第11話 ビルの回数は朝と夜で違うんだよ

都会の必須条件になりつつある屹立とそびえたつビル群の中に、似たような見た目で同化してマンションがいくつも立ち並ぶ。その中で一番高いビルの前、住宅街で過ごしてきた俺は、ただ茫然と頂上階を見上げていた


「ここの18階にいるらしい」


俺を置いてあずきは淡々とガラス扉に近づいた


「浅田さんお金持ちだったんだ。言われてみれば、いつも放課後になるとコスメ買いにくとかばっか言ってたからなぁ」


中学校で一目見てから、今思えばずっと浅田さんが好きだった。中学のときは何も化粧もしてなかった素朴な淑女さで、高校に入ってからは急におしゃれしだして⋯⋯あの時は、俺の物でもないのにNTRされたように思って、一人家で鳴きながら〇〇〇ーしたなぁ⋯⋯


けど今じゃ、その作られた可愛さで楽しませてもらってるんだけどな


「故障してる」


楽しく浸る俺の回想をあずきの声が現実に戻す。見てみると⋯あずきがぴょんぴょんガラス扉の前で飛び跳ねていた


「⋯何してんだ?」


「自動ドアが故障してる」


言いながらもあずきは跳ねる。俺はくすりと笑い、あずきの頭をなでた


「これはねーあずきちゃん。暗証番号を打ってはいるやつだから、自動じゃないでちゅよー」


あずきの顔が日本人形のような童顔であることもあって、子供のようにあずきの頭をよしよしなで、ガラス扉の隣に置かれている、番号をゆびさす。


「そうなんだ」


いつもの声色で、頭に乗せた手を力の限りに握りつぶした


「あ〃ーーい〃ーごめんごめん冗談冗談」


悲鳴など耳どころか目もくれず、あずきは番号に近づく。12345数字順で番号を押した


もちろんエラーのアナウンスが流れるだけで開くことは無い。


すぐに真っ赤になった俺の手に息をかけて痛みをすこしでも紛らわせながら


「もしかして番号わかんない感じ?」


「⋯⋯作戦変更」


ガラス扉に入る人を重点的に監視するようこちらをさっきから睨んでいた監視カメラに発砲した。


弾丸は見事にレンズに当たり、カメラのガラス片が飛び散って落ちてくる


警報が行ってしまう⋯


あずきの頭に降り乗ったガラスなど、気にもせず、あずきはゴキゴキ首やら腕やらを鳴らす


するとあずきの肉がぐにゃぐにゃ変形し始めた⋯


来ていたボロの服も形や色を変え始め⋯⋯制服姿の女子高生へと姿を変えた


「あっ!山田君じゃん!!おひさー」


姿を変え終えたあずきは普段と全く変わった声高のギャル語で、俺に声をかける。その姿はクラスの一軍、高島さんだ


「あ⋯ど、どうも」


「なんでキョドってるのー?」


あずきは俺をじっと見たまま、


「中身は私だよ」いつもの静かで魂の無いような声で言った


「いや、お前ってわかってても、その⋯やっぱ見た目が高島さんだとやっぱきついっていうか。てかなんで顔変えたんだよ」


「浅田茉奈の友達の高島葵なら開けてくれると思って」


ならわざわざ声まで変えて俺にあいさつすることなかっただろ⋯⋯


せめてもの反撃のジト目であずきは見るも、あずきは気にする気配無く、再度ボタンを押す。少しして電話がつながった


「もしもし浅田ですが」


「やっほーうちだよー葵だよー」


「え、葵?どうしたの?今実家変えるって言ってなかった?」


「いやーマジ最悪でさーパパが仕事入っちゃってー。まぁ詳しいことは後で話すから入れてよー」


「いいけど、来ると思ってなかったから家めっちゃ汚いよ」


「全然大丈夫だよー。あ、そういえば新しくできた彼ピいるんだけど一緒に入れていいよねー?」


「前の人と違うの?」


「そうなんだよねーまぁ詳しいことは後々開けてー」


通話終了のアナウンス音が流れ、すぐにガラス扉は音もなく静かに開きだす。


完全な一軍会話を聞かされた挙句、なぜかあずきの彼氏として、今から浅田さんに会わなければならないと固まった俺にあずきはいつもの顔に戻して


「君は合わせてくれればいい」


静かにそういった


「あ、はい」


「あと、お前はただの家来だから。勘違いしないでね」


さらに静かに⋯さらに重い声で言い終わすと、高島さんとそっくりな声で鼻緒交じりに歩き出した

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