第8話 反撃の狼煙
「永松先生、この度のお力添えありがとうございます」
俺は向かいに座る老人に深々と頭を下げた。
「ワシは君に頼まれた口座や携帯を調べただけやさかいに、気にせんでええ」
――
代議士の常連で、次期大臣候補や。
金融庁OBにコネを持ち、警視庁捜査一課も頭があがらん男……
普段はニコニコしてはるけど、絶対に怒らせたらあかん人や……
永松は言葉を続ける。
「それに、池くん。
助けてもろたんはこっちのほうやで。
ほんま、うちのバカ息子ときたら、30越えてもフラフラと……
なんや、マッチングアプリちゅうんかいな?
あないなもんにうつつ抜かしよってからに」
ヤバい筋に依頼した捜査資料を漁っていたとき、被害者リストの中に【永松知彦】の名前を発見した。
素行不良で有名なあの?
代議士【永松源蔵】のバカ息子!?
まさか……
そのまさかだった。
これを利用する手はない。
同時に詐欺師姉妹の成れの果てが容易に想像でき、背筋に冷たい汗が流れたのを覚えている。
あいつらはもう終わりや。
あとはどう料理するかだけや。
そんなことを思い出しながら、俺は永松に言葉を返した。
「マッチングアプリ自体は全部が全部悪いわけではないんです。
昔でいうお見合いの場と釣書が一緒になったようなもんなんです。
使用する人間によって善にも悪にもなるんですよ」
「まあそんなもんなんかなあ……
それにしたかて、うちの知彦のやつ……
800万も騙されて持っていかれとるとは……
驚き通り越して、呆れるしかないわ」
永松はため息をつく。
金持ちは余裕やなあ……
800万取られても呆れるだけで済むんやからなあ……
そう思いながら、苦しい笑みを向けると、俺の考えを見透かしたように永松が口を開いた。
「いや、ワシかて800万は大金やで。
せやけど、それ以上に立場ちゅうもんがあるからなあ。
これが、部下とかやったら、解雇なりなんなり手はあるんやけど、身内のもん、それも実子ときたもんや」
「今回の詐欺事件、調べていく中で、先生のご子息の名前を見つけたときはビックリしました」
「ほんま、君のお陰でマスコミのほうは事前に手を打てた。
こないなこと、世間にバレたら、議員生命にかかわるからなあ。
で、こっからはどないするんや?
ワシの力で小娘らにガツンッとお灸を据えることもできるんやで?
ワシも息子が騙されとるしなあ。
このまま金取り返して終わりにするやなんてケタクソ悪いからな」
先程のひょうひょうとした態度と違い、永松は鋭い眼光をこちらに向けた。
「先生のおっしゃる通りです。
私もヤツらを簡単に許すつもりはございません。
ご子息や私の友人が受けた仕打ち以上の苦しみを持って罪を償わせたい気持ちです」
俺も負けじと、鋭い視線を永松に向けた。
「ワシと考えは一致してるっちゅうこっちゃな」
「はい。
ただ、騙された私の友人は純真なヤツでして。
裏の世界を知っているわけではございません。
できれば、表側の法律で、あの姉妹を追い詰めたいと考えております。
こちらが表側から落とし前をとって、意気消沈してるところをさらに先生のおちからで完膚なきまで叩きのめしていただければと……」
「ほう。
それならば、ワシは今後出てくるであろう被害者の会や警察を抑え込んで、お前の仕事が終わるんを楽しみに待っとけばいいんやな?」
永松はニンマリ笑う。
「流石は永松先生です」
「よっしゃ、お前のそのアイデア面白そうや、乗ったで!」
「ありがとうございます」
俺は姿勢をただし、改めて永松に頭を下げた。
「それで、その詐欺師は今どないしとんねん?」
「闇ルートから手に入れた携帯や銀行口座のほとんどは、すでに処分してるみたいです。
ただ、私の友人に使っていた携帯はまだ所持しているみたいですね」
「あわよくば、まだ絞り取ろういう魂胆かいな。
恐ろしい女どもやのう。
当然ヤサ(アジト)は抑えとんのやろ?」
「はい。
ボロいビルの一室です。
サンダーバードのチケットを手配してるみたいです。
足がつく前に北陸に拠点移すんじゃないでしょうか」
「それやったら早うガラ(身柄)抑えてまわなあかんな。
まあ、お手並み拝見といこか。
困ったことになったらまたここに来たらええ。
池くん、きぱりやー!」
「ありがとうございます」
もう一度最後に頭を下げ、永松の屋敷をあとにした。
―― そして俺はすぐ実行に移す。
誰が先に詐取されたお金を回収できるか……
民事では、先に保全したものが勝つ。
「他のもんと、詐欺師の残金を平等に分配回収?
誰がそんなんで納得するか!
直也の金は全額取り返す!」
① 振り込明細のスクショ
② 入出金明細
③ 詐欺師とのメッセージやり取り
④ 詐欺師の名前、口座、電話
⑤ 被害届受理番号
これら全ては整っている。
【振込依頼人保護のための支払停止等の申出書】を銀行に提出
銀行間で滞りなく処理されれば、相手銀行から詐欺師(受取人)へ【照会書】が送付される。
***
<入金に関する照会書(重要)>
発信:△△銀行□□支店
宛先:クロサギ シヨ 様
発信日:令和○年○月○日
■照会事項
令和○年○月○日に貴殿口座へ入金された○○○○○○円 につきまして、送金人より「詐欺により支払った金銭であり、返還を求める」旨の申し出が当方へ届いております。
■お願い
以下の項目について、同封の回答書にて令和○年○月○日までに回答をお願いいたします。
入金の事実を認めるか
資金の返還に応じるか
応じない場合、その理由
期限までに回答がない場合、銀行規定に基づき、組戻しを進める場合があります。
***
無回答又は拒否の場合は……
【組戻・支払停止処理 完了記録】
が作成され、いよいよ【仮差押え】の準備が整う。
***
【仮差押命令申立書】
債権者(申立人)
住所:大阪府○○市○○町○−○
指名:野田 直也
電話:○○○-○○○○-○○○○
代理人弁護士:○○○○(大阪弁護士会)
債務者(相手方)
住所:大阪府○○市○○町○−○
指名:黒鷺 志代(本名:和泉 丸子)
電話:○○○-○○○○-○○○○
以下、申立の趣旨や仮差押の目的物等が記載される……
このまま手続きを進めていけば、近日中に【仮差押命令正本】も送付されるはずや。
直也の大切な金は必ず取り返す!
それは当たり前のことやからな。
でも、表社会で生きる俺らができることなんて、高が知れてる。
せいぜい、このあと、警察に突きだすぐらいや。
俺はこいつらを警察に突きだしたりせえへん。
表の制裁は書類でちょっとビビらせて金を回収するとこまでや。
ほんまの地獄はそのあとや……
政治家の息子をペテンにかけたことを後悔せえ。
裏の制裁は表の制裁と違ってルールはないからな。
お前らが味わう地獄は直也の100倍、いや1000倍や!
―― あっ!
河田の金、忘れてた……
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