第5話 可愛いは罪

私がルクシア・ノクティスとして生まれてから、しばらくが経った。


 最近の悩みは一つだけある。


(……みんな、距離が近い)


「ルクシア、今日もよく眠れたか」


 そう言って私を抱き上げるのは、父――アレクシス・ノクティス。

 威厳ある公爵であり、この国でも指折りの実力者……のはずなのに。


「……本当に、可愛いな」


(今、顔ゆるんでません?)


 低い声でそう呟く父の表情は、完全に父親のそれだった。


「あなた、またそうやって見つめて……」


 くすりと笑いながら近づいてくるのは、母――セレナ・ノクティス。

 長い髪と整った顔立ちを持つ、誰が見ても分かる美形だ。


「ルクシアは可愛いの。仕方がないでしょう?」


「……否定はしない」


(即答!?)


 そんなやり取りを、私は腕の中からぼんやりと眺めていた。


 原作でのノクティス家は、冷たく、どこか距離のある家族だった。

 特に父は、娘に対してほとんど関心を示さない人物として描かれていたはず。


(なのに……)


「ほら、ルクシア様。ご機嫌ですね」


 乳母がそう言って微笑むと、侍女たちも一斉に頷く。


「本当に……このお方を見ていると、自然と笑顔になります」

「まるで、光そのもののようで……」


(それ、ちょっと大げさでは……)


 私が小さく指を動かすだけで、周囲がふわりと和む。

 声を出せば、すぐに誰かが応じる。


(嫌われないように、って決めたけど……

 これはもう、“嫌われない”を通り越してる気がする)


 そんな中、父が一つ咳払いをした。


「……そろそろ、魔力測定を行う」


 その言葉に、空気が少し引き締まる。


 この世界では、生まれて間もない頃に魔力の有無と属性を測る。

 それは、将来を左右する重要な儀式でもあった。


(来た……)


 淡い緊張が走る中、母が私の手をそっと包む。


「大丈夫よ、ルクシア」


 その声は、優しくて、迷いがない。


(……怖い、けど)


 原作を知っているからこそ分かる。

 ここが、運命の分かれ道だということを。


 測定用の魔導具が、静かに近づけられた。


 次の瞬間。


 ふわり、と。


 部屋の中に、見覚えのある淡い光が広がった。


「……やはり」


「この輝きは……」


 ざわめきが、一気に広がる。


 世界に一人しか存在しないはずの属性。

 それが、今――私の中に、確かに宿っている。


(……やっぱり、そうだよね)


 私は小さく目を瞬かせながら、胸の奥を意識した。


 この光が、

 これから私をどこへ連れていくのか――


 まだ、その答えは分からない。

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