第5話「重なり」

帰り道をとぼとぼと歩く。

どこにも寄らずに真っ直ぐに家に帰ろうとしている。言い訳なんて思いつく訳もない。

玄関を開けた先に待っている彼女になんて説明をすればいいのだろう。


家の前に着いた時、玄関の前で何分か立ち止まってしまった。鍵を開けて中に入りたくない。

何も考えられなくなった時、体が勝手にドアを開けた。

玄関には知らない靴が置いてある。急に現実に頭が戻ってきた。「ただいま」とも言わずに、静かに中へ入っていく。

台所から護身用の包丁をズボンのポケットに入れながら。


寝室の方から、エマと男の喘ぎ声が聞こえてくる。

ゆっくりと寝室の扉をジョニーは開けた。

その音に嘘偽りはなく、皆が想像する光景が目の前に広がっている。


「エマ…?」


「え、なんで、いつもこんなに早く帰ってこないのに。」


「浮気…してたんだね。」


「違うの、話を聞いて。」


エマの方へと近づこうとした時、男の方がジョニーの方へ寄ってきた。恐らくはジョニーをなだめようとしたのだろうが、その選択は間違いだ。

ジョニーは何の躊躇いもなく、男の腹を包丁で刺した。床に倒れた男をさらに滅多刺しにする。


エマの方は泣き叫びそうだった。


「声を上げるなよ。殺すぞ。」


ジョニーはエマの方へと近づく。手には包丁。

彼女は声にならない叫びをあげながら泣いている。


「ずっと、俺のことを騙して生きてきたのか?」


包丁を彼女の心臓の辺りに突きつけ、段々と力を入れていく。

彼女の方は蛇に睨まれた蛙のように動けない。包丁は服、皮膚を突き破り、その後一気に刺された。

出血多量で死んだ。

我に返ったとき、頭の中は混乱していた。初めて人を殺してしまったという恐怖。この後の自分の安否。それぞれが順番に襲いかかってくる。


でも、何だこの気持ちは。

ベットで横たわって死んでいるエマと、床で無様に死んでいる男。その2つを見た時、変な感情が浮かんでくる。

言葉では言い表せられない。

衝動的なんだ。その衝動に身を任せた時、ジョニーはエマの死体にキスをしていた。彼女の口の中には吐き出した血が含まれている。

こんな時になぜ、こんな気持ちになるのか分からないが、


気分が良かった。


その後、手に着いた血を洗い流してから、宛を見つけるためにあのBARへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る