ここは地獄の一丁目=マッチングアプリは甘い罠 いっちょめ いっちょめ ワーォ!
Marry
第1話 ハッピーライフ
一人になって三年。
そりゃあ、たまに子供と会うよ。
誕生日とか、クリスマスとかな。
あっ、今日は、新型ゲーム機がでたからとかで、家電量販店につれてこられたんやけどな……
「それじゃあ、パパ、ありがとね。
バイバイ」
「お父さん、またな」
娘と息子は、嬉しそうに、ゲーム機の入った紙袋を抱き抱え、俺に手を振った。
――13:00
梅田で子供たちと待ち合わせ。
――13:15
家電量販店で会計を済ませる。
――13:30
わずか30分……
「3ヶ月ぶりやってんけどなぁ……」
大半の時間を残して、その日の予定が終了してしまう。
引きつった笑顔で、ふたりに手を振った。
人混みに、子供たちは溶け込み、やがて姿は見えなくなる。
俺は、右手に握られた、人気アニメの映画チケットを、浮かれていた思いと一緒に、ギュッと握り潰す。
まあ、嫁と別れたあとも、こうやって合ってくれるだけでも良しとするか。
自分に言いきかせ、無理やり納得する。
「今日は、このあとの一日が長いなあ……」
諦めにも似た、ため息を吐き、呟いた。
「仕方がない。
時間はたっぷりあるし、映画館に行ってみようかな」
自動改札の前まで来て、
日曜日ということもあり、映画館は人で溢れていた。
「前のほうだったら席があるのか。
じゃあこれで」
俺は子供用のチケットはゴミ箱に捨て、最前列のイスに腰掛けた。
楽しそうに、上映を待つ家族連れ……
俺が、今食べているポップコーンよりも、ヨダレまみれになっている、あちらのポップコーンのほうが、絶対に美味しいんだろうなあ……
そんな風に思いながら、静かにスクリーンを見つめる。
なんとなく、ボーッと眺めているだけの、苦痛でも、快楽でもない時間が、淡々と流れ過ぎていく。
とりあえずは、なかなか、泣かせるアニメだったみたいや。
──まあ、今の俺の心情には勝てないと思うけどな……
感傷に浸りながら、そっと、時計に目をやる。
まだ、俺に家族があったとき、子供たちが、小遣いやお年玉を貯めて、俺の誕生日に買ってくれた時計……
時間は午後5時……
「いつもの店に行くには、まだ早いよなあ
……」
時計を見て考える。
適当に、あと2時間ほど時間を潰さんとあかんな……
そう思ったところで、友人から電話が入る。
「おい、ナオヤ!
俺、彼女できてん!」
電話の主は
小学校からの腐れ縁。
こいつの話しはいつも唐突だ。
なんの前触れもなくやってくる。
たまーに面倒くさい(笑)
しかし、俺にとって、一番の良き理解者であることは間違いない。
「はあ?
なに言うてんねん!?
彼女いない歴=年齢のお前に彼女やって!?
どういうことやねん!」
俺は、あまりに、突拍子もない話に、思わず語気を強めた。
「お前、今日、時間あるか?
いつもの店に午後7時集合な」
そう言い残し、河田は、一方的に電話を切った。
「どういうことなんや!?
まあ、【ロゼ】には行くつもりやったからええねんけどな……」
やがて午後7時を過ぎ、俺は店の扉を開ける。
カラン コロン
河田は既にカウンターに座っていた。
それも、美女を横に座らせて。
「おお、きたきた」
河田は上機嫌で手招きする。
「なんやねん、河ちゃん、いきなり呼びつけてからに」
「まあ、そう熱り立つなって。
こちら、
俺のハニーや」
なぜかしら、河ちゃんは、とびっきりに胸を張る。
「はあ?
こんなかわいいコが!?
お前の彼女?」
俺は、驚きのあまり、目が、きよし師匠になった。
良子ちゃんは、すっとイスを立ち、丁寧にお辞儀をした。
「
よろしゅうに」
「
こいつとは、小学校からの腐れ縁です」
俺も簡単な自己紹介を返す。
「今さっき、私も、河ちゃんから聞いたところで、びっくりしてたんよ」
スナック【ロゼ】の美熟女ママ、ハル子も、未だに信じられないという様子だ。
「イヤイヤイヤ……
なんか、間違ってるやろ!?
