子どもたちのハカ

星野玄明

第子どもたちのハカ1話








 

 星野 玄明

 子どもたちのハカ




 語り:11月中旬晴天の日曜日 午前9時30分を過ぎた頃かな

 神奈川県 鎌倉市  

 私たちの家の玄関チャイムが鳴る。


 音:ピンポーン、「ここか、」、「ここがとくさん家…」(子どもの声)

「ガチャ」と、玄関ドアを開ける佐々木美紀「パーイ!おはようございます!

かまくら一の照れ屋さんだからねえ。」




 語り これは、私のオシ活のはなしね。家族ネタだから多少のひいき目ではあるけど、私の自慢佐々木 要クンと愚娘美紀夫妻は、お互い補い助け合う暮らしを継続しているけど、二人には子どもがいない。娘の美紀は、市教育委員会でスクールカウンセラーとして勤務の傍ら、地元コミュニティーFM局でラジオパーソナリティーとししても勤めている。旧姓が徳山で世間から“とくさん”と呼ばれる婿殿要クンは、自動車会社の開発部門に勤務する傍ら、地元の少年野球チーム「GBマリナーズ」でトレーニングコーチをしている。お互いが子どもと関わる時間を持っており、非日常な時間を味わっている。コーチとしての要クンは、毎週日曜日に練習参加しているものの、試合には同行したことが一度もない。「監督の仕事だから。」とか「俺、口下手だから…」なんて言いながら、出しゃばりたくない…と自身の驕りを嫌う性格が高レベルの照れ屋となってるみたい。子どもたちからリクエストを受けても、気持ちを変える気になれない。それを見かねて美紀が試合当日に応援に出かけている。こいつらおかしい!”でしょ。それでね先日、市内の少年野球夏のリーグ戦が開催されて、16チームでのリーグ戦と上位8チームでのトーナメント戦に勝ち抜き、初優勝を果たしたんだな。


 音:リビングに近付いて来る足音。

 美紀「とくさーん。習君パパと仲間達が挨拶に来てくれたわよ。」」


 音FM七里ガ浜のラジオ番組、「ワハハ」と、タブレットを見ながらへ

 佐々木 よう

 佐々木「えー! キミコからよろしく伝えてよ。俺嫌だよ。」

 美紀「とくさんにも見てもらいたい物が有るのよ。ちょっと行ってあげなさいよォ!子どもたちと野球やりたいんでしょ?素直になりなさいよ!」

 佐々木「夫婦間のDV…。」


 語り:私の前では、そうでもないのに、要クンって美紀の前だとそんなフリをするみたい。腰かけたままで、なかなか動かない要クン。無責任な訳じゃないんだけど、照れ屋ってめんどくさいわね。


 美紀「待っていてくれるのよ!行ったほうが良いわよ。音 「「ガチャ」と、玄関ドアを開ける音。

 とっとと行きなさい!ホラホラ!」

 佐々木「分かりましたよ!」

 音 床を滑る椅子の音。

 美紀「(小声で)「どんな顔に変わるのか覗いてやろうっと。」




 佐々木「ひどいことを言う。トイレに居て。」



 語り:玄関先では、潮見拓哉監督、キャプテンで外野手の山内裕也君、内野手の五十嵐 涼君、外野手の杉下線一君が待ってたんだな。


 山内「とくさん、叱られてるみたい。」

 杉下「マジ?」

 山内「あれあれ…」

 語り:いくらか開いてる掃き出し窓から家の中の様子が聞こえたみたい。合図しちゃって…ちょいハズ…。へ


 美紀「行ってあげなさいよォ!子どもたちとまた野球やりたいのでしょ…」」

 音:4人の笑い声と日曜朝らしい周囲の生活音。

「ガチャ」と、玄関が開く音。


 子ども達「おはようござっす!!」

 潮見「おはようッス。」

 佐々木「ごめんよ、お待たせ!おはようございます。優勝出来て良かったね。6年生たちの面倒見が良かった話も聞いたよ。よく頑張った。みんなおめでとう!」

 潮見「お陰様で。子ども達も大喜びでね。」

 佐々木「まさか、あんな練習が刺さるなんてね。」

 潮見「やっぱとくさん天才。これ、見てやってよ、優勝旗。」

 山内「これ。」

 佐々木「子ども達が大喜びしてたのも聞いたよ。良かったな!おめでとう!」

 山内「はい、うれしいです。これ…。」

 佐々木「キャプテン、よくやった!俺も嬉しいよ。涼も、良い所で打てたって聞いたよ。おめでとな。みんな来てくれてありがとう。仙一も、しっかり守れたって聞いた。よく頑張ったな。わざわざありがとう。みんなありがとう!!」

