セリング・カウンセ

阿部美春

第1話 カウンセリングにて①

 海を連想させる深い青色のネクタイをして白衣を着た男、ここらの海とは違う色だ。回転するキャスターの付いた椅子に座った人物から話を引き出している。

「その時は、どんな気持ちでしたか?」

 男が優しい声で尋ねると、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべながらこう言った。

「初めてのアルバイトだったんです。大学の夏休みで実家に帰っている時だけ働きたくて。その……、何となく、だったんです。どうせ暇しているなら働いてみようか、くらいの感じだったんです」

 落ち着いて放たれる言葉に、男は軽く頷きながらノートに何か記している。話をする人物は首が少し隠れるくらいの髪の長さで、白いTシャツにオーソドックスなチノパン、シンプルな服に華奢な身体のせいもあり、男女どちらにも見える。

「近所にお土産屋があったことを思い出して、ちょっと行ってみたんです。そしたら相変わらずそこに店はあって……、こんな言い方をしたら駄目ですよね」

 ちょっと遠慮がちに言葉が紡がれる事を気にかけて、

「大丈夫です、あなたの思った事をそのまま教えてください」

 その人物は落ち着いて、ゆっくりと、言葉を選ぶ。

「……久々に見た時、驚きました。だってすごいきれいな所に店があったんです。私、全然気が付いてなかったんだって。でもまあ当然と言えばそうかもです、地元の人間からしたら観光客しか行かない所って認識でしたから」

 相変わらず男は頷きながらノートに記す。

「離れてみて初めてわかるってこういう事なんですかね。国立大学なんか受かっちゃったから、……今までの景色が違って見えちゃうのかな。店の様子もよく見れば結構いい感じの、……廃墟っぽさがある、というか……」

 言葉が出なくなったタイミングで、男は優しい抑揚で尋ねた。

「前に教えて頂いたあの人とは、どんな関係だったと思いますか」

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