異世界に召喚されたけど、全員ちょっとバカだった

なおや ゆかり

第1話召喚されたけど、説明が雑すぎる

目を開けた瞬間、俺は石造りの広間のど真ん中に立っていた。

 ……いや、立たされていた、が正しいか。

「おお! 来たか、勇者よ!」

 玉座にふんぞり返った王様っぽいおじさんが、やたらいい声で叫ぶ。

 マントが長い。床に引きずっている。絶対踏む。

「えっと……ここどこですか?」

「異世界だ!」

「いやそれは分かるんですけど」

 分かる。床が石だし、天井が高いし、妙にファンタジーだ。

 問題はそこじゃない。

「勇者よ! そなたはこの世界を救うため――」

「ちょっといいですか」

「む?」

「説明、早くないです?」

 王様が一瞬止まる。

 隣にいたヒゲの長い神官が、小さく咳払いをした。

「あー……では、改めて。まずはこの世界の成り立ちから――」

「それ長いやつですよね」

「え?」

「どうせ三千年前がどうとか、光と闇がどうとか、そういう」

 神官が困った顔で王様を見る。

 王様はうーん、と腕を組んだ。

「……合っておる」

「合ってるんだ」

 この世界、嫌な予感しかしない。

「ともかく! そなたは勇者として召喚された!」

「何するんですか」

「魔王を倒す!」

「魔王どこですか」

「知らん!」

 即答だった。

「知らんって……」

「最近、城から出てこなくてな」

「引きこもりなんですか」

「まあ、そんな感じだ」

 さらっと言うな。

 俺が言葉を失っていると、横からローブ姿の少女が進み出てきた。

 多分、魔法使い。

「だ、大丈夫です! 私が魔法で案内しますから!」

 そう言って杖を振り上げる。

「えいっ!」

 ――バチッ。

 火花が散って、杖の先が折れた。

「……あ」

「今の失敗ですよね?」

「えっと、その……練習では成功したんですけど……」

「本番弱いタイプか」

 さらに後ろから、鎧を着た騎士が胸を張った。

「安心しろ! 俺が守る!」

「強いんですか?」

「昨日、剣を忘れた」

「今日もですか?」

「うむ!」

 満面の笑みで言うな。

 俺は深く息を吸って、吐いた。

「すみません、一ついいですか」

「なんだ、勇者よ」

「この世界、全体的にちょっとバカじゃないですか?」

 広間が静まり返る。

 王様は少し考えてから、にこやかに笑った。

「……よく言われる」

 言われてるんだ。

 こうして俺は、

 設定だけは壮大で、運営が雑な異世界に放り込まれたのだった。

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