「彼」が「私」の食事を用意したので、朝の情報番組を聞き流しながら食べる様子を「彼」に見られる話

成瀬利人

「彼」が「私」の食事を用意したので、朝の情報番組を聞き流しながら食べる様子を「彼」に見られる話

『先日6日に遺体が発見されましたが、まだ■■■■■■■■が見つかっておらず、捜査が継続されているとのことです。』


 元は人間の肉声であるはずなのに、どうにも無機質に聞こえるそれを、私は聞き流しながら、朝食のトーストに口を付けた。


 普段の私は、決して、毎日朝食をとるほど几帳面な人間ではなかったので、久しぶりの朝食は、当然胃に重い。しかし、他人が…例え私の苦手な彼であっても、他人が作ったものを粗末にするような育ちの悪さでもなかったため、私は、ただひたすらに、それを口に運ぶ作業を繰り返した。


「おいしい?」


 そう声が掛けられたので、私は目線を挙げる。長い金髪の奥、微笑む男が、しかしその目だけは瞳孔を開かせたままこちらを見ていて、私は、すぐに目を逸らした。


 さながら、捕食者に見つめられる被食者の気分だった。或いは、私が捕食者で、彼がそれを捕らえた猟師なのかもしれない。…どうでもいいが。


「…全く。」


 私が数秒を掛けて、しかしそれだけを返すと、彼は、想定していたのか、くすくすと笑った。


 それを向けるべきは、私ではないだろうに。


「やっぱ素人じゃだめだよねぇ。でも、まだいっぱいあるから。」


 全部食べてね。


 そう流れるように続けた彼に、私は反応を示すのもばかばかしい気がしたので、食事を続けることで気を紛らわせた。それに、彼が、再び小さく笑う。


「反抗期かな、君は。」


「それはお前だ。」


 咄嗟にそう返してしまって、私は、嫌気がさした。


「…何年実家に帰ってないんだ、お前。」


「だって、」


 彼が、心外そうに眉を顰めた。開いていた瞳孔が少し収まって、私は、場違いな安堵を抱く。


「嫌だもん。跡継ぎとか、どうでもいいでしょ。」


 それに関しては、一般家庭出身の私には、何も言えないが。


「だから、これ・・か。」


 そう、私がフォークに刺さったそれを彼に突きつけると、彼は、「それは違うよ。」と、端正な顔を歪めて見せた。


「じゃあ、何で。」


「彼女に惹かれた君が、変わったから。」


「私のせいか。」


「そうだよ。」


 彼は、流れるように肯定したが、すぐに、「でも、」と続けた。


「君の『せい』じゃなくて、君の『ため』だから。」


 彼が、そううっそりとする。彼が、私の右手を取って、その手ごと、フォークの先端を私に向けた。


「食べて。君が責任を取りたいなら、彼女を全部食べて。」


「彼女が惚れていたのはお前だ。」


「うん、知ってる。」


 知ってて尚、これか。


 私は、それ以上続ける気力も削がれたので、目を閉じて、フォークに刺さった肉に向かって、口を開いた。



『尚、同行していたと思われる2名の行方は、未だ判明していません。』

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