腹黒悪役令嬢なのに、嫌がらせが全部「功績」に変換されます(最悪ですわ)
ヒトカケラ。
第1話 編入式で潰すつもりが、奉仕活動総監にされました
聖女候補が学園に来る——そう聞いた瞬間、私は笑っていた。
公爵令嬢ロザリア・ヴァレンシュタイン。王立アストリア学園の、悪役は私ですわ。
編入式の裏で、特待生リネットは走っていた。腕に木箱、裾に泥。壇上に上がる前に汗と汚れでみっともない姿を晒せば、評判は落ちる。
ふふ。嫌がらせ第一号、準備完了ですわ。
「……私、奉仕に呼ばれて……!」
追いついた私の前で、リネットは胸元で手を握り、怯えながらも一歩踏み出した。素直で、折れやすい。だから折る。
「奉仕? 式があるのに、随分と不用心ですこと」
「で、でも、式が……遅れたら……」
「遅刻は自己管理不足です。——逃げ道はありませんわ」
黒檀扇で口元を隠す。黒曜インクのペン先が、紙を刺した。奉仕委員会の配置表。名前の並びを、公平に整える。
特待生。泥仕事。早朝。重労働。さらに——学園長の視察日。
コノが横で囁いた。
「お嬢様、さすがに……」
「当然ですわ」
「当然で最悪、ですね……」
聖女候補の選定? 白光神殿の光適性測定? 数字など、針一本で動く。
(潰すには、まず孤立)
(孤立には、泥が一番)
奉仕腕章を、リネットの腕へ押し付ける。
「これを付けなさい」
「は、はい……!」
震えた声。焦りの匂い。いい香りですわ。
◆
早朝。奉仕の現場は湿っていた。鍋の湯気、床の泥、行き交う足音。リネットは膝まで汚れ、笑う余裕すらない。
まだ折れていない。だから、折る。
私は監督者の腕章を付け直し、机に『奉仕活動台帳』を置いた。
「奉仕台帳を見せなさい」
「こ、こちらに……」
リネットの指先が震える。だが視線は逸らさない。意地はあるらしい。
「遅配欄が空白ですわ」
「え……?」
「空白は怠慢です。記録しなさい。——それから、配給は三列。在庫は二人で照合。鍋は交代制」
黒曜インクが紙に走る。逃げ道を、ひとつずつ埋める。
「重労働は輪番。特待生も例外なし」
「……私、できます……!」
屈辱で頬が赤いのか、必死で赤いのか。どちらでも良い。疲れればミスをする。ミスは責任を生む。責任は評判を落とす。
完璧な段取りで、息継ぎの場所ごと締め上げる。
——一時間後。
配給の遅れ、ゼロ。苦情は前週比で激減。現場が、回ってしまった。
奉仕担当教員が呟く。
「……厳しいのに、回る」
職員が頷いた。
「公平、ってこういう……」
誤解が甘い。
その時、学園長が現場に来た。
「報告を」
「は、はい! こちらが奉仕台帳です!」
リネットが台帳を差し出す。私は黒檀扇で口元を隠し、内心で舌打ちした。
(最悪。嫌がらせのはずが、罠の数が増えていく)
◆
編入式。大講堂。光の紋章旗が揺れ、拍手の練習が壁を震わせる。
リネットは壇上の端に立っていた。泥は落ち、髪は少し湿っている。——まだ足りない。もっと惨めに、のはずが。
学園長オズワルドが、静かに告げた。
「本日、編入する特待生を迎える」
「同時に、学園の名誉に関わる。奉仕現場の不正を正した者を称える」
やめて。称えるな。それは私の地雷ですわ。
学園長は一枚の文書を掲げた。
「遅配、ゼロ。苦情、減少。標準化が完了した」
どよめき。拍手。視線が私へ集まる。善意扱い。英雄扱い。任命の匂い。
喉が乾いた。黒檀扇の裏で、唇を噛む。
「ロザリア・ヴァレンシュタイン。前へ」
コノが小声で言う。
「逃げてください」
「逃げ道は、閉じましたわ」
私は歩く。《黒薔薇の封印花》が冷たく揺れた。封印具——祖父の遺物。今は関係ない。今は、潰す。
学園長の視線が刺さる。冷酷な正論の視線。
「奉仕活動総監に任命する」
「毎月、現場を監査せよ。奉仕台帳を提出せよ」
檻が完成していく音がした。
リネットが息を呑み、胸元で手を握って一歩前へ出る。
「ありがとうございます……! 私、頑張ります……!」
……なぜ礼を言う。潰されに来たのではなくて?
奉仕担当教員が頭を下げ、職員が目を潤ませ、令嬢たちが囁き合う。
「公爵令嬢が、学園のために……」
「公平な方だわ」
「黒薔薇さま……怖いのに、正しい……!」
守っているのではない。縛っているだけですわ。
拍手が波になり、私の背中を押して、逃げられない位置へ固定する。
学園長「学園の名誉を守ったのは公爵令嬢だ」
奉仕活動総監(毎月の現場監査・台帳提出義務)
「嫌がらせ第一号、成功ですわ」
【学園長通達『任命書』】
任命:奉仕活動総監 ロザリア・ヴァレンシュタイン
義務:『奉仕活動台帳』の月次提出
備考:指名解除は理事会決議による
炊き出しに縛って、学園で息をする暇を奪う
腹黒悪役令嬢なのに、嫌がらせが全部「功績」に変換されます(最悪ですわ) ヒトカケラ。 @hitokakera
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