エンジェルグラッセ 声劇台本
塚原蒔絵
エンジェルグラッセ(台本)
シーン1
BGM:ジングル
ノエル(語り)
例えば君が僕を忘れても、僕はずっと君が好きだから。ここは小さな箱庭。
ショコラ(ぼんやり目を開ける)
うん?
ノエル
あ、起きた。気分はどう?
ショコラ(周囲を見渡す)
大丈夫、だけど……ここは、どこ?
ノエル
ここは箱庭。
ショコラ
箱庭?
ノエル
うん。エデンっていう人もいるかな。
ショコラ
あなたは?
ノエル
ん?
ショコラ
あなたは誰?
ノエル(少し戸惑う)
ぁ……えっと、僕は……ノエル。
ショコラ
ノエル?
ノエル
うん。ほら、このお菓子と同じ名前。これはね、ビュッシュ・ド・ノエル。
ショコラ
ケーキだ。
ノエル
うん、ケーキ。ケーキ、好きだよね?
ショコラ
うん! あのね、私の名前は……えっと
ノエル
君の名前はショコラだよ。
ショコラ
ショコラ?
ノエル(微笑む)
うん、ちょっと待ってね。
ノエル(作る動作)
ミルクとチョコレート、ココアパウダー入れて。あ、そこのお砂糖取って。
ショコラ(砂糖を入れながら)
私が入れてもいい?
ノエル
うん! どうぞ。
ショコラ
……これくらい?
ノエル
苦いの好きじゃないんだから、もうちょっと入れないと。
ショコラ
うん、じゃあこれくらい。
ノエル
うん。後は混ぜて――はい、完成! 飲んでみて。
ショコラ(飲む)
うん! おいしい。
ノエル
よかった!
ショコラ
ノエル……どうして私を知ってるの? 私、ノエルのこと知らないのに。
ノエル(微笑む)
どうしてだろうね。
ショコラ(首を傾げる)
?
ノエル
いいんだよ、知らなくたって。これから知っていけばいいんだから。ね、ショコラ。
シーン2
BGM:ジングル
ショコラ(語り)
くるりくるりまわりまわって同じ場所に戻ってくる。ここは小さな箱庭。
ノエル
エンジェルグラッセ ~箱庭の恋~
ショコラ(首を揺らしながら)
ノエルー、今日は何を作ってくれるの?
ノエル
今日はクレーム・ブリュレだよ。ショコラも一緒に作る?
ショコラ
私は食べる専門!
ノエル
もー
チャイムが鳴る
ショコラ
あ、お客さんだ。はーい!
ノエル(嫌な予感)
嫌な予感……
ラスク(勝手に入ってくる)
よぉよぉノエル。久しぶりジャン?
ノエル
ラスク。何しに来たの?
ラスク
何しに来たって、ひっでーなー。この俺が一人でさみしいノエル君を慰めに……あれ?
ラスク(ショコラを見る)
いるじゃん! 何だよお前、いるじゃんか!
ショコラ(戸惑う)
え? えっと……
ノエル
ラスク
ラスク
いやー、あのときはホント心配したんだぜ。なんたって体が――
ノエル(ショコラを引き寄せる)
ラスク!! ショコラに触らないで。
ショコラ(驚く)
わ?
ラスク(混乱)
は? え? ショコラって……え? 何言ってんだ、ノエル。この子の名前は
ノエル
この子はショコラって名前だよ。
ラスク
何言ってんだよ! この子の名前はミ――
ノエル
あの子はもういない。この子はあの子の記憶を持ってないんだ。この子の名前はショコラ。
ラスク(驚愕)
……別人だっていうのか? 記憶がなくなったらあいつじゃないって言うのか!?
ノエル(強く言う)
うるさいよ。ショコラが怖がってるから、騒ぐなら出て行って。
ラスク(肩をつかんで揺さぶる)
……なぁ、お前。本当に忘れちまったのか?
ショコラ(戸惑う)
え、あの……私、何か忘れたの? 何も覚えてなくて……
ラスク
俺のことも、ノエルのことも、覚えてないのか?
ショコラ
ごめんなさい
ラスク
……また来る
ノエル
ごめんね、ショコラ。びっくりしたよね。
ショコラ
ノエル、私、何を忘れたの?
ノエル
ショコラは知らなくていいんだよ。
ショコラ
でも!
ノエル
君はそのままでいいんだよ。
シーン3
BGM:ジングル
ノエル(語り)
走っても追いかけても君はいなくなって……。ここは僕の箱庭。
ラスク(畑を耕しながら)
っし、そろそろジャガイモ収穫できそうだな。ん? あれは……
ショコラ
あ、ラスクさん!