 子ども達「はい。」


 佐々木「おを!これ、結構重い物なんだ。」

 山内「びっくりして落としちゃった。」

 潮見「大変だったよな。」

 音:「ガチャ」と、玄関を開ける音。

 佐々木「おーい美紀ちゃーん!」

 音:ドタドタとした美紀の足音。

 玄関ドア

 」


 美紀「なにとくさん? どうした?」

 子ども達「おはようございます!応援ありがとうございました!!」

 美紀「おはよう!みんなカッコ良かったわよー。ステキッ!」

 佐々木「この優勝旗、一度持たせてもらってよ。」

 美紀「良いのかな? どれどれ…わぁ~こりゃ重い!とくさん助けて!」

 佐々木「よっ…」

 語り:優勝旗を受け取りながら美紀を支える要クン。こういうところが私の自慢ポイントよ。


 美紀「あーびっくりした!!ありがとうとくさん。 この重さに耐える練習してたんだね。よく頑張ったわ!おめでとう!! ちょっと写真撮らせてよ。」

 子ども達「ありがとうございます。」

 美紀「良い? 撮るわよ!みんなドヤ顔にね!」

 音:「カシャッ、カシャ…」と、スマホカメラの操作音。


 五十嵐「今度俺に持たせて!」

 杉下「次、俺も。」

 美紀「ハイハイ…順番ね。 はい、どーも。」

 山内「ねえ美紀さん。とくさんに相談したい事あるから、後から来ても良い?」

 美紀「あなた達も”とくさん”って呼んでいるのね。お昼ご飯後なら良いかも。聞いてみたら?聞き辛いことない?大丈夫かな?」

 山内「大丈夫。」

 五十嵐「とくさんっていう名前、誰が付けたの?」

 美紀「私よ。居てくれると便利なだけじゃなくて、お徳な事が次々起きるからよ。」

 五十嵐「そうだよ!野球の経験ないのにコーチ力超高いし。」

 山内「予言者みたいに、言った通りになるから不思議に分かりやすかった。」

 杉下「お徳か…なんて都合が良いんだ。」

 美紀「そうなの…やっぱり良い所有るんだ。良かった。野球やったことないのに…本当に経験無いから心配してたんだ。不思議よね。ねえ、一つ聞きたいんだけど…あの試合前の挨拶はラグビーのハカのつもりだったの?」

