怪文書

藍崎蓮

怪文書

 《庭の甲羅の下では、絵は非常に鮮明であり、人々は幸せではありません、反対派の目、反対派の目、反対派の目、反対派の国会議員、計画、計画、そして日本の手。》


文書を読む。が、いつものごとく理解のできない内容である。この書類の山では、俺の探すものは見つからなかった。

「ここもハズレか。」

そう言って、俺は書物の山をあとにする。

「なかなか見つからないもんだな。」

本当に甘く見ていたと思っている。指定された書類を探すだけの簡単な仕事だと思ってたんだけどなぁ。数日前の俺をぶん殴ってやりたい。なんであんな簡単にOKを出しちまったんだ。そう、あれは1週間くらい前のこと。


『書類を探してきてほしい?』

『そう。あなたにはとある書類を探してきてほしいの。』

『ちなみに、どんな書類なんだ?』

『機密情報だから詳しいことは教えられないの。』

『書類を探せってのに内容を教えてくれないのか。』

『まあ、見ればすぐに分かるわ。』

『どういうことだ?』

『それだけその書類は他の書類と”違う”ってこと』

『なるほどな。ちなみに報酬は?』

『80億よ。』

『乗った、その仕事引き受けた。』


なんて馬鹿だったんだ俺は。こんなに過酷な仕事なら絶対に引き受けなかった。報酬80億の時点で気づくべきだった。

「考えても仕方ないか。っと、そこに落ちてるのは…」


《生きているということはそれだけで良いものだと考えられる。逆説的に言えばそれは、死は絶対悪だと言える。そう、死ぬこと自体は関係ないのだ。死という事象そのものこそが忌むべき存在ということだ。》


これまた、おかしな文書だ。ここで見つけるやつ全部こんな感じの意味不明なのしかないぞ。なんつうんだっけ、こういうの。確か…

「怪文書、だっけか。」

俺は、なんでもない人間。大量の書物の中から一つの書類を見つける。それだけを目的に今は生きてる。そんな奴だ。


 『彼の様子はどうかね。』

『概ね問題ないかと。それにしても驚きです。あの空間で自我を保っていられるとは。』

『やはりか…。どうやら私の推測は正しかったようだ。』

『推測、ですか?』

『ああ、彼こそが”秘された書類の適合者”であるという推測が。』

『その書類、一体なんなんですか?』

『それを教えるのにはまだ時期尚早だ。もう少し彼が核心に迫って来たら教えよう。』

『はあ…。まあ、知れることを楽しみにしていますよ。どのくらい時間がかかるかはあまり考えたくないですけどね。』

『そう時間はかからないと思うよ。かかっても1ヶ月だと予測はできてる。』

『案外、早いんですね』

『それだけ彼は優秀ということだ。』

『なるほど。では、私は私の仕事を済ませるので、これで。』

『ああ、報告感謝する。』

報告が終わり彼女は部屋を出た。一人になった部屋で私は考える。ようやっと適合者を見つけられた。あの書類を彼が見つけた時、一体どうなるのか楽しみで仕方がない。世界は震撼することになるだろうなぁ。なんせ、なんの前触れもなく、唐突に、世界が終わるのだから。カウントダウンを知っているのは私だけという事実が実に喜ばしい。私を否定した世界がなんの抵抗もできずに消え去るのだからな。

『そのためにも、彼には私の思い通りに動いて貰わないとな。』

まあ、そのための策なんてとっくのとうに打っているのだがな。

『早く書類を見つけてくれ給えよ。適合者にして、世界の破壊者よ』


 ここに来てから10日ぐらい経った気がする。いまだに、目当ての書類は見つからない。

「見ればわかるって言ってたけど、ほんとにわかんのかな〜」

実は今まで見てきた中にありましたよって展開、一番笑えない。まあ、そんなことを考えても仕方がない。

「さてと、そこの書類はどうだ?」


《夢というものは、万物が見る不可解な現象である。内容もバラバラであり、あるときは食、あるときは日常、あるときは己が死ぬという夢も見るだろう。時に私は、人が見ている夢がすべて、いつか起こり得ることを予見した予知夢であると考えている。そのような仮定をすると、この先、随分と恐ろしいことが起こるだろう。なにせここ最近、多くの人間が”世界が荒廃する夢”を見ているのだから》


