美少女剣士♂と絶壁令嬢に爆乳メイド
井戸口治重
第1話 森で遭難したら、侯爵令嬢に招かれた件
新連載です
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木の文字が二つ合わさって「はやし」と読み、木が三つ組み合わされると「もり」と読む。じゃあ、見渡す限り木に囲まれていたら?
「そんなの。答えは遭難に決まっているだろう!」
半ばヤケクソで杜下優理は独りごちる。
気が付いたら周囲360度、辺り一面見渡す限り見上げるような大木に囲まれた森の中。
人家はおろか電柱や電線の類すら一切ない、大自然の真っただ中にひとり取り残されているのである。
これを遭難といわずして、果たして何と呼ぶのか!
「旅装もせずに街道を歩くモノ好き。ですわね」
拳を振り上げて力説する優理の言を縦ロールの金髪を揺らしながら、レオノーラ・フォン・ヴァルフェリアがティーカップ片手にぶった斬る。
濃緑のドレス姿も麗しい冷艶な美少女から放たれるのは、毒舌という表現が甘く思えるほどに辛辣なお言葉。
「そもそもわたくしが此処にいる時点で、遭難という現象は成立しませんわ」
そりゃ、そうなるだろう。
遭難とは、生命に関わるような災難や危険に遭遇することを指すのに、目の前に広がる光景は災難や危険とはまるっきりの対局。鬱蒼とした森の中だというのに、そこはまるで高級リゾートホテルのテラスのような佇まいを見せているのである。
レオノーラが座る椅子はリゾートの地に相応しい瀟洒なデザインの藤製。セットの藤製のティーテーブルも合わせたら、軽く6桁万円に届くことは素人の優理でも容易に想像できる。
日よけに用意されたタープにも布一面に精緻な刺繍が施され、おそらくこちらは7桁……いやいやヘタすりゃ億に手が届くかも知れないというペルシャ絨毯も真っ青になる贅沢な逸品。
高級なのは調度だけではない。
カップから漂う茶の漂う茶の香もまた上品にして優雅。ティーバッグの紅茶など足元にも及ばない、お店で飲んだら一杯ウン千円は確実な超高級品。添えられた茶菓子も素材の拘りを感じさせる贅沢な品々。
金髪碧眼の見るからに上流階級のお嬢様がお茶を嗜みさらには給仕に執事とメイドまで揃っているという、5つ星ホテルも真っ青というセレブな佇まい。周りを見回さなければスイスかカナダ辺りの避暑地と言われても疑ったりしないだろう。
さすがにこのシチュエーションで「遭難です」と言い張るほど優理の面の皮は厚くない。
降参とばかりに両手を掲げて「ハイハイ。遭難〝していた〟ですね」とぞんざいに答えると、未練がましい仕草がツボにはまったのかレオノーラが扇子で口元を隠して「プッ」と吹き出す。
「刺激もなく退屈な馬車旅だと思っていたのに、あらあらどうして。思いもかけず面白い相手に出会ったわね」
鈴を転がすような澄んだ声で「フフフ」と上品に笑って一期一会の出会いみたいな主張をするが、いやいやいやいやちょっと待て。
時代錯誤な馬車旅にもツッコミどころ満載だが、そもそも見るからに外国人な少女が目の前にいてあまつさえ日本語で話している時点で違和感全開。
なので、いま気にするべきはそこじゃない。
「思いもかけずな出会いって、メイドを使って強制的に連れてくることを言うのか?」
一般的にはそれを拉致・誘拐などと呼ぶのだか、唯我独尊が服を着て歩くレオノーラに世間の常識など通用しない。
形の良い柳眉に皺を寄せて「失礼ね」と言うや、扇子の縁をトントンと叩きながら優理を説くように言い聞かせる。
「先触れと言う言葉をご存知ないのかしら? わたくしは茶席の招待をするためにヒルデを遣わせただけよ」
「万難を排してお連れしました」
「排し過ぎだ!」
どこの世界に〝主人の招待〟だからとゲストを強制連行するような従者がいる?
ヒルデと呼ばれたこのメイドときたら、見た目こそ150センチにも満たない小柄な体躯に不釣合いな爆乳と蒼髪ショートボブが印象的な美少女だが、内包するパワーは猛獣の呼び名も高い熊やゴリラをも凌駕するほどの人外ぶり。
無口無表情なクールビューティーとは対照的に、森の中を彷徨っていた優理を見つけるや「お嬢様がお呼びです」と高々と担ぎ上げ、問答無用でレオノーラの許に運び込むような猛者なのだ。
実際問題として優理ときたら、森の中で此処がどこかも分からず遭難しているときよりも、無言でジッと立っているヒルデと対峙した時のほうが遥かに命の危険を感じたくらいだ。
そんな剣呑ならぬメイドがメイドならば、傍若無人な主人もまた主人ときた。
まるで録画データを巻き戻したかのように「馬車で旅をしてみたら、面白い出会いもあるものなのね」と、さっきのやり取りがなかったかのように勝手にテイク2をおっ始める。
「侯爵令嬢たるこのわたくし、レオノーラ・フォン・ヴァルフェリアが直々に茶席に招いていたのです。身に余る栄誉と光栄に思うことね」
そう言ってレオノーラが指をすっと1本立てると、あれよあれよという間に優理の席が整えられ、拉致の痕跡が見事なまでにかき消される。
主の席よりもワンランク劣るとはいえ優理のために藤製の椅子と茶器までも用意され、パッと見だけならまさしく茶席のゲスト扱いだが「お掛けなさい」と半ば強制的な招待は、茶席というよりもむしろ取り調べ席。
茶菓子よりもカツ丼が似合うと思ったのは、あながち間違いでもないだろう。
「侯爵令嬢たるわたくしが名乗ったのだから、アナタも名前を言いなさい」
レオノーラの圧に押され「え、あ、はい」と頷いてしまうあたり権威に弱い日本人。勢いに呑まれるがまま名前を言うのだから、あながちどころか取り調べで間違いない。
「えっと、杜下優理……です」
「ふうん。ユウリ、ね」
名前を聞いておきながら、なぜか名字をガン無視。いきなりファーストネームで呼ぶと、レオノーラが「それにしても」と好奇心の赴くままに優理への尋問を始める。
「女の子がたった一人でクラガッリの大森林を抜けようとするだなんて、正気の沙汰とは思えないわね。常識外れの世間知らずか、或いは旅を舐めている愚か者。それとも、その両方かしら?」
考えなしの脳筋とでも言いたげなストレートな質問。
だが、おいおいちょっと待て!
「オレが〝女の子〟だあ!」
思わず声を荒げるが、レオノーラといえば涼しい顔。ティーカップを傾けながら「ユウリ以外に誰がいるの?」とキッパリ。
甚だ困ったことにレオノーラの放ったセリフには説得力がありすぎた。
なぜなら今の優理の恰好は、どこからどう見ても〝女の子にしか〟見えないのだから。
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