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あの場所に行けば必ず手に入ると分かっていても、敢えてその場所から離れたところで欲しがる癖がある。其れは多分、分かりきった事よりも冒険したいという私の願望か一摘み。あとは保険を掛けたいだとか、此処に執着する必要性はないと自分に言い聞かせる為なのだと思う。

破滅願望を持ちながらも、まだ何処かで生き延びたいと、そう思っているらしい。


今日はカプセルトイを回すと決めていた。これは大いなる偏見であるが、カプセルトイは何が出るか分からないし、同じ金額を出すのならば、店頭に並んでいる物の方が、質が高く、また実用的だと思っているが、何故か私の心に火がついてしまった様である。

コスメのミニチュアが欲しい。夜用コンパクトが可愛い。何なら使っている物もお迎えしたい。そんな出来事が日を追う事に強くなり、結局手に負えなくなって、町に繰り出す事になった。

結果、被りは一つ。他は全てコンプするというある意味幸運な事が起きた。しかし一番欲しくて仕方がない物だけはやはり手に入らなかった。

目当てのものが欲しくて、それなりに回してしまったが、一回三百円。二百円で出来るところなんか殆どないし、寧ろかなり良心的な気がする。

其れはそれとして、本家大元のコスメを買った方が会社に貢献出来るし、使用するし、無駄にはならない。無駄な事をするんじゃないと、脳みそが警報を鳴らし続けている。

それでもやはり、私にいろはを教えた物が使用終わりに捨てられない事を考えると、つい手が伸びてしまうものである。

まだ時間が余っていたので、ふらふらと道を歩きながら、書店を目指す。お気に入りの雑貨屋も、コスメ雑貨専門店も閉まっていたので、特に寄り道する事もなく書店に着いた。

此処に来るとつい求めてしまう本がある。ある本の、ある一節を探したくて、何度も此処に来ては其れを探してしまう。が、未だに見つけられずにいる。

今日もまた本だなの前に立ち、頁をぱらぱらと捲る。が、読んだこともない文庫本から、フェアで掲げられた、ある一節を見つけ出すのは至難の業であった。

もういっそ、購入してしまおうかな。家でゆっくり探そうかな。そう思って値段を確認すると、千円以下であった。今日回したカプセルトイの総計よりも安い金額。

……何を一体躊躇っているのか。カプセルトイを集めても、お前は引き出しの中に溜め込んで、使うことをしないじゃないか。眺めて愛おしむ事をしないじゃないか。その時の衝動に任せて、ただ我を忘れて破綻したいだけじゃないか。

分かっている。実用的だって。多分後悔しないって。あの街を描いた文庫本なのだから、例えあの一説が無くても後悔しないって。

こういう所かも知れない。本当に大切なものに逃げられるのは。


鏡花が俺の前に今日の戦利品を並べている。リップやアイシャドウ等のコスメのミニチュアトイである。

「……何か回しちゃって」

前々から『〇ャンメイクのミニチュアが欲しい!! 初心忘れたくない』等と妄言を放っていたが、まさか一、二回で終わらせなかったとは……。

「で、欲しいものは?」

「……」

聞いて欲しくない様だ。

「お前、変に衝動的なところあるよな」

一度火がつくと止まらないというか。

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