 五十嵐「ハカ…? あれはみんなの気持ちをまとめただけです。」

 曲;BGMレディー・ガ・ガ「The EdgeofGlory」

 語り:こえうぁ、試合前の子ども達の様子の回想ね。応援してくれる親たちに向かって言ってたな…。


 山内「試合が始まります!」

 杉下「一生懸命プレーします!!」

 五十嵐「僕たちは、野球を通して挨拶とお礼と感謝の大切さを教わりました!」

 杉下「始まったプレーを見て、自分に何が出来るのか考える様になりました!」

 山内「強い相手と対戦するけど、しっかり地面を踏んでプレーしてきます!!」

 音:急いで走り寄る子ども達の足音。

 全員「応援!お願いします!!」

 音:沸き立つ拍手、歓声。

 音 楽曲フェイどアウト。


 佐々木「監督さん、コーヒーどう?」

 潮見「そうっすね。どこか行きますか?子どもたちを家に送れば、自由です。」

 佐々木「それじゃ、俺の家で。」

 潮見「奥さん居るし。」

 佐々木「キミコの予定は?」

 美紀「ごめん!私、10時から1本仕事入れちゃった。とくさん悪いけど浜っ子のスタジオまで送ってもらえないかな?」

 佐々木「良いよ。いつ?」

 美紀「この後すぐ。」

 佐々木「じゃあ監督さん後で。」

 潮見「了解です。じゃあ後で。みんな行こう!帰るぞ。」

 山内「とくさん俺も後で相談に来るから!」

 五十嵐「俺も!」

 杉下「俺も!」

 佐々木「まず家に帰って連絡してきた方が良いわ。昼飯してからだな。」

 音:「バン、バン」と、潮見の車のドアが閉まる音。エンジンが駆動して発進する音。


 美紀「山内君って子がキャプテンだっけ?」

 佐々木「そうだよ。」

 美紀「他の子となんか違う…何て言うのか落ち着いた感じの子ね。」一人っ子?」

 佐々木「たしか高校3年のお兄ちゃんが居ると思うんだ。」

 美紀「あらそう!外れたか…。」

 佐々木「彼は、自分で切り開いて行くタイプだね。」

 美紀「楽しみ~。」


 語り:場面切り替わり、昼食後に、食卓で過ごす私たち。

 音:FMラジオがBGM。


 佐々木裕子「要クン…美紀、何時に帰るの?」

 佐々木「4時に迎えに来てほしいって。」

 裕子「そうなの。」

 美紀ラジオから「そうなんです!日曜の午後1時になりました。こんにちは!! ここからは産休のタマちゃんに代わり、今週は、私ミーコがお届けします「そうなんです!」にお付き合いください。」 

 裕子「あら…嫌だ。あの娘、居なくてもおかしな奴。」

 佐々木「お母さん、ナイストス!」

 音:「ピンポーン」 玄関のチャイムが鳴る。

 玄関ドアを開ける音。


 佐々木「いらっしゃいませ。」

 潮見「どうもどうも、お邪魔します。」

 音:リビングに向かう二人の足音。


 潮見「お邪魔します。」

 裕子「まあ監督さん!いらっしゃい。」

 語り:またジャージで来たのかい?ベルトを通すズボンを履いちゃいけないのかい?


 潮見「お母さん、ご無沙汰です。」

 裕子「あなた達、子どもも大人も良かったわね。良いドラマを見せてもらったわよ。話を聞くだけでも嬉しくなったわ。」

 潮見「ありがとうございます。僕は、ただ乗っかっていただけですから…。」

 裕子「謙遜好きの二人の歯車がかみ合ったのね。良かったじゃない。 要クン、私、美紀の車で買い物行ってくるわ。美紀に唐揚げにしたって言っておいてもらえる。」

 佐々木「唐揚げね、了解。」


 潮見「お母さん、Zでお買い物か。」

 佐々木「問題ないみたいで時々行くよ。」

 語り:だって半分は私のモノなんだから!スポーツカーの運転に年齢制限あるの?