ラスク
よお
ショコラ
お仕事ですか?
ラスク
まーなー。お前は、一人で外出てんのか?
ショコラ
はい!
ラスク
ノエルは何も言ってこねぇの?
ショコラ
ノエルですか? 特に何も。
ラスク
そっか
ショコラ
あのラスクさん。私、ノエルと知り合いだったんですよね?
ラスク
あー、まー、そだな
ショコラ
どうして忘れたりしたのか、知ってますか?
ラスク
知らねぇよ。けどお前は、箱庭の外に出たいってずっと言ってた。
ショコラ
外に?
ラスク
ここの外がどうなってるかは誰も知らない。けど、お前はやたらと外に興味持ってて、ノエルが止めるのを聞かず外にいく門に近づいてた。
ショコラ
門ってどこにあるんです?
ラスク
……連れてってやるよ。
ショコラ
ここが門?
ラスク
身を乗り出すなよ、落ちるぞ。
ショコラ
うわあ、すごいです。外の世界、キラキラしてます!
ラスク
ああ。そうやってお前はいつでも外を眺めてた。何が面白いんだか。
ショコラ
楽しいですよ。ほら、あそこに咲いてる花とか、きれいです!
ラスク
ふーん。そんなもんか? ほしいならとってやるよ……よっと!
ショコラ
あ、危ないですよ!
ラスク
大丈夫大丈夫! この花がほしいんだろ。
ショコラ
でも……
ラスク(風に吹かれ崖に落ちかける)
あ?
ショコラ
ラスクさん!
ラスク(崖で引っかかる)
あっぶ、ねー。落ちてはねぇみてーだけど、時間の問題だな。
ショコラ
ラスクさん、手を伸ばしてください!
ラスク
そこからじゃ届かないって。
ショコラ
でも! あの……私、ノエルを呼んできます! だから、待っててください!
ラスク(独り言)
……行っちまった。なんだよ、余計なこと言うなってのか? っは、お優しい事だな。くたばれバカ野郎。
シーン4
BGM:ジングル
ショコラ(語り)
柔らかくて暖かくて抱きしめたらつぶれる……。ここは私の箱庭。
ノエル
エンジェルグラッセ ~箱庭の恋~
ショコラ
ノエル、こっち!
ノエル
もう! 門の近くは危ないってわかってるのにラスクは!
ショコラ
ここに……あれ? ラスクさん、いない
ノエル
どこにいたの?
ショコラ
あそこの木に引っかかってたはずなのに
ノエル(走り出す)
……まさか
ショコラ
ノエル!?
ノエル
ショコラは家に帰ってて
ショコラ
私も一緒にいく!
ノエル
でも……
ショコラ(お願いする)
お願い!
ノエル
……分かった。ついておいで
(間)
ショコラ
ここは?
ノエル
廃棄場
ショコラ
はいきば?
ノエル
ショコラ、はぐれないでね
ショコラ
うん
ノエル
ここはね。動かなくなったら連れてこられるところなんだ。
ショコラ
え?
ノエル
僕らは動かなくなったらここに連れてこられて、新しい体を渡される。もしラスクがあのまま外の世界に落ちたのなら、ここにいるはずだよ。ああ、やっぱり……
ショコラ
ラスクさん
ノエル
ラスクは落ちたんだね。外の世界に
ショコラ
私のせいで
ノエル
違うよ。ショコラのせいじゃない
ショコラ
でも!
ノエル
おいでショコラ。ここにいない方がいいよ
ショコラ(視線の先に自分と同じ体)
でも……あれは
ノエル(強く)
っ、見ちゃだめだ!
ショコラ
あれは。私だ
シーン5
BGM:ジングル
ノエル(語り)
目を閉じて耳を塞いで、口をつぐんで。ここが僕らの箱庭。
ショコラ
エンジェルグラッセ ~箱庭の恋~
ノエル(家でショコラに淹れながら)
はい、熱いから気を付けてね
ショコラ
ショコラを入れてくれたの?
ノエル
君はこれが好きだったから
ショコラ
うん
ノエル
……僕らはね、替えがきく存在なんだ。壊れたら、新しい子が来るようになってる
ショコラ
ラスクさんも?
ノエル
うん、ラスクも。いや、もうラスクじゃないか
ショコラ
え?
ノエル
来たみたいだよ
(扉が勢いよく開く音)
ラスク(元気よく)
よぉー、初めましてーお隣さん!
