幸せに、走馬灯。

一色 サラ

記憶と共に

 ロウソクを入れて、灯籠が回り、影絵が写しだされる。ゆっくり回転して4つ面を見せてくれる。絵と共に文字が1文字ずつ書かれている。絵はすべて馬だった。パラパラ漫画のように、馬が走っているように見える。

 文字が右上に少し大きく1文字ずつなので「是」「新 」「日」「々」と書かれている。どこから読むのが正解なのか分からず、調べてみると、『日々是新 』と読むらしい。 毎日が新たな始まりという意味らしく、過去に囚われず、毎日を新鮮気持ちでスタートさせることが大事らしい。

 夫から古希祝いに、渡されたものだ。70歳になって、毎日を新たな気持ちで生活をすることはとても難しいことなのに、なぜ彼はこんな物を私にくれた。そんな彼からの死に際の最後のプレゼントとなってしまった。末期の癌を患って、娘に頼んで、私に隠れて作成したらしい。娘曰く、自分の看病を終えて新たな気持ちで生活をしてほしいと意味で、『日々是新 』という思いを込めたらしい。

 辛い闘病生活を繰り返していたのに、弱音など吐くこともなく、テレビを見て一喜一憂して、将棋を同じ病室の人と楽しんでいる姿が、目に浮かんでくる。死が近づいていても彼はからず毎日を謳歌していた。

 お葬式が終わって、2週間後が私の誕生日だった。その時に娘から走馬灯という中国発祥の回る灯籠が渡された。娘から「お父さんは今まで、看病で疲れたお母さんに、この先は自分のしたいこを楽しんでほしいという意味で渡さしてほしいって言われた」と伝えられた。何を気を使っているのだろうと思ってしまう。けど、これも彼なりの優しさなのだろう。この先って、そんな長く生きたくはないけど、新たな気持ちで日々過ごすことが彼の供養にもなるのだったら仕方がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せに、走馬灯。 一色 サラ @Saku89make

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画