 潮見「俺。とくさんの語源は、旧姓の徳山から引っ張ってきたのかと思っていたけど。」

 佐々木「そうだったけど。キミコの中では、周りの空気に合わせて変動相場な部分だね。何かあった?」

 潮見「朝来た時、奥さんが別の説を話してたから。」

 佐々木「へーそうなの。」

 美紀「そうなんです。」

 裕子「ハハハッ!あいつおかしい。ポケモン呼んでるつもりなのかね?」

 潮見「お母さん、何だか楽しそうで…。」

 佐々木「キミコが隠しマイクを仕掛けて行ったから。」

 潮見「なにそれ! でも、とくさん今回は驚いたよ。」

 佐々木「上手くいって良かったよ。子ども達も嬉しそうな顔してたし。」

 潮見「あんな練習方法をよく思いついたよ。」

 佐々木「俺、野球を知らないから、常識の勉強不足で恥ずかしいよ。」

 音:BGM レディー・ガ・ガ「The Queen」

   語り 子ども 達の練習風景回想


 子ども:「よし」「よーし」と声を掛け合いキャッチボールする選手たちの声。グローブにボールが収まる音。徐々に声や音が複数になる。

 佐々木「ボールを投げた指を相手の胸元に!」

 複数の選手が複雑な体系をとり、遠距離、短距離にリズミカルに交互に投げ合う。

 守備練習になり、ボールを打ち返す音が1球ごと変わり、地面を叩く音も加わる。

 投手、打者共に6球で交代していく。

 佐々木「低め両サイドへのコントロールを意識して!」

 通常位置の2m程手前から投げさせる。

 バントに合わせた進塁練習。

 基礎、応用を交互に繰り返して集中力の継続を意識させていく。

 連携プレーでの動きを繰り返す。

 捕球体制に入る選手へのカバーリング方法を伝える。

 音:BGMフェードアウト。


 佐々木「知らないって怖いと思うよ。」

 潮見「そうかな、とらわれずに目標に寄れる。お陰で助かる時が多いよ。」

 佐々木「俺からしたらね、課題が解れば、それを潰して目標にたどり着けるのよ。」

 潮見「その道筋がよく分からない人もいる。」

 佐々木「それは、課題の拾い上げが不十分だから、根本を断ち切れないだけじゃないのかな?」

 潮見「確かに課題の拾い上げは大きいよ。方法がひらめかない時もある。反対に経験に縛られる時も多い。永遠のテーマだね。集団競技ほど関係性が問題になるし。」

 佐々木「そうだね。いくら根拠を探しても、手掛かりがつかめない時もあるし。慌てる時が多いね。普段から効率を考えない暮らしにシフトするのが良いのかも判らない。」

 潮見「今回優勝して分かった事は、子ども達一人一人の夢を叶える大切さだよ。あんなに喜ぶ顔が見れるなんて…夢だったよ。とくさんにも見てもらいたかった。」

 佐々木「少年野球とはいえ、子ども達にとってレクだよね。楽しくて当然の。」

 潮見「まあねえ。だからこそ目標達成を大事にしたい訳よ。」

 佐々木「俺、来季は審判員の勉強したい。」

 潮見「えっ!」

 佐々木「野球の事知らなくてもコーチさせてもらっているのが恥ずかしい訳よ。」

 潮見「名選手が名監督や名コーチになれないじゃん!」

 佐々木「野球の常識を知ってみたいのよ。審判員5年間経験したら、高校野球のコーチに挑戦出来ると良いなと考えてる。会社を定年退職するまでに甲子園に行くのが俺の夢なんだ。」

 潮見「野球の常識なんて限られてるよ。」

 佐々木「俺が知りたいのは、ルールや選手起用のモデルケースじゃないよ。野球力って言うのか、お互い野球部を経験した親子の付き合い方や野球部経験した親同士の関係性の良さにあこがれて野球を始める子どもの人生の楽しみ方なんだ。」

 潮見「子どもじゃダメ?」

 佐々木「それしか知らないのが、俺にはダメなのよ。」

 潮見「いつから考えていたのさ?」

 佐々木「5年前にコーチに入れてもらった時からだね。裕也の試合前の行動を動画で見せてもらって決めた。」

 潮見「山内裕也は、野球で大成するかもね。」

 佐々木「チームが彼を育てたと思うよ。そんな子どもに関われたのは嬉しい。相談って何だろうか?」

 潮見「進路かな?裕也の存在を自慢しても良いかな?俺としては、とくさんがチームを卒業しても、関係性は変えたくないよ。」

 佐々木「そうだよ。俺もそう思うよ。また呼びつけるから。」

 美紀「…よろしくね。」

 潮見「一石二鳥の返事だった…是非、よろしくお願いします。」

 佐々木「ン?こちらこそお願いします。」


 美紀「今日のメッセージテーマは『きっかけ』です…芸術花火を観てきました。綺麗でしたよ~…先に桑田さんのソロを聞いていたら、両方好きだったのかもしれません。きっかけは、「最初に聞いた」からかも…」


