本文

余りにも上質な物は、例えその道の者であっても、持て余すそうだ。数千万の楽器を弾き熟す奏者が数十億の楽器の制御が難しくなる様に。結局、身の程に合ったものを使い熟す事が大切なのだと痛感する。果たして俺は、此奴を使いこせているだろうか。


「有名人ってさぁ、些細な事でも炎上するじゃない?」

正月の餅を食い終わり、年始の番組に釘付けになっていた鏡花はそんな事を言った。テレビからは丁度楽器の演奏が終わり、解説が入っているところであった。

――一つ一つの個性が強い。俯瞰して聞くと纏まりがない。

其れは日頃目にする事のないような桁数の楽器達の演奏だった。いくらプロとは言え、普段自分達が使っている物より遥かに質の良いものを与えられた場合、制御が難しくなるのだと知った。

何故その背景からこの様な言葉が飛んできたかは分からない。思考の飛躍を数秒間に幾度となくくりかえす輩相手には、凡人相手には理解不能である。やはり此奴の相手は持て余す。

「其れは多分、自分の手に負えない人まで抱え込んでいるからだよ。線引きしてない。振るいに掛けてない。だからあんな風に燃え広がる。

今のテレビでは、オーバースペックの楽器を奏者が持て余す話だったけど、其れは別に高い低いは関係ないよ。身の程に、身の丈に合ったものから過剰に離れ過ぎているからあぁなった」

前に来て、鏡花の顔を見てみると大きく目が見開かれていた。トランス状態。ゾーンに入った。其れに近い状態。つまり此奴の扱いに慣れている俺でも今だけは持て余す。

「高けりゃ良いってもんじゃないのが、これを見ていると良く分かる。技術があれば、頭が良いだけでは駄目なのだと改めて思い知らされる。だから」

鏡花はゾーンに入った状態のまま。カクっと此方を向いた。意識の全てが思考に費やされているせいか、動きが何処かぎこちない。

「やはり傍に置くもの、関わる人間は良く見定めてるつもりだよ。扱いきれないからね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る