ショコラ
ラスクさん!?
ラスク
んん? 俺はラスクって名前なのか?
ノエル
初めまして。君はドルチェって言うんだよ
ラスク
どる?
ノエル
ドルチェ
ラスク
ドルチェ、ドルチェ。うっし、覚えたぜ! しっかしここは田舎だよなー。暇だぜ! 何かないか?
ノエル
君の畑があるはずだから。耕してみたらどうかな
ラスク
畑か、いいね! ミニトマトでも植えるか~。んじゃなー
ノエル
うん。またね
ショコラ
ノエル?
ノエル
ラスクにそっくりでしょ? でも何も覚えてないんだ。僕の事も、君の事も
ショコラ
壊れたから?
ノエル
うん、壊れたから
ショコラ
……私も、壊れたの?
ノエル
……
ショコラ
はじめてノエルに会ったとき、私に名前をくれたよね
ノエル
……そうだね
ショコラ
私は外の世界に出て行って壊れたの?
ノエル
どうして知って! ……ラスクだね
ショコラ
私はいつも外の世界に興味があったって聞いたの
ノエル
うん。君はいつも外に出たがってた。僕にもいつも、外に出ようって話しかけてきて
ショコラ
でもノエルは首を縦に振らなかったんだ。だから私は一人で外にでて壊れた
ノエル
僕は、外の世界が怖いんだ。みんなは綺麗だって言うけど、怖くて。何度も君が……
ショコラ
……ねぇノエル。私は何人目なのかな
ノエル(驚き)
! ……君は
ショコラ
私は何人目?
ノエル
君は四人目だよ、ショコラ
シーン6
BGM:ジングル
ショコラ(語り)
淡く優しく怖がらないように閉じ込めて。ここが私たちの箱庭。
ノエル
エンジェルグラッセ ~箱庭の恋~
ショコラ
どうして名前を変えるの?
ノエル
違うからだよ。どれだけ似ていても、前の子とは違う存在だから
ショコラ
でも、初めましての私にノエルは優しくしてくれたでしょ?
ノエル
それは、僕が君を。僕は、君を……
ショコラ
……おいて行って、ごめんね
ノエル
違うんだ! 君は何度も僕を誘ってくれた。けど、君が壊れて記憶のないまっさらな状態で返ってくる度にもっと怖くなって。いつも僕は君の手を放すんだ
ショコラ
うん
ノエル
何度止めても君は外の世界に行ってしまう
ショコラ
そうなんだ
ノエル
ショコラも外と世界に興味があるんでしょ? この箱庭から出ていきたいんでしょ?
ショコラ
ううん
ノエル
え?!
ショコラ
私はノエルとここにいたい
ノエル(驚き)
え? ほ、本当に!?
ショコラ
だって私、ノエルの事が大好きだから
ノエル
僕も! 僕も! 僕も君が好きだよ! ずっと、ずっと!
ショコラ
本当に? 嬉しいなぁ
ノエル
ね、絶対に行かない? 外の世界に
ショコラ
ノエルがいてくれるなら行かない
ノエル
うん。うん! ずっと一緒にいるよ
ショコラ
嬉しいなぁ
ノエル
わぁ、夢みたいだ。君がここに残ってくれるなんて
ショコラ
ノエルは外に行きたいって思わないの?
ノエル
最初は思ったんだけど、今は怖くて。かっこ悪いかな
ショコラ
ううん。そんなことないよ
ノエル
へへ。嬉しいな。あ、何か作ろっか。奮発してグラッセとか!
ショコラ
ノエルが作るものは何でもおいしいから、楽しみ!
ノエル
うん、待ってて。すぐに作るね!
(ノエルがお菓子を作り始める。ショコラはソファーに座りながら見ている)
ショコラ(語り)
ふふふ……やっと。やっと手にれた。ずっとほしかったの。あなたは私のもの。もう逃がさない。そう、ここは私たちだけの箱庭。
女A(外の世界で)
ねぇ、あれ? よく人形が壊れるジオラマって
女B
うん。そうなの。よく女の子の人形が落ちて壊れちゃうのよ
女A
ふーん。呪われてるとか?
女B
やめてよもー
女A
でも、女の子と一緒にいる男の子、幸せそうな顔だね
女B
そうだね。あ、もう閉館の時間だ
女A
帰りに本屋寄っていい?
女B
いーよー
(電気が消える)
エンジェルグラッセ 声劇台本 塚原蒔絵 @tukahara_makie
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます