祝う時はしっかりと

石田空

ドラマ化発表直前に

「人気作家冴草野バラの代表作、遂にドラマ化!」


 宣伝を派手に打ち上げ、出演陣も人気配役で固めた。プロデューサーは遣り手と言われる人間であり、これで成功しないのはそれ以前の問題だろうと言われていたが。

 よりによってそれ以前の問題が浮上してしまった。


「……冴草先生に盗作疑惑?」

「はい」


 彼女が書いたのは、最近流行りのモキュメンタリーにイヤミスを合わせた小説。それは散文形式で語られたものだったが。

 それが既に発表された自主出版の電子書籍と類似点が多過ぎるという。

 最初にその疑惑が上げられたのは、匿名掲示板であった。


【冴草野バラの新作、これ立川るるなの電書に似てる奴なかった?】


 匿名掲示板の中でも文芸板は他の掲示板と違い、ただ文芸の話だけ語っているという比較的治安のいい場所であり、自分の知識量でマウント合戦をしたり、アンチ作家の話題で盛り上がらない限りは炎上しようもない掲示板だったが。

 こと盗作に関しては荒れるものだから、よっぽどのことがない限りは話題にすることがなかった。


【マジで? どの電書?】

【立川るるなが平成に出した電書『きらめき☆バイブル』と今回冴草野バラの出した新作の『神山町の亡霊』と固有名詞が似通ってる】

【アイディア自体には著作権ないけど、固有名詞が似てるのはなあ】

【ちょっと待って、『きらバイ』と『神山町』の冒頭、書き方が一人称か散文かの違いだけで、ほぼ同じだぞ】

【マジで?】

【確認したが、これ割と言い訳にならんレベルだが。


○きらバイ


 おじいちゃん家に引っ越すことになったのは他でもない。

 親の離婚が原因で、どちらも私の親権を捨てたいからと、おじいちゃんに私のことを押しつけてしまったからである。

 うるせえ、知らねえ、もうあいつらのことは親でもなんでもねえ。そう考えないとやってられなかった。


○神山町


 語り手が祖父の地元に引っ越すことになったのは他でもない。

 親が離婚の末に親権放棄した末、語り手の親権を拾ったのが祖父以外にいなかったのである。

 戸籍の上でも他人になった以上しょうがないと、諦める他なかった。】

【書き方替えてるだけで、ほぼ同じ冒頭だし、内容も書き方変えてるだけで、これほとんど同じと言っても差し支えないのに、これ誰も気付かなかったん?】

【自主電書化の作品を全部チェックしてる出版社とかある訳ねえだろ。手元の原稿だけで精一杯だわ】

【冴草野バラが盗作作家だとバレて草。あいつ今まではアイディアやちょっと名称が被るくらいだからパクッてるとわからなかっただけで、ほぼほぼオリジナリティなかったじゃん】

【デリカシーない奴が売れっ子作家面されると迷惑。マジで消えてほしい】


 文芸板だけで、どんどん炎上は加速していったが。

 その加速していったのを観測していた他の板の住民たちがどんどんそのスレのことを話題にし、アフィリエイトブログなどもその板の加速っぷりを確認してからブログの話題を転載するようになり、とうとうテレビ局でも関与しないといけないほどに炎上が膨れ上がってしまったのである。


「今、主演俳優の事務所から問い合わせがあったんですが。【これ本当ですか?】と」

「これはさすがに、作者ふたりから話を聞かないことにはわからないんですが。今『神山町の亡霊』の出版社サイドと、立川るるな氏本人に確認を取っています」

「どうしますか? 立川るるな氏に口止め料を支払った上で、盗作じゃないと宣言してもらうとか……」

「無理だと思いますよ。あの手の連中は、意識がとにかく高く、自分の作品が盗作されたと判断したら、烈火のごとく怒りますし、被害妄想に陥りますから。下手にこちらが盗作じゃないと言えと揺すぶりをかけたら最後、こちらに口止めしろと言われたとSNSに燃料を投下しかねません」


 立川るるなは冴草野バラより遅れてデビューが決まったものの、自主制作で各電子書店で電子書籍を発表し続けていた人間なのだから、プライドがとにかく高い。下手なことを言って迫るよりも、ドラマ化進行を進めてもいいとなんとか言質を取ったほうが早い。言質を取るということは、契約を結ぶこととほぼ同義語なのだから。

 冴草野バラの出版社が沈黙している中、立川るるなと接触し、話し合いの場に持ち込むことには成功した。意外なことに、立川るるなはすぐに応じてくれたが。

 そのとき、彼女が持ち込んできたもので、事態はもっと深刻だと思い知らされた。


「今回は招待してくださりありがとうございます」

「いえ。あなたの作品の盗作疑惑が浮上しまして、正直驚きました。ただ、おふたりは調べた限り、同郷なのですから、同じような作品が浮かぶのも致し方なしと思ったんですよ。おふたりは同じ小学校、中学校出身で、受験で通う高校が変わったものの、ずっと同じ町に住んでました……そうですよね?」

「すごいですね。テレビ局ってもうオールドメディアと呼ばれてますのに、興信所に頼めばそこまで調べてくださるんですね?」


 彼女に揺すぶりをかければ、すぐにボロを出すかと思いきや、立川るるなはペンネームやタイトルのリリカルさに反比例して、やけに喧嘩の対応に慣れていた。むしろ煽るような言動ばかり取る。

 たっぷりのレースの付いたワンピースに、全く透けないタイツにファンシーなブーツ。最近流行りの地雷系というよりも、ロリィタファッションに身を包んだ彼女はにこやかに微笑んでいる。自分の世界に入り込んでいるタイプかと思いきや、彼女はどうもそういうタイプではないらしかった。


「彼女は私の中ではただひとり、小説を書いていることを伝えている友達でした。彼女は私のことを友達と思っていたのかわからないんですけどね。彼女には学生時代から、いろんな小説を読んでもらっていたんです」


 彼女が取り出したのは、シャーペン書きのノートだった。そしてもう一冊。それは冴草野バラのデビュー作であった。


「彼女にとって、私のことは都合のいい友達だったんでしょうね。私が受賞作を書いてるのを、下読みして、たくさんアドバイスをくれたんですよ。もっとキャラをわかりやすくしたほうがいいとか。もっと話の流れを意識したほうがいいとか。中には私がん? と思うようなアドバイスもありましたが、私のためを思ってしてくれたことが嬉しくて、その年の公募は捨てて、来年に向けて送ることにしたんですが。彼女は私の作品をそのまんま使ってデビューしてしまいました。私はアイディア帳を持って、出版社に一度問い合わせました。これは私の作品だと。取り合ってもらえませんでしたね。今呼んでもらいたいんですが。これは彼女の作品ですか? それとも、私の作品ですか?」


 彼女の身辺調査をした限り、彼女は思い込みの激しさでトラブルを起こしたことがない。むしろ、盗作被害を受けた中、沸々と怒りを溜め込み、自主制作でなんとか発散させていたものの、その怒りをずっと忘れていなかった人間だ。

 デビュー作を読む。デビュー作のライトミステリーは、甘酸っぱい青春群像劇とおぞましい連続殺人事件がミルフィーユ状に重なった極上の学園ノワールだ。その年の賞では満場一致でデビューしたはずだが。

 その作品の肝になる学園まるごと入れ替えトリックの概要が、全て彼女のアイディア帳に事細かく書かれているものと一致していた。しかも丁寧に、そのアイディア帳には全て日付が書かれていた。

 どう考えても、その公募に向けて溜めていたアイディアだというのがわかる。ドラマの美術担当であったのなら、アイディア帳を古めかしくつくって捏造するなんて芸当いくらでもできるだろうが。彼女の証言と彼女の遍歴、そして冴草野バラの遍歴と作品について、一致している点が多過ぎる。


「一度持ち帰らせてください。また連絡します」

「どうぞ。ただひとつだけ約束してください」

「はい」


 彼女は胸元に差していたペンをカチャカチャと触った……隠しマイクであった。今までの話も彼女の演説も全て録音済みだということだ。


「私はただ、あの作品は私の作品の盗作だと言いたいだけ。一度ならずとも二度もするのはどうなのかと抗議したいだけなんです。くれぐれも野バラ先生によろしくお伝えくださいませ。ドラマ化おめでとうございますと、どうかお伝えくださいませ」

「……一応確認しますが、こちらが盗作だという意見を取り下げてくれと言った場合はどうしますか?」

「黙秘します。下手なことを言ってしまったら、本当のことがなかったことにされてしまいますから。私はこれからも作品を発表します。彼女もどうか盗作の意見を払拭できるよう励んで欲しいだけなんです」


 そう立川るるなは謳うように言った。

 それにぞっとする。彼女の言葉に嘘はない。だが本当のことも言っていない。ただ彼女は言葉を使わず怒りを表現しただけだった。


(冴草野バラは、とんでもない相手に憧れた挙げ句に怒らせたんじゃ……)


 ただただ、頭が痛かった。


<了>

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祝う時はしっかりと 石田空 @soraisida

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