肌の密度
@29tavel
肌の密度
薄暗い部屋、何でそうなったか全くわからない、思い出すのも面倒なくらい気怠く溶けた脳みそは1ミリも使い物にならなくて、ただ触れ合う肌の感触だけが驚くほど心地良く、俗に聞く「肌が合う」という表現はこの感覚を言語化するためにあるんだとわかった。互いに何も話さず、息だけで会話をしていた。さっき数時間前まで尽きることなくお喋りをしていたことなんてまるで忘れてしまったかのようだった。どうして私は彼の隣に寝そべった?どうして彼は電気を消した?互いに服は着たままだけど、私はノースリーブのワンピースで、彼は半袖だったから、あとはもう体を重ね合うだけで肌の質感を感じ合うには十分だった。
もう何十分もそのままただ静かに重なり合っているだけだったから、触れ合っている部分が少し湿気を帯び、微かな汗の匂いを発した。私の視線はずっと虚空を泳いでいた。壁に飾られている外国の風景のポスター、本棚、暗いままのテレビ、洗い物の放置されたシンク……。中でも本棚の左端にある小説が、私がつい最近薦めたものだったのを見つけて、彼の身体に絡ませている腕と足の力が自然ときつくなるのを感じた。ずっと前に、彼と話していて思ったこと、心がこんなに合うのなら体はどんなに合うだろう、と。私たちの関係に存在してはいけない、一度は振り払ったはずの危険な思考が再び、このタイミングで蘇った。この3年間、一度だって壊れなかった透明な壁が、今はまるで最初から存在していないかのように溶けて消えてなくなってしまった。彼の身体は思ったより暖かく熱を帯びていた。汗の1つも書きそうにないと思っていたのに、触れ合っている部分はじっとりと汗で湿っている。
遠慮がちに、彼の手が私の髪を撫でる。彼の息の音が、踏み込むか、やめるべきか、迷っている。じれったくなって私は軽く、一瞬だけキスをした。味見をするようなキスだった。すると、彼は素早くうつむいた。そのまま、決まりの悪い空気がしばらく流れた。その間私は、私の太ももに当たる違和感に、触れるべきか、やめるべきか、迷っていた。その感触は、私の額に突如氷水が降ってきたみたいに、迅速に私を現実へと引き戻した。
「ごめん」
「こんなのって、生殺しだよ」
絞り出したような彼の声に、私は胸が苦しくなった。
肌の密度 @29tavel
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