無職少年、ダンジョンで自分のペースを見つける

塩塚 和人

第1話 無職少年と初めてのギルド


村尾仁は、朝の光に包まれた街を歩いていた。

無職で、特に目的もなく過ごしていた彼にとって、

今日という日は少し特別だった。探索者ギルドに登録

するためだ。


「ふう……ドキドキするな……」仁は小さく呟く。

街の中心にある悠木市の探索者ギルドは、大きな建物

で、外壁には古い石が使われていた。


扉を押し開けると、中は活気にあふれていた。冒険者た

ちが書類を広げたり、情報を交換したりしている。


「いらっしゃいませ!」明るい声が仁を迎える。

振り向くと、ギルド案内嬢の坂江幸奈が笑顔で手を振っ

ていた。


「こちらが初めての探索者さんですね?」幸奈は優しく

話しかけてきた。仁は少し照れながら頷いた。


「え、ええ……初めてで、よくわからなくて……」

「大丈夫ですよ。私が案内しますから」幸奈はそう言うと

、丁寧に書類や手続きの流れを説明してくれた。


登録手続きを済ませると、仁のステータスが表示される

画面が目の前に現れた。

「レベル1……か。これからなんだな……」仁は小さな

拳を握った。


「では、最初のダンジョンFランクを紹介しますね」

幸奈が指さす方向には、雲影山脈の小さな洞窟の模型

が置かれていた。初心者向けのダンジョンだという。


「ここは浅い層だけで、無理せず探索できます」

仁は安心して頷いた。戦闘よりも探索そのものを楽しみ

たいと思っていたのだ。


初めてのFランクダンジョン。洞窟の入り口はひんやり

していて、石の匂いが漂う。仁はゆっくり一歩を踏み出

した。


中に入ると、小さな光を放つクリスタルや、奇妙な形の

鉱石が散らばっていた。仁は慎重に足を進めながら、手

元のスキルを確認する。


「よし、まずは……鑑定スキルを使ってみよう」

手をかざすと、目の前の鉱石が青く光り、価値が数字で

表示される。小さな宝石のようなものも含まれていた。


「なるほど、これで無駄な探索を減らせるんだな……」

仁は感心しながら、鉱石を拾い上げる。小さな達成感が

胸に広がった。


少し進むと、低ランクモンスターのスライムが姿を現す。

「わっ!」仁は驚いたが、戦闘は最小限にしたい。


スライムは弱く、ウィンドカッターで軽く切り裂くと、

すぐに溶けて消えた。経験値が少し増え、ステータスに

反映される。


「なるほど、こんな感じか……」仁は微笑む。恐怖や緊

張よりも、探検する楽しさが勝っていた。


探索を続けると、Fランクダンジョンの最深部に小さな

宝箱を発見した。鑑定スキルで中身を確認すると、少

しだけ役立つ装備だった。


「これで少しは強くなれるかな……」仁は嬉しそうに宝

箱を抱えた。戦いを求めるのではなく、成長を少しずつ

実感できる瞬間だった。


ダンジョンを出ると、外は夕日が街をオレンジ色に染め

ていた。悠木市の建物が優しく輝く。


「今日の探索は成功だな」仁は自分に言い聞かせる。

ギルドに戻れば、幸奈に報告して経験値を反映させるこ

とができる。


「冒険って……怖いものじゃないんだな」仁は心からそ

う思った。無理せず、自分のペースで、少しずつ強くな

っていく――それが彼のスタイルだった。


初めての探索は、終わりと始まりを同時に感じさせる

出来事となった。村尾仁の、スローライフ探索者ライフ

は、こうして静かに動き出したのだった。


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