 語り:山内キャプテンとの関りを振り返る時間が持てた要クン。



 山内「強くなって行くチームに共通する様子なんてあるの

 」

 佐々木「んー。 きっと連絡が上手く行ってるんだろうな…」

 山内「エラーを気にする人には、何て言えば良い?引きずらせたくないんだ…」

 佐々木「技術じゃなくて、体力が発達してないだけだから…」

 山内「強いチームは何が違うの?」

 佐々木「挨拶、お礼、感謝かな…」

 山内「守備力上げるのに何が必要?」

 佐々木「打球を追う目だね…」

 山内「チャンスに凡退した時は、何て言うのが効果的かな?」

 佐々木「信頼関係に甘さがあるのかも。誰が打席に立って凡退しても同じさ…」

 山内「キャプテンの役割って何さ?」

 佐々木「良くない流れを断ち切る…」

 山内「野球で大事な気持ちは何?」

 佐々木「仲間を信じる。効率の良さを求めない…」

 山内「追い込まれたカウントを「意識しないと良い結果が出るものなの?」

 佐々木「きっと出せる…」

 山内「自分に自信を持つのには、どうして行けば良いの…」

 佐々木「練習も大事だけどね、それよりも自分の生活リズムを崩さないのも…」

 山内「連携プレーにミスをさせないのは無理なの?」

 佐々木「トラブルが起きるのを前提に最善を尽くせば…」

 山内「学年関係なく大事なことって何??」

 佐々木「認める…かな…」

 山内「練習以外に何が大事…」

 佐々木「当たり前な事をバカにせず、ちゃんとやる。どんな時でも。」

 語り:どういういきさつからこんな疑問を持ったのかな?それ気になる!少年野球の世界を甘く見てたよ私。ごめんなさい。結構刺激的じゃない!うらやましいわよ。 色々あったんだね。返事の吸収が早かっただけでなく、他のメンバーに伝わった速さにも驚き、効果の実感も得られた訳なんだね。要クンに野球部経験が有れば、もっと分かりやすく伝えれたのかもね。!それにしても刺激的じゃないの!伝えたことが大勢の子どもたちに伝わり、現場で活かされるのを知ると面白いわね。たまんないわよ!人生に一度でもそんなシーンに出くわしたら、もう大成功よ。なーるもどね!


 美紀「早いものでみこの後、2時のお知らせなんだね。

 美紀「時報、ニュースとお知らせ、天気予報と続きます。」


 音:「ピンポーン」


 佐々木「いらっしゃい。昼飯食べて来たかい?」

 子ども達「こんちは~食べてきましたよ。」

 音:4人の足音。ダイニングの腰掛けを引き出して腰を下ろす物音。


 佐々木「あれ?線は来ないの?」

 五十嵐「あいつ英会話に行ってます。」

 佐々木「そうか…外交官志望だしな。かっこいいなあ」

 音 ガチャガチャと3人の前にケーキ、皿や子供たちにジュースを出す音。


 山内「とくさん!網膜色素変性症って聞いたことある?」

 佐々木「いや…網膜って目の病気?」

 山内「そうです。この前急に耳が痛くなって病院行ったんだ。金属バット難聴かと思ったんだ。でも異常なし。で、頭や目の検査をやることになったんです。」

 潮見「おい、急に口調が変わったぞ。大丈夫か、緊張してるのか?」

 五十嵐「ハハハ」

 山内「いえ。大丈夫。」

 佐々木「これ飲んで、これ食ってみて。」

 潮見「おお、どこのケーキ屋の?奥さんの手作り?」

 佐々木「そうそう。食べてあげて。」

 五十嵐「とくさん、朝叱られてたの?」

 佐々木「あっ あれ聞こえてたんかいな?まあねえ…俺の動きが遅いから。」

 ※小笑する3人。

 山内「その病気なんだって。視力が下がって、見える範囲が狭くなって、暗い所で見え辛くなって、眩しさもひどくなって、いつか見えなくなる病気なんだって。」

 佐々木「随分沢山の不利があるけど、治るのに時間が掛かるのかま?」

 語り:悔しいけど…病気は人を選ばない。ホント悔しい!首を横に振る山内君。

  だけの

 誰も何も言わない。しばらく無言の時間が続いた。

 語り ラジオのスイッチを切りに行くく要クン。


 五十嵐「裕也から電話で聞いた時は驚いた。悲しかった。怖かった。信じたくない。」

 佐々木「んー。何でそんな病気が世の中にあるんだ!」

 山内「先生の話だと、身体をつくる遺伝子に異常があるんだって。親子の遺伝か突然なるみたい。悪化しちゃう原因不明。」

 潮見「今は、何ともなくて…見えてるみたいだけど?」

 山内「はい。今は…まだ…でも僕、いつか野球をやめないといけないなら、今年でやめようと思うんだ。何をどうしたら良いのか判らなくて相談にのってもらいたくて…」

 要の思い  深刻だ。乗り越える課題がつかめない。俺に…、俺なんかで気晴らしになるようなアドバイスが出来るのか…キミコがいてくれたらなあ…。責任転嫁か?


 佐々木「まず裕也。俺なんかに大事な話を聞かせてくれてありがとう。辛くて、怖くて、逃げ出したい気持ちが分かるけど、今はまだ症状が出てないみたいだから、一安心だよ。でね、裕也は好きなことを精一杯楽しめば良いと思うよ。目の調子が落ちてきてから改めて考えれば良いよ。その方が追い込まれた気持ちにならなくて済むよ。」

 山内「はい。でも、どんな感じで見えなくなって行くのかな?」

 潮見「それは、分かりませんねえ。眩しさが強くなるってことは、目の前が白くなるのかも分からないし。脅かす訳じゃないけど、目を開けているのに真っ暗になるのかも。ごめんな。嫌なことを考えると、その通りになるぞ。」

 佐々木「ゆっくりゆっくり悪くなるのかも。目の調子が落ちてきたのを素直に伝えれる勇気を持てる様に、これからも頑張れば良いじゃん。信頼出来る人を見つけると病気に勝てるよ。」

 山内「良いって…結局何に?(やや不機嫌気味に。 )」

 佐々木「裕也の将来に。」

 潮見「俺は、裕也の野球能力には、将来に楽しみがあると見て来た。さっきもそんな話をしていた。限界まで頑張ってほしいけど、裕也のどこかに目が悪くなるのが怖い気持ちが有ると駄目だから。そこは正直に自分で考えてほしい。」

 語り 山内君の向かいに要クンれ左側には監督さん、対角に五十嵐君。彼を心配するあまり山内君をジッと見つめる三人。頷きはあるものの、これじゃまるで取調べ室。



 山内「はい。野球やるのも楽しいけど、そんなにしがみつきたくないです。いつまで見えて、いつ目が悪くなるのか分からないから怖いです。」

 佐々木「気持ちは分かるよ。でもね、たとえ見えなくなったとしても、楽しく暮らさないといけないんだよ。いつまで見えるのかは、きっと誰も答えられないよ。」

 潮見「裕也も涼も…身体がどう変わろうが、俺にとって大切な宝物さ。人生は、一度でも沢山笑った人が勝ちだから。」

 佐々木「俺にとっても宝物だよ。磨けばピカピカになるからな。」

 山内「はい。でも、俺…どうなるのかな?」

 佐々木「裕也は、責任感が強くて、きちんと周りの様子を見て、自分の目標を達成して行くだけでなく、他の子のリードも出来る子だよ。障害を乗り越えられるから大丈夫。」

 山内「何で大丈夫なのさ?そんなの分かんないじゃん!」

 佐々木「だって裕也には涼が付いているからさ。さっきも言っただろ、信頼出来る人を見つければ裕也は困らなくて済むから。な、涼?」

 五十嵐「はい。裕也なら大丈夫だよ。」

 潮見「涼も、裕也の事気にしてやってもらえないか?助けてくれ!頼むよ。」

 五十嵐「はい。」

 佐々木「裕也がうろたえるのを見たい人はいない。」

 潮見「対戦相手の戦術を知る。病気の性質を知る。相手の出方を見ながら自分のやりたい事を続ける戦略を立てる。、病気を怖がらない気持ちを持って帰れ>」

 佐々木「場違いな話するけど、竹内ツインズならバランスをとりにいく。姉のピンチを助けようと、、きっと「私行く!」ってにこやかが言うんだろうな。楽しみを見つけるのが得意なえがお、姉が楽しんでいる顔を見るのが大好きな妹にこやか。あのチームの子どもたちは良い関係を観れたと思う。それを自信満々に見ていた裕也にしては、頼りない顔だ。」

 山内「みんなに迷惑掛けるんだろうなって思うと、見えなくなるってどういうことなのか解らなくてさ…怖いんだ。」

 潮見「自分の進路や目標を変える必要ない。迷惑なんて言うな。病気に負けるぞ。」

 佐々木「目標達成直前の状態悪化を想定して最善を尽くせるのかな?」

 五十嵐「上手く言えないけど、裕也が元気のない顔を見たくない。今まで何回も一緒に考えて、一緒にやってみて、上手く行ったから、これからもずっと助け合いたい。(涙声になる。)」

