【短編】デジール・ウォンセンという男~遥か東の国に温泉と出汁を広めた男
優香猫
デジール・ウォンセン
ある寂れた漁村にその男は居た。
名をデジール・ウォンセンという。
男は漁で身体を痛めており、最近は漁に出られない日々が続いていた。
「腹が、減った。誰か食い物を恵んでくれないか?」
この漁村には数人の成人とその家族しかいない。限界集落と言われる村だ。
働かざる者、食うべからず。
何より年々取れる魚も減っており他人に恵んでやれるほどの余裕はどこの家庭にも無い。
「仕方がない、コレを食うしかないか」
男が食べようとしているのはゴミ。
この村では海のゴミと言われている海藻だった。それを鍋に入れ火にかけている。
「ゔぇっ!不味い!味が無い!ん?でも汁は旨い…ような気が…いや旨いなコレ!」
ゴミを旨そうに飲み干す男を村人はとうとう頭がおかしくなったと遠くから眺めていた。
男のゴミ食は止まらなかった。村人の家に出向いては魚のゴミ、魚の骨や頭を貰っては鍋に入れて飲んでいる。
「ゴミが旨いなんてな。何を入れても旨いのだろうか?…人間でも?俺を茹でてみたい」
そう思ったら止まらないのがこの男。
どうにかして自身が入れる鍋を探すが見当たらない。
「仕方がない、
あそことは山の上にある地獄。
熱湯が池を作り辺りは煙に覆われていて何より臭い。
例えるなら卵が腐ったような匂いだろうか。
その為誰も近寄らない場所だ。
「ここなら俺を茹でる事が出来そうだ!うぉぉ~!南無三!」
男は手を突っ込みちょうど手が赤くなるくらいの池に飛び込んだ!
「ゔぁ~!極楽極楽!」
地獄なのに極楽とはこれいかに。
男は気持ち良さが最高潮に達したかのような声を出し、自然と目を細め、軽く口が開き僅かに微笑んでいるようだ。
完全なるリラックスモード。
身体が温まるにつれて血行が良くなり頬がほんのり赤みを帯び始める。
「あれ?おっ!痛くない!肩が腰が膝が!痛くないぞ!痛くないぞ~!」
すぐさま村に帰り、地獄の良さを語るが誰も聞いてはくれない。
それはそうだろう、ゴミが旨い、地獄が最高だなんて嘘にしか聞こえない。
だがそんな男の話に興味を持ったのが商人だった。その商人は東の島国から世界中を巡り珍しい物を集めていると言う。
男は商人にゴミ汁を振る舞い、地獄へと案内した。
商人は「これは素晴らしい!一緒に私の国へ来ませんか?この汁を国に広めて欲しいのです!」
道中の食事と国での住み家、料理人としての仕事も保障してくれるという条件に飛び付き男は東の島国へと渡った。
「殿!こちらがこの国の未来を替える汁と地獄の湯の有効な利用法でございます!」
ここにたどり着くまでに試行錯誤を重ね黄金色に輝いている汁。
澄んだ汁には昆布や鰹節、素材の旨味が凝縮されており殿様を喜ばせた。
地獄の湯にも殿様自ら入り
「して、この汁と地獄の湯に名はあるのか」
「はい、こちらの発見者の名前。デジール・ウォンセンから取りまして、汁を『デジル』漢字では『出汁』こちらの読みで『だし』としました。地獄の湯は『オンセン』漢字では『温泉』であります!」
こうして東の島国に出汁と温泉が広まった背景にはデジール・ウォンセンが居たとか居ないとか。
諸説あるそうですよ。
【短編】デジール・ウォンセンという男~遥か東の国に温泉と出汁を広めた男 優香猫 @kaneyu8313
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