でルカのシャツのボタンを外していく。その手つきはどこまでも丁寧だが、拒絶を許さない力強さがあった。

 彼女はすでに鎧を脱ぎ捨て、薄い絹のネグリジェ姿だ。布越しに浮き出る、白百合のように気高く、それでいて暴力的なボリュームを誇る胸が、ルカの視界を塞ぐ。


「ヘッ……。服なんて後でいいだろ。まずは身体を温めてやるのが先だ」


 ジナがルカの背後から、丸太のような腕を回して抱き寄せた。彼女もまた、革の防具を全て外しており、褐色の肌が剥き出しになっている。ルカの背中には、岩盤のように硬く、それでいて生命の熱を放つ彼女の腹筋が直に押し付けられた。


「……お二人とも、あまり彼を怖がらせてはいけませんよ。……ねえ、ルカ君。まずは耳元を静めてあげましょうね」


 ルカのすぐ真上から、フィオナが覆いかぶさる。

 彼女はベッドのヘッドボードに寄りかかり、ルカの頭を自分の膝へと導いた。エルフ特有のしなやかで肉厚な太ももが、ルカの頬を優しく包み込む。


「あっ、あ……フィオナさん……」


「シーッ。……私の耳が、貴方の不安を吸い取ってあげます」


 フィオナの長く尖った耳がルカの肌をくすぐり、森の香気が鼻腔を満たす。



 一方で、ルカの足元にはさらなる「檻」が待ち構えていた。


「……いい眺めだねぇ。上も後ろも塞がれて、逃げ場なんてどこにもない」


 マイアが、獲物を狙う猫のような仕草でルカの足首を掴んだ。彼女はルカの脚を自分のしなやかな腰のラインに引き寄せ、太もも同士を擦り合わせる。


「アタシが、君の足がどこへも行かないように、一晩中こうして絡みついててあげるよ」


「……左様。ルカ様の歩みは、教会の……いいえ、私たちの導きの中にのみあるべきです」


 テレーザがマイアの反対側、ルカの左足側を陣取った。彼女は重苦しい修道服を脱ぎ捨て、その下に着込んでいたというにはあまりに扇情的な、薄いシュミーズ姿になっていた。

 彼女が身を乗り出すたび、湿度を帯びた、エルザにも劣らぬ巨大な胸の隆起が、ルカの足先に重くのしかかる。



 ムギュゥゥゥ……ッ!!


 五人が一斉に距離を詰め、ベッドの中央で密着した。


 正面からはエルザの高潔な柔らかさ。

 背面からはジナの野生の硬さと熱量。

 頭上からはフィオナの知的な包容力。

 右足にはマイアの粘着質な愛撫。

 左足にはテレーザの狂信的な執着。


 五方向から押し寄せる「女」という名の圧倒的な質量。

 ルカは、かつてないほどの密度で五感を引き裂かれ、そして同時に満たされていた。


『【愛の貯金箱】――五人の情念を同時処理中。……変換効率が極限に達し、身体が発熱しています。』


「あ、うぅ……っ。熱い……みんな、熱いよぉ……っ」


 ルカの肌は桃色に染まり、目元は涙で潤んでいる。

 逃げたいのに、この重みが、この匂いが、この心地よさが、自分をここに繋ぎ止めて離さない。


「……逃がさない。……逃がさないわ、ルカ。……貴方は、私たちの光なのだから」


 エルザが、ルカの顔を自分の胸の谷間に埋め、深い愛を囁く。

 ジナがルカの腰を自慢の筋肉で締め付け、マイアが耳たぶを甘噛みし、テレーザが祈りのようにルカの指先に口づけを落とす。そしてフィオナが、エルフの秘術による精神安定の歌を、鼓膜の奥へと注ぎ込む。


 最強の五人による、一晩中の「監視」と「愛撫」。

 それはルカにとって、この世で最も過酷で、そして最も甘い拷問だった。


「(……ああ。……もう、何も、考えられない……。……これで、いいんだ。……みんなが僕を見てくれてるなら……僕は、このまま壊れちゃっても……)」


 ルカの瞳から理性の光が消え、完全な「依存」へと堕ちていく。

 夜はまだ始まったばかり。

 ギルドの特室という名の巨大な鳥籠の中で、五人の捕食者たちは、自分たちの獲物をじっくりと、そして徹底的に甘やかし、その魂に「自分たちなしでは生きられない毒」を刻み込んでいくのだった。

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