それは多分間違っている

夏空蝉丸

第1話

「祝いと呪いって似ていると思わないか?」


 先輩がこたつでおせち料理をついばみながら何かを悟った。といわんばかりのどや顔で言い切った。


「漢字の話ですか?」

「違う違う。祝いって良いことがあって喜んだり祝ったりすることではあるんだけど、心身を清めて神様を祭ることでもあったりするわけなの」


 先輩が最後の栗きんとんを口に放り込むと、隣に座っている姉が眉をピクリと動かす。多分、姉も狙っていたに違いない。甘いものが好きだからなぁ。


「呪いって、何らかの負の力を用いて災いや病気にさせることですよね。祝いと違くありませんか?」

「そこだよ。確かに方向性は違うよ。でもさ、要するに超常的な力を利用して何らかの影響を具現化しようとしていることに変わりはないんだ。ベクトルが違うだけなんだよ。プラス方向なのかマイナス方向なのか。だから、よく観察してみれば、その本質は類似しているってわけ」


 先輩が羊羹に箸を伸ばそうとした瞬間、姉が奪い取る。そして、取り皿にも置かずに一口で処理を行う。


「くっ!」


 先輩が悔しそうな視線を姉に向けると、姉はニヤリと笑みを浮かべる。完全に勝ち誇っている。きっと次の主戦場はチャーシューになるのだろうが、俺はそんな二人が好きではない昆布巻きを食べることにする。


「それで、祝いと呪いが似ていると何か問題でもあるんですか?」

「そりゃ、あるに決まっているだろ。おせちを食べているんだから」

「確かにおせち料理は祝いの料理かもしれません。でも、呪いとは関係なくないですか?」

「よく考えてみなよ。今、こうやって楽しくおせち料理を食べているけど、考えようによってはここは戦場でもあるじゃない。好きな料理を奪い合うってね。だから、おせち料理は祝いの料理ではあるけど、呪いが生まれる料理であるとも言えるわけじゃない」

「言えるはずないでしょ」


 先輩に突っ込んだのは俺ではない。姉の方だ。


「どうしてよ」

「あたしは、近所に住んでるアンタがうちのおせち食べていることに対してどうしてって訊きたいわ」

「いいじゃない。私との仲なんだから」

「それよそれ。コバンザメかアンタは」

「失礼ね。私はコバンザメより正々堂々と存在しているわよ」


 威張れることじゃないな。俺はそう思ったが、先輩は胸を張っている。何故だか勝ち誇っている。


「明日はアンタんち行くからね。こいつと」

「ウゲゲ、やっぱおせち料理は呪いでもあるわね」

「散々、バクバクと食べてた人が言うセリフか」


 姉の言葉に先輩はニヤリと嗤った。どうやら先輩はうちのおせち料理を食べきるようだ。でも、それでも構わない。明日は先輩のところでおせち料理を食べさせてもらうことになっているから。残っていればの話ではあるんだけどね。

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