【間章:錆びついた栄光と最後の太陽】
正午の日差しは少し眩しすぎて、王都騎士団の演習場に舞う砂塵を黄金色に染めていた。
だが、私はこの熱さを嫌いではない。ここの太陽は温かい。あの場所のように、空そのものが死んでいるわけではないからだ。
世界のどこかでは、こんな日差しさえもが贅沢な夢物語であることを、私は知っている。
「――隊長? 包み紙ごといく気ですか?」
呆れを含んだ声が耳元で響いた。
私は我に返り、副官のエルヴィンが心配そうに私の手元の昼食を覗き込んでいるのに気づいた。
「……戦術を考えていただけだ」
私は顔色一つ変えずに、油の染みたパラフィン紙を剥がし、中のハムサンドを一口齧った。パンは柔らかく、レタスは瑞々しい。この平和な食感が、時折ひどく嘘くさく感じられることがある。
「はいはい、戦術戦術」
エルヴィンは溜息をつき、水筒の蓋を開けて水を煽ると、私の隣の石段にどかっと腰を下ろした。
眼下では、教官に扱かれて鬼のような悲鳴を上げている新兵たちが走り回っている。
「本当のところさ、隊長。最近、上の偉い人たちはピリピリしすぎじゃないですか? 魔族の連中は冬眠中の熊みたいに静かなのに、俺たちはこんな炎天下で強化訓練だなんて」
「平和は一時的なものだ、エルヴィン」
私は食べ物を咀嚼しながら、左手の金属製の指で、無意識に膝の鎧を叩いていた。カチ、カチ、と硬質な音が鳴る。
「それに、この世界で人類を脅かすのは魔族だけとは限らない」
エルヴィンは頭をガシガシと掻き、苦笑した。
「またそれですか。隊長のその『異界機械軍団』の話。まぁ、その左腕には説得力がありますけど……。でもみんな言ってますよ、それは隊長が昔、大渓谷の探検で拾った、宮廷筆頭魔導師様でさえ解析できなかった『
私は彼の若々しい横顔を見た。
それは、本当の絶望を見たことのない顔だ。
「そうかもな」
私は否定しなかった。空が黒煙で覆われる恐怖を、言葉で説明することなど不可能だからだ。
「あ、そうだ!」エルヴィンは何かを思い出したように、遠くの時計塔を指差した。「午後は第二大隊を連れて城外巡回だった。やべぇ、もう時間だ!」
その時、一人の伝令兵が慌ただしく駆け寄ってきて、私たちに向かって敬礼した。
「エルヴィン副官! 団長より緊急指令です、直ちに部隊を率いて東門へ向かってください!」
「ほら見ろ、ロクなことじゃない」
エルヴィンは悲鳴を上げ、兜を掴んで立ち上がった。彼は尻の砂埃を叩き、私に手を振った。
「じゃあ先に行きますよ、隊長! ゆっくり食べてくださいね、また紙まで食べないように!」
私は彼の活力に満ちた背中が角を曲がって消えるのを見送った。
周囲が、急に静まり返ったように感じる。
風が旗をはためかせる音だけが響く。
私は視線を落とし、精鋼と魔導回路で構成された自分の左手を見つめた。
陽光を反射して、冷たい白い光を放っている。
ズキリ、と。
鋭い
視界が滲む。
王都の暖かな日差しが消えていく。
代わりに浮かび上がってくるのは、あの日から降り続いている黒い雨と――燃え盛る地平線だった。
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