着飾る女

@2Zhiroaka

正直な自分

私は、町一番の景色が見える海辺にいた。

晩夏の夕日が水平線の先に沈んで行くのをボーっと見ながら、何をしているのだろうと思う。


「夕日綺麗だね潤くん!」

「そうだね、でも君には劣るよ」

「もー!」


小さな島には生憎カップルデートに適したスポットはここくらいしかなく、ここがカップルのたまり場になるのは必然だった。

かく言う私も隣に想い人がいる―訳ではない。

横ではしゃぐカップルを見せつけられながら先程の出来事を思い出す。


―ごめん、お前を女として見れないんだ

―もう、近づかないでくれ


五年間思い続けた彼は、私の告白に温度の感じない声で拒絶を示した。私は高校三年生の夏の果て、失恋を体験したのだ。


今までの人生で、壁にぶつかったことはなかった。勉強も運動も、人間関係だって自分が思うままに出来て、周りからはチヤホヤされていた。俗に言う天才というやつだと周りから言われ、自分もそうだと思ったほどだ。誰から見ても順風満帆な人生。しかし、それは5年前私が恋に落ちた時から崩れ落ちた。彼に夢中になり、心酔し、自分と無縁だった可愛さを求め続け、そのほかの全てが疎かになった。今までできていたことがいつの間にかできなくなり、周りの友達は気づかないうちに離れていった。恋は盲目とはよく言ったものだ。全てを失ってから、築き上げたものが大切な物だったと知った。


―私には彼しかいない


私は彼にさらにのめり込み、可愛さと愛嬌を育てた。いつか振り向いてくれると信じて。昔の性格を、見た目を、友達を、信用を、才能を捨てて、手に入れたのは。


「結果が、これかぁ……」


ザザーと押して引いていく波に飲まれて遠くに行きたかった。あわよくば、楽しかった昔へ。

そんな馬鹿なことを考えてしまうほどに気持ちは底まで沈んでいた。


「おい」


すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「……大吾」


彼は幼い時から遊んでいた幼なじみであり、唯一自分から離れていかなかった親友だ。この五年間親よりもお世話になった顔を見たら、思わず目が潤んでしまった。それを見てギョッと驚いた彼はポケットに入れていた手を彷徨わせてオロオロと動揺の声を出した。


「おい泣止めよー、一応女なんだからもうしわけなくなるだろ?」


そう苦言を零しつつ、私の隣に座って背中をポンポンと叩いてくれた。チラリと横目で彼を見ると、制服姿のままであることから、私と同じく学校から帰ってきたばかりなのだろう。彼の優しさにさらに涙腺は崩壊した。


「……そっかぁ。振られたか」


やっと泣き止んだ私は、今日の出来事を彼に説明した。彼はそれに同情するでも、バカにするでもなくただ頷いて愚痴を聞いてくれた。


「もう私には何も無い。これからどうすればいいのか、分からない……」


「うーん、そうだなぁ。お前の決定に文句があったわけじゃねぇけど、俺はお前が変わる必要はなかっと思うぜ?」


「なんで?」


「五年間前から、お前が辛そうにしてたから。いつの間にかお前は自分を欺いて生きるようになっちまった」


「だって、彼に好かれるには、こうするしか」


「お前昔から小心者だよな」


彼は昔から明朗な少年だ。いつだって私を引っ張り、道を示してくれた。恋に落ちたときに彼が私の隣にいればこんな未来にはなっていなかったかもしれない


「元の自分じゃ自信が無いからって、自分を曲げてどうすんだよ。男は黙って、正面からだろ」


「じゃあ、それで振られたら?」


「何言ってんだよ、昔のお前ならすぐに相手見つかるだろ。贅沢者め。安心してやってくればいいんだよ」


彼はなんて明るい人間なんだろう。自分の悩みが彼の言葉に浄化されていくようだった。


「そろそろ晩飯の時間だな。俺はもう行くわ」


「……うん」


気づけば夕日は海へ沈み、周りには人っこ一人いなかった。大吾はたって石垣の方へ去っていく。


「大吾!!」


背後からありったけの声を浴びせた私を大吾は驚いたように見つめ返した。


!もう正直に生きるから!」


そういうと、大吾はニカッと子供の頃から変わらない明るい笑顔になり、拳を俺に向かって突き出した。そうして今度こそ、大吾は夜の闇へと消えていく。


「これも……もういらないな」


自身が履いていたスカートを脱ぎ捨て、ハサミでバッサリ切り捨てた。


「さようなら」


俺は、波にさらわれた自分を探しに行く。




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