「なんだこれ。」

色々飛躍しすぎだろこの書類。見る夢すべてが予知夢なわけがないし、そもそもなんでこれ書いたやつは夢の内容がわかってんだよ。これもまた、目当てのものではないのだろう。なんつか、ピンとこない。

「もっとこう、機密って感じのはないのかね〜」

まあ、気長に探すとするか。なんでか知らんがこの空間だと腹も減らないし疲れもしないからな。


 『監視開始からざっと2週間、順調に進んでいるようだね。』

それにしても驚いた。彼はあの空間への順応が非常に早い。

『適合者だとは思っていたが、期待以上だな。』

これであれば、私の計画はうまくいくだろう。

『さて、彼が書類を発見する前に私も”仕上げ”を終わらせるとしよう。』


 「おお、こいつぁすげぇ。」

目の前の書類の山を見て思わず呟く。ここに来てから、結構たくさんの場所を探してきたけどここが一番多い。それ故か、俺の直感が「ここにある」と言っている。

「気合、入れるかぁ。」

そう言って、俺は書類を漁りはじめるのだった。


 どれくらい探しただろうか。もう随分時間が経っているように感じた。

「…見つからねぇ。」

どれもこれもふざけた内容の書類ばかりでだんだん嫌になってきた。

「直感を信じて探していたが、切り上げることにしよう。」

そう言ってこの場所を後にしようとした、その時。ふと、一つの書類に目が止まった。


《新約怪文書》


そう書かれた表紙になぜだか俺は興味を惹かれた。もしかしたら、そんな思いでその書類を読み始める。


《まずは、この怪文書の山の中からこの書類にたどり着いたことに感謝する。早速本題に入るが、これを読んでいる君は、もうすでに人間から逸脱している。驚くことだろう。突然こんなことを言われてしまえば。しかし、考えてみてほしい。君は、この空間に入って一度でも飲食を行ったか?一度でも睡眠をしたか?》


ここまで読んで、俺は驚いた。この書類の通りで俺は飲まず食わずで一睡もしていない状況であったのだ。だが、それ以上に驚いたのはその事実に気づくことができなかったことだ。なぜ俺は気づかなかった?いや、違う。きっと”それが普通”になってしまっていたんだろう。自覚をした瞬間から、自分が人間に似た”なにか”であることがよくわかる。もう、書類の内容なんてどうでもいい。俺には為さねばならぬことがあるのだから。

「向かうとしようか。外界(かつての住処)へ。」


 『さて、彼は無事に書類を見つけることができたようだな。』

私は、コーヒーを飲みながら最後の時を待っていた。

『仕上げももうすんだ。あとは彼が降りるのを待つのみ、か。』

『結局、仕上げとは何だったんですか?』

不意に後ろから聞かれる。私は振り返ることもせず彼女に告げた。

『報酬だよ。』

『報酬って…。』

『そう、80億だよ。』

『よくそんな大金用意できましたね。』

その返答に私は笑った。

『いやいや、お金ではないよ。』

『?お金ではないなら一体何だというのですか。』

『時に、現在の世界人口はどれくらいだったかな?』

『…!』

『気付いたかい?』

『ええ、そういうことでしたか。でしたら、そろそろ”終わり”ということですか?』

『そのとおりだ。時期に、終りが来る。』

『なら、最後に一つ、質問を。』

『なんでも聞いてくれたまえ。』

『それは一体、何の”仕上げ”だったのですか?』

まあ、聞かれてしまうか。

『いい質問だ。その答えは___


 降り立つ。大地を踏みしめる。かつて人類が繁栄してきたその場所は、その面影を残していなかった。

「これが、あなたの望んだ結果だったんですね。」

手に持った書類の主に聞く。返事が返ってくることはないが。虚となった世界で俺は想起する。あの空間のことを。きっとあの書類はすべてあの”名もなき博士”によって書かれたものだったのだろう。自分がやってきた研究のその何もかもを否定され、彼女は壊れた。その結果、おびただしい数の怪文書が生み出されたのだと俺は思う。きっとこの書類は、彼女の研究の成果だったのだろう。


《新約怪文書》


この書類は後付けで作られたものだ。あの文章のその先こそが本来の書類で、彼女の研究の成果だった。

 そのタイトルは


《終末論》

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怪文書 藍崎蓮 @SajouNo6uk49

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