第6話 宇都宮・釜川:澱んだ水面に漂う「不協和音」

 「掃除屋」が残した白い蘭のブローチ、そして次に待ち受けるのは、釜川のせせらぎを血に染める凄惨な事件――。変美の鼻が、再び「悪意」を捉えます。

 飛山城跡から車を飛ばし、市街地を流れる釜川に辿り着いた時、辺りはすでに夜の帳が完全に下りていた。

​ かつての城下町の風情を残す親水公園付近には、不釣り合いな赤色灯が点滅している。マサが青い顔をして川面を指差した。

「所長……あそこです。遊歩道の石畳に、ビニール袋が……」

​ 変美は何も答えず、警察の規制線を潜り抜けた。

 川のせせらぎに混じって、鼻腔を突くのは強烈な**「鉄の錆びた匂い」。だが、変美が眉をひそめたのは、その死の臭気以上に、あまりにも不自然に混ざり合う「三つの芳香」**を感じ取ったからだった。

​ 瑞々しいキュウリのような「瓜系香水」の残り香

​大谷石の湿った地下水が放つ「カビを含んだ冷気」

​そして、あの掃除屋と同じ「アルコール綿」の無機質な残香

​「バラバラにされているが、これはただの遺棄じゃない」

 変美は膝をつき、川べりに散乱した遺体の一部——白くふやけた手首を見つめた。

​「犯人は、遺体を『洗っている』。それも、この釜川の泥水ではなく、どこか別の場所の、極めて清浄な……それでいて死の匂いに満ちた場所で」

​「別の場所って、まさか……」

 マサがゴクリと唾を呑む。変美の視線は、先ほど飛山城跡で確信したあの方角、宇都宮の地下に広がる巨大な迷宮、大谷石地下採掘場跡へと向けられていた。

​「マサ、レモン牛乳はもういい。次は懐中電灯と、防塵マスクを用意しろ。地下の『貯水槽』が、次の現場だ」

​ 

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