魔王様は現代人ですので。 ~転生したら魔王だったけど滅びたくないので堅実にやります~
第616特別情報大隊
払暁
……………………
──払暁
『ハーゼ01、ハーゼ01! 敵を視認! 繰り返す、敵を視認!』
アルトライヒ帝国東部の古都オストクローネを守る守備隊の一員であったハインリヒ・フォーゲル大尉は無線で友軍がそう叫ぶのを聞き、戦車のキューポラから身を乗り出して双眼鏡を覗き込んだ。
彼の乗車するヤグアール中戦車は魔王軍の主力とする戦車に十二分に抵抗できるようやく開発された戦車であった。
傾斜装甲を備えたその車体にはできる限りの偽装が施されており、迷彩塗装とカモフラージュネットが敵爆撃機からの認識を遅らせている。
そんな彼の乗る戦車はその車体を戦車用塹壕に潜って身を隠し、砲塔だけを地上に出してる。いわゆるダグインという状態だ。
こうすることで被弾面積を減らし、生存性を高めているのである。
このようにできることは全てやっておかなければ、東部戦線の戦車の生存率は極めて低いのが現状だ。
彼の戦車の周囲には友軍戦車が同様にダグインしており、さらに歩兵──と言ってもほとんどは寄せ集めの老人と子供の民兵──が塹壕を掘って陣地を構築している。
それは歩兵の規模は1個中隊程度であり、フォーゲル大尉が指揮する戦車部隊は14両と1個中隊規模。
それからそれら全ての戦車の口径75ミリ主砲は東の平野に向けられていた。
東──魔族たちの国があり、魔王軍が刻々と迫りつつある方角だ。
その東の方角から太陽がゆっくりと上し始めており、その明け方の薄っすらとした光がアルトライヒ帝国東部の雄大な自然と──迫る敵の姿をフォーゲル大尉たちの前に映し出し始めた。
「なんてこった」
それを見たフォーゲル大尉は思わずそうこぼす。
『敵が七分に陸地が三分、敵が七分に陸地が三分!』
無線が伝え始めたように地上は魔王軍に覆われていた。
短機関銃を握ったゴブリンが、ボルトアクション式小銃を握ったオークが、それを指揮する人狼たちに続いて津波のように迫ってくる。
まさに黒い津波だった。人海戦術という言葉を言葉通りにそっくり具現化した形だ。
その数は万を超えているのは確かだった。
「畜生、畜生。こっちはたったの1個中隊だぞ!」
フォーゲル大尉が悪態をつくのと同時に魔王軍の砲撃が始まった。
砲弾が友軍戦車の近くに着弾して臓腑を揺さぶる轟音を響かせる。
フォーゲル大尉は慌ててキューポラから車内に素早く滑り込み、ハッチをしっかりと閉じた。
初弾が着弾してから数十秒後に敵の全力の射撃が、効力射が降り注いだ。
フォーゲル大尉は魔王軍は火砲を信仰していると士官学校では教わっていた。
連中は魔王の次の火砲を信仰しており、魔王軍が恐ろしいのはその点であるとも彼は教わったし、この戦争でそのことを嫌というほど味わった。
魔王軍はとにかく砲撃を叩き込んでくる。引くときであれ、攻めるときであれ。
そんな魔王軍の攻勢準備射撃は永遠とも思われるほど長く続き、フォーゲル大尉はその真っ只中で気が狂いそうだった。
「終わってくれ、終わってくれ……!」
そう、彼は鋼鉄の車体の中で祈る。この戦車がそのまま彼の棺桶になる可能性も十分にあるのだ。
しかしながら砲撃が終わればいよいよ魔王軍が攻め込んでくる。
魔王軍の歩兵は砲撃が止まったと同時に塹壕に向けて突撃してきた。
砲撃で散々耕されたアルトライヒ帝国軍の塹壕から散発的な反撃が始まるが、そのようなちゃちな火力などものともせず魔王軍の歩兵たちは突撃してくる。
アルトライヒ帝国軍の機関銃が遅れて火を噴き始めるも、すぐにゴブリンの短機関銃による制圧射撃を浴びた。さらには魔王軍機関銃が反撃してきた。
それによって友軍機関銃は沈黙し、魔王軍はさらに前に前にと出る。
そうやってゴブリンたちが手榴弾を塹壕に向けて一斉に投擲し、オークの戦闘工兵たちが火炎放射器を持って前に出てきた。
彼らは塹壕を制圧しにかかったのだ。
手榴弾の爆発が生じ、火炎放射器が長いオレンジ色の炎を放って塹壕をなめる。
まるで第一次世界大戦の突撃隊を洗練したかのような戦術を、ゴブリンやオークたちは人狼の指揮下で執っていた。
しかし、魔王軍の戦力はそれだけではない。
『大規模な敵戦車及び自走砲が接近中! 警戒せよ!』
「来やがったな」
塹壕を超える最良の手段たる戦車を魔王軍もまた装備しているのだ。
フォーゲル大尉の守るオストクローネに迫るのは魔王軍の戦車1個連隊と自走砲1個大隊で数の上ではフォーゲル大尉にはどうしようもない。
「クソ。あれは85ミリを乗せた新型ですよ」
砲手がインカム越しに悪態をつく。
砲手の目に映るのはヤグアール中戦車より洗練されたデザインの戦車であり、彼らが識別表で叩き込まれた魔王軍の戦車であった。
その砲は大きく、装甲はやはり傾斜装甲であり、幅広い履帯を有している。
「そのようだ。出来る限りの抵抗をしてやろう」
フォーゲル大尉は死を覚悟した。
しかし、オストクローネからは今も戦火を逃れるために民間人が船で脱出してる。魔王軍にそれを妨害させるわけにはいかないのだ。
その中にはフォーゲル大尉の知り合いや家族もいる。
「射撃開始!」
そして、フォーゲル大尉が命令を叫ぶ。
どうしてこんなことになっちまったんだろうなと、そう思いながら。
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