IWAI the Battle

Ash

前編

       『IWAI』それは、新春を寿ぐ戦いの始まりである




「さあ、始まりました。新春恒例、第3回・東西正月祝賀料理バトル! 実況の南北です」


「解説の西東です。まだやってるんですね……これ」


「そうですね。正月の祝いを賭けた、真剣勝負! エクストリームスポーツの流行もあって大人気ですからね」


「祝いを賭けるって時点で、疑問に思って欲しいものですね」


 会場は巨大な調理スタジアム。

 東西に分かれた二つの調理台。

 観客席には、何故か満員の観衆。

 元日の朝から、何を好き好んでこんな場所に来ているのか。

 この国の平和を強く感じる一場面だ。


「それでは、ルールを説明しましょう。東西それぞれが正月料理を作り、完食すればポイントを獲得。ただし、相手チームからの妨害が許されています!」


「妨害って、もう料理じゃないですよね?」


「そして、食べ物を無駄にしたチームは減点されます。即ち! たとえポイントにならなくても、作ったものは完食しなければなりません」


「つまり、妨害されて料理に失敗したとしても、残したら減点、と」


「その通りです。では、対決開始です!」


 カーン!


「まずは両者、自陣にて調理の開始ですね」


「妨害はポイントになりませんからね、最低限のポイントを稼いでから妨害するのがセオリーです。そのまま大人しく食べればいいのにね……」


「両陣営とも、あれは……雑煮でしょうか?」


「定番の正月料理だけにポイントが高いですからね。しかし、雑煮は――」


「おっと! 動きがありました。西陣営が二名ほどこそこそと動き出した!」


 西陣営の選手二名が、東陣営の死角に回り込む。

 同じ頃、東陣営からも一名が離れる。

 本格的な妨害工作が始まった。


「西陣営の選手が、振りかぶって……何かを投げた! 見事、東陣営の鍋にイン! あれはいったい何だー!」


「あれは味噌! 東陣営は醤油ベースのすまし仕立てにしたかったはず。関東において、あれでは雑煮になりません」


「西陣営の選手二人、東陣営に何か話しかけています。現場の音を拾ってみましょう」


『いやー、東陣営さん。実に美味しそうな雑煮ですね』


『こんな茶色く濁った雑煮があるか! こんなもの……味噌汁だ!』


「煽ってますね」


「妨害とはいえ、事前に申請し認められた食材しか持ち込めませんからね。関西の雑煮といえば、白味噌。西陣営は元々味噌を使う予定だったので、優れた作戦と言えるでしょう。別に味噌でも食べればいいのにね」


「一方で手薄になっている西陣営にも、東陣営の選手が迫っております」


 東陣営の選手が、障害物に隠れて西陣営に近づく。

 西陣営の選手の手が塞がった瞬間、荷物へと手を伸ばした。


「何かを掴んで走り出した!」


「あれは……餅ですね」


「しかし、西陣営落ち着いている。鍋の火を止めると追いかけた!」


 西陣営の選手はあっさりと追いつく。

 暴力は禁止のため、奪われたものは取り返された。


「残念! 妨害は防がれました。一方東陣営、泣きながら味噌雑煮を食べております。自分では雑煮と認めないものを食べる辛さ! しかし、捨てれば減点。鍋を空にしないと次の料理も作れません」


「これで西陣営の一歩リード……とはならないようですね」


 いつの間にか西陣営、鍋を中心に全員が打ちひしがれていた。


「何故だ! いったい何が起きた!」


「おそらく、さっきの餅ですね……現場の音を」


『こんな角が立っている餅なんか、餅じゃない!』


『円満さが感じられない雑煮なんて、嫌だー!』


「おっとー! 取り返したと思った餅が、実は角餅にすり替えられていたようです!」


「西側は丸餅の文化が根強いですからね。角のある餅に拒絶反応を示すのも仕方がないのですよ。馬鹿みたいだけど」


 両陣営とも、鍋を空にする作業に徹している。

 その背中には、まるですすり泣く様な哀愁が感じられた。


「両陣営とも、ポイントのないままCMです」

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