良子ちゃん、なんかこいつに弱み握られてるんか?
言いにくいことがあるんやったら、向こうのテーブルで話し聞くで」
良子ちゃんがクスリッと笑う。
「こらっ!
ナオヤ!
なに、
慌てて、河ちゃんが間に入る。
「ハハハハ、バレたか」
「ほんま、油断も隙もあらへんなあ」
「怒んなって、ほんの冗談やん」
「おふたりとも、仲がよろしいんやなあ」
良子ちゃんが、俺に笑顔を向ける。
「それにしても、どこで、こないなベッピンさんゲットしてんな?」
俺は一番の疑問を、河ちゃんに投げかけた。
「ナオヤ、お前、【ハッピーライフ】って知ってるか?」
「ハッピーライフ ハッピーホームいうやつか?」
「アホ、それはタ○ホームのCMや!
ちゃうちゃう!
【ハッピーライフ】っちゅう、マッチングアプリがあるんや」
バーンと河ちゃんは、俺にスマホ画面を突きつけた。
「ああ、知ってる、知ってる。
今、流行ってるよねえ。
なんや、若い子だけじゃなく、中高年にも大人気や言うて、この間テレビでミノさんも言うてはったなあ」
「ママ、ミノさんて……
ミノさんはもうおらんやろ!」
俺は天然のママにツッコミをいれる。
「あら、そうやったかな?
そんでも、朝の番組で特集やってたんよ」
番組で取り上げてたのは事実だろうが、断じて、ミノさんではない。
俺はこれ以上のツッコミをやめて、話をもとに戻した。
「で、そのアプリでお前は、こんな美女と知り合ったと……」
「そういうことや!
お前もやれや」
河ちゃんは俺にアプリを薦める。
「いや、俺は、ええよ。
面倒くさがりやし……
気の利いた文とか送られへんしなあ……」
「まあ、ええからスマホ貸せや、俺が登録したるから」
河ちゃんは、半ば強引に俺からスマホを奪い、【ハッピーライフ】というアプリに俺の登録をした。
相変わらずおせっかいなヤツである(笑)
「そんなん登録しても、俺、せえへんで」
「まあ、まあ、気が向いたときでええから、やってみろって」
その日は、良子ちゃんも交え、楽しいお酒だった。
河ちゃんのことをヨロシクと良子ちゃんにお願いして、俺は家路につく。
ベッドに横たわり天井のシミを見つめる。
夢うつつな状態で、目の前に不思議な顔が浮かび上がる。
シミュラクラ現象……
三つの点があれば、人の顔に見えてくる……
らしい……
「さっきのアプリやってみろよ!
おい、寝てる場合かよ!
お前も彼女欲しいんだろ?」
謎の顔が話しかけてくる。
気がした……
ガバッ
飛び起き、枕元のスマホを握る。
ほんの数秒、画面を見つめ静止する。
一番上には【ハッピーライフ】のアイコン……
少し躊躇ったあと、アプリを開いた。
「ふーん、色んな女性がいるんやな」
上から順番にプロフィールを閲覧する。
ふと、ひとりの女性が目にとまる。
そこには、ポニーテールで、くったくのない笑顔、引きこまれそうな瞳を持つ、女性の姿があった。
――気さくにお話しできるかた、お待ちしております……
プロフィールに短い文も添えられていた。
「確か、このボタンでメッセージを送信できるんやったな」
俺は、コンバンハからはじまる、差し障りのない文章を彼女に送った。
……あれから30分……
一向に反応はない……
「まあ、そんなに都合の良い話しなんてないよなあ……」
俺はふて寝ぎみにベッドに潜り込み、目を閉じる。
その刹那……
ピロリロン
スマホのライトが光る。
俺は、慌ててスマホの画面を開いた。
――このときはまだわからんかってんや……
これが、地獄の一丁目へ続く扉やとは……
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