第12話『ショッピング』


「Hmm……Gutenおは Morgen よう.」


Gutenおは Morgen よう. Geh dein Gesicht って waschen こい.」


 朝起きると、ドイツ語で話してきたエマに俺は昨日と同じく顔を洗うよう勧める。だがしかし、


Hmmうーん……Das ist so lästig くさい!」


Echt マジ jetzt かよ……」


 まさかの断られた。そう来るとは思っていなかったため、俺は唖然としてしまう。だがすぐ切り替えて、


「ほら、起きろ。今日は土曜だけど、ずっと寝るのはダメだぞ」


やだぁ……」


 ――あ、俺が日本語で喋っても、ドイツ語で反応してくるのか。無意識にドイツ語を使っているのだろうか。


「やだじゃない。起きろ。もうこのまま洗面所連れていくからな」


 中々起きないエマを、俺は正面から抱っこする。

 すると、別に嫌がる様子もなく、俺の首に手を回してしがみついてきた。

 

「早く顔洗おうな」


 そう言って、俺は寝室を後にし、廊下を歩いて洗面所に入る。

 そしてエマを降ろすと、エマはそのまま水道を捻って水を出し、顔を洗い始めた。

 俺が渡したタオルで顔を拭くと、


「ふぅ、すっきりしたー。目もバッチリ覚めたよ!」


「はいはい良かったな」


 青い瞳をぱちくりさせて、目が覚めたことを表現するエマ。俺はそれに軽くだけ反応し、リビングに戻ろうとする。

 そしたら、


「ねぇれーくん、今日って何も予定ないよね?」


「え? うん。何もないけど」


「じゃあさ、買い物行こ!」



◆◇◆◇



 マンションから歩いて二十分くらいで着くショッピングセンターに、俺とエマは着いた。


 そのままエマに連れられて服屋に入ると、エマは目を輝かせて服を探し始める。


「何か欲しいのあるのか?」


「いや? 可愛い服ないかなーって思って!」


 そう言って、エマはルンルンと服コーナーを見ている。


「これ、どうかな?」


 エマが手に取って見せてきたのは、ただの青いチャック付きのパーカーだ。

 身体に当てて、俺が似合うかどうか言うのを待ってるようだ。


「まあ似合ってるだろ」


 そう返すと、エマは「そっかぁ」と言って、今度はどこかから白いシャツを取ってきて身体に合わせる。


「そんなに気になるなら試着してみれば? 身体に当てるだけじゃサイズもよく分からんだろ」


「あ! それもそうだね! じゃあ試着するから待っててね!」


 俺とエマは試着室の前まで来ると、エマはいくつか服を手に持って中に入り、カーテンを閉めた。


「ねぇれーくん」


 突然名前を呼ばれ、俺は「なんだ?」と返す。すると、


「覗いちゃダメだからね?」


「覗かねえよ」

 

 俺の答えにエマは「え〜」という声を出したのだが、そんなに信用出来ないのか。流石に俺は着替え中を除くなんて真似はしないし。


「はぁ」


 ため息をついていると、カーテンが開く。先程手に持っていた白いシャツと青いパーカーを一緒に来て、俺の前でくるっと回った。


「どうかな、似合ってる?」


「ああ、似合ってんじゃん。良いと思うぞ」


「ほんとにそう思ってる? なーんか適当に言ってる感があるなー」


 なんとも心外なことを言い出すものだ。俺としては本当に似合うと思って言っているのだが。

 それなのに、頬を膨らませて不満そうにするエマ。


「そんな顔されても似合ってるもんは似合ってるだろ? 嘘ついてないし俺」


「ほんとに?」


「マジ」


 そう答えた途端、不満そうだったエマは一気に笑顔になる。ほんと、表情がコロコロ変わるヤツだ。あまりにも笑顔が眩しく、俺は思わず目を逸らしてしまう。

 ――なんだこの感じは。



「ちょっとーなんで目を背けるのー?」


「ああ、悪いつい。――で、その服どうすんだ?」


「もちろん買うよ! れーくんが似合うって言ってくれたし!」


「ああ、そうしとけ」


 俺はそう素っ気なく返すと、エマは会計をしに向かっていった。



◆◇◆◇



「はぁぁ〜疲れたよぉ〜。でも楽しかった〜」


 帰り道、エマは俺の腕にぎゅっとしがみついて、買い物袋をぶら下げながら歩く。


「楽しかったなら良かったな」


「うん! れーくんも楽しかった? アタシとのデート!」


「デートなのかあれは……? まあ楽しかったよ。みなと以外と出かけたの結構久しぶりな気がするし」


 俺は地元から離れてるし、ショッピングモールに行く相手はそんなにいない。

 親友の湊とは何度も来たことはあるが、最近は彼女の優奈ゆなとイチャイチャしてやがるから俺と一緒に遊ぶのは少なくなるだろう。

 ――とはいえ、誘ったら誘ったで遊んでくれるだろうが。


 そんなことを考えていたら、エマが締める腕の力が上がった。


「ちょ、力強いなおい……」


「良いじゃん良いじゃん! ねぇ、今日の晩ご飯何にする?」


「カレー」


「れーくんってほんとにカレー好きだよねー。材料もあったしそうっしよっか!」


 そう言ってさらに力を込めてくるエマ。俺はもう何も言わず、マンションに向かってただ歩き続けた。


 

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