理由  │僕と、ギャルと、世界の創造、あるいは帰結│

華や式人

第1話 転校生はギャル。

 「俺の魂の咆哮を聞け、クランダール!」

 筆が乗る。

 「ふん、貴様の魂はその程度か……虫唾が走るわ」 

 キャラが動く。

 「くそ、奴を倒す方法はないのかよ!」 

 絶望が伝播する。その絶望が、僕の指を動かす。


 だけど、時間はいつだって有限だ。

 朝活の終わりをスマホのアラームが告げる。僕は息を吐いて、勉強机から立ち上がった。

 二学期が、始まる。僕が創造する世界を広げる夏休みは、終わった。


 「僕」のことを説明するならば、名前は篠山しのやま鷹陽たかあき

 高校一年生で、共学の公立高校に通う比較的平凡な……言ってしまえば容姿も成績も、態度も目立たない男子高校生だ。

 僕が通う公立高校は「県内公立最後の砦」と親に言われるほど学力が高い。私学に通えないけど学力が高い生徒は、最終的に皆ここを目指す。

 僕が入れたのは試験の時に「閃いた」からにすぎない。つまり、運が良かった。

 内申とかの成績はともかく、筆記試験は模試段階では万年「C」判定。そんな僕が運良く入学したからと言って、高校生活まで順応できるわけなかった。

 一学期の成績は下から数えたほうが微妙に早いし、部活に入ってるわけでもない。アルバイトは校則で認可制であり、基本は認可が降りない、つまり禁止に近い状態。当然だけど親の反対もあって、僕はアルバイトが出来ていない。

 クラスの中でも「落ち着いてる」と形容される僕はきっと、誰の注目も浴びぬまま、高校生活を終える。

 予感めいた無力感のまま一学期を終えて、僕は夏休みに創作の沼へと逃げ込んだ。

 一か月ほどの夏休みの間に僕は初めて自分だけの「物語」を記した。どこに後悔するわけでもない「世界」が、僕のスマホに刻まれて行く快感。

 だけど……時間はどれだけあっても、毎秒毎分過ぎていく。きがついたら今日、二学期の始まりまで時が進んでいた。

 無論、夏休みの宿題も手をつけてある。そつなく終わらせた課題はリュックサックの中。これを提出すれば、僕が「創造」へと「逃走」したなんて、絶対怪しまれない。──いつもの目立たない僕が今日から始まる。

 だけど、駐輪場に着いて自転車を停めようと自転車を降りたら……些細な違和感に僕は思わず足を止めた。

 (あれ、この自転車見たことないなぁ……)

 すでに止められてる自転車は真新しいもので、学年を示す色分けが為された駐輪許可証も新しい。色は……僕と同じ、青色。つまり一年生の自転車だ。

 (転校生かなぁ。僕のクラスに来たりして)

 僕の隣に駐輪する人はいなかった。だから僕は勝手に「転校生」と推測した。けどもしかしたらほかの生徒が新しく自転車通学の申請をした結果、僕の隣に配置されただけかもしれない。

 それでも、僕は淡い期待を心に秘めて、だけど足取り重く自らの教室へと赴いた。


 「ホームルーム始めるぞ~おら、せきにつけー」

 担任の歴史を受け持つ厳つい眼鏡の先生が、久しぶりに会った僕たちの社交会を解散させる。夏に積み上げた思い出話に声を弾ませていたクラスメートたちがその声に席に着いた。

 「さて、二学期を始める前にお前たちにビッグニュースだ。このクラスに転入生が来る」

 いつも端的な担任が、いつも通り端的に述べる。だがその内容に思わずクラスが「おおぉー」と歓声を上げた。僕は声を上げずに、朝に見た自転車を思い出す。

 (男子生徒かな。地味なママチャリだったし、女子生徒ではなさそう。僕と気が合う男子だといいな)

 僕の邪推のような予想を隣の仲良したちと小声で話し合うクラスメート。担任はそのさざめきを拍手一笑、教室の入口へと視線を向けた。

 「原口、入って」

 その声と同時に、転校生が入ってくる。──だが、思った以上の歓声は湧き起らなかった。僕も予想が見事外れたことより、「彼女」の姿に声が発せなくなる。


 「原口ミユリです。よろしく」


 あっけらかんに言い放つ彼女は、どこからどう見ても進学校に似つかわしくない、どこにどう出しても進学校らしくない、生粋の「ギャル」だった。

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