第8話 決意と冒険


朝の霧が森を覆い、静寂が辺りを支配する。

セリオ王子は茂みをかき分け、深く息を吸った。


「リアナ……絶対に信じてもらう」

昨日の誤解と別れが胸に刺さり、王子の決意を

固める。王族としての義務も、森の掟も関係ない。

今はただ、彼女の信頼を取り戻すことだけが

目標だった。


王宮からの圧力や兄オルデンの監視をかいくぐり、

王子は密かに森の奥深くへ足を踏み入れる。

枝葉が顔に触れ、湿った土が足を滑らせる。

だが、心は迷わない。森の息吹と彼女の笑顔

が道標となる。


「森は俺を導いてくれる……そう信じる」

王子は小川を飛び越え、倒木をまたぐ。

普段なら危険な場所も、今は冒険の一部だ。

リアナの笑顔を思い浮かべるたびに、胸が熱くなる。


森の奥深く、険しい崖に差し掛かる。風が強く

吹き、落ち葉が渦を巻く。セリオは足を止め、

周囲を見渡す。ここで引き返すわけにはいかない。


「ここから先は……危険だ」小声でつぶやく。

だが、王子の瞳は揺らがない。彼の心にあるのは

恐怖ではなく、決意だった。


森の闇の中、微かな光が揺れる。リアナの存在を

思い描き、王子は崖を慎重に降り始める。

足場は不安定で、石が崩れやすい。何度も

手を伸ばし、木の枝に掴まりながら進む。


「ここまで来れば……会える」

王子は息を整え、森の奥に広がる谷を見下ろす。

小川のせせらぎが谷底で光り、月明かりに反射する。

その先に、リアナの影がわずかに見える。


王子の心臓が高鳴る。全ての疲れや恐怖が消え、

ただ会いたいという想いだけが残る。


谷を渡るための古い木の橋。板は腐りかけ、

踏み外せば谷底まで落ちる危険があった。

だが、王子は一歩一歩慎重に進む。

「これで、すべてを伝えられる」


橋の途中で、木の板がきしむ。王子は一瞬

立ち止まり、深呼吸する。森の風が耳元で

囁く。恐怖ではなく、希望の声だと感じた。


谷を渡り切ると、リアナが立つ小さな広場に

到達する。月光に銀色の髪が輝き、彼女の

瞳は王子を捕らえる。だが、表情には不安がある。


「セリオ……危険なところまで」リアナの声は

震えていた。王子は息を整え、深く頭を下げる。


「誤解させてしまって……ごめん」王子の声には

真剣さと後悔が込められていた。

リアナは少し驚いた表情を浮かべ、王子の目を

見つめる。


「僕は君を守りたい、信じてほしい……」

その言葉は森の中で確かに響く。リアナの胸に、

少しずつ温かいものが広がった。


「……信じます」リアナの声は小さいが確かだった。

王子の手が彼女に近づく。触れる寸前、互いの

呼吸が重なる。森の静寂が二人を包み、時間が

止まったように感じられる。


危険な冒険を経て、信頼は再び結ばれた。

誤解の影は消え、友情以上の絆が生まれる。

王子は強く、しかし優しくリアナの手を握った。


森の木々がそよぎ、夜の風が二人の髪を揺らす。

月明かりの下、セリオは小さく微笑む。

「これからは、もう離さない」


リアナもまた微笑み、手を握り返す。

森の奥深く、冒険と決意が二人の絆を

形作った瞬間だった。


夜の森に静かな祝福が降り注ぐ。

二人だけの冒険は終わったのではない。

だが、誤解と試練を越え、互いを信じる力は

確かに育まれたのだ。


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