 潮見「裕也の事を他人事とは思っていない。誰かのアシストを受ければ、高いハードルを越えられると思う人が多いだろうな。」

 佐々木「そうだよ!!」

 山内「涼を縛るつもりないよ。」

 佐々木「涼はどうかな?」

 五十嵐「裕也が大丈夫だって言っても、気になります。」

 潮見「涼は、裕也に信頼してもらいたいと思っているんだよ。」

 語り:ハッとした様に五十嵐君が姿勢を正したと私の椅子は感じてたみたいなのね。監督さんが言った事ビンゴなんだね。


 佐々木「そうだよな。裕也を応援してくれる人のためにも、自分が出来ることを見つけて楽しく過ごせる様になるから。断ち切れるから。」

 山内「本当に?」

 佐々木「目が悪いのも大変だけど、大人の世界には性格の悪さが原因で、困る人が沢山いるから。」

 山内「そういうもの?それなら、目が悪い人の方がまだマシなのかも。」」

 佐々木「正解。」

 山内「越後製菓?」

 五十嵐「何それ?」

 音:二人の大人の笑い声。コップを置く音。


 潮見「涼は、これから中学でも野球続けるのかい?」

 五十嵐「考え中です。ラグビーも面白いし。」


 語り ふたたびラジオのスイッチを入れに行く要クン。

 美紀「きっかけの多くは、興味みたいですね。改めて興味の是非



 考える時間ではないですよー。恥ずかしく思うのもNGですよ。生きてることを確認するために楽しく過ごすんですからねー。時々、きっかけを振り返られると一段上の楽しみが味わえるみたいです…」

 五十嵐「とくさんの奥さんって、前からラジオ出てる人?」

 佐々木「俺がコーチ始めた5年くらい前からかな。週2回。女子のおしゃべりは呼吸と一緒だね。」

 潮見「隠しマイクの意味が分かったよ。」

 五十嵐「ワールドカップ観て、ラグビーのノーサイド直後が好きになりました。」

 潮見「きっかけはそこかい。」

 佐々木「裕也は?どうする?」

 山内「あのぉ…大きな筆ででかい紙に大きな字を書くの、あれやりたい。カメラも良い。」

 佐々木「意外と地味だ。サッカーなんかどうよ?」

 山内「そんなに興味ないです。」

 佐々木「さいでっか~」

 要の思い ちょっと表情が緩んできた。

 佐々木「目の治療方法が開発される。」

 山内「見えなくなってからの世界が知りたいのかも。」

 潮見「見えてる時と変わらないね。心配するな。」

 佐々木「裕也は、この先色んな経験をしていくと嘘を見抜くのが上手くなると思うんだ。」

 五十嵐「俺は?」

 佐々木「涼は、心配性が強くなるかも。」

 潮見「今よりも、もっと確実さを気にするようになるのかも。」

 山内「本当は、何をどうしたら良いのか分からないんだ。怖さばかりで…」

 語り:きっと、これが本音なんだろうな。得体の知れない病気と闘う前の子どもの気持ちなんて考えたことなんてない。なかったよ。思い浮かぶのはネガティブな気持ちばかりだろうに。ナースのお仕事長くやってる割にダメね。


 潮見「まずな、楽しむ事を考えて、見つかった病気を気にしない様にして行くのはどうだろう?」

 佐々木「登山とか、カメラとか。」

 山内「それって気を紛らすってこと?」

 潮見「そうだな。まずほかの病気にならない様に元気でいる。裕也が目の病気を怖がらない。「仕方ない」って受け入れる、病気が有るけどそれを認めたうえで「まだ大丈夫」と気にしない様にしてく。今まで通り何をやる時も最善を尽くす。でもって、楽しむのはどうだろう?」

 山内「認めるっていうのは、病気に負けたことにならないの?」

 佐々木「病気に負けるってことは、病気を理由に本気で楽しめないってことだな。」

 潮見「裕也を支えてくれる人は、何人も居るのは分かるかい?」

 山内「はい。それは…」

 潮見「そしたら、裕也がよろめかない様にキラーワードを探そう。」

 山内「そんなの難しいです。」


 五十嵐「とくさんのは?」

 佐々木「俺?俺はですねえ‥確認と笑いは比例するだね。」

 五十嵐「誰の言葉?」

 佐々木「俺。  色々経験してね。そうなったんだなあ。」潮見「俺のは、いまに見てろ…だ。」

 佐々木「それなら、信頼性にしときなよ。バージョンアップして行けば良いんだし。」

 五十嵐「俺…俺 頑張って目のドクターになる。眼科医になって裕也の病気を治す!」

 佐々木「おお!きたかっ! 俺が仕向けたのかも。」

 潮見「いや、とくさんだけじゃないよ。俺も共犯だし。」

 佐々木「身近に医療関係者が居ると安心だ。」

 潮見「涼のことだから本気になるぞ。」

 五十嵐「裕也が頑張るなら、俺も頑張れる。きっと。」

 山内「嬉しいけど、やっぱり涼を縛り付けることになるし…」

 潮見「それ、意味が違うんじゃない?涼は涼で何か大きな目標を探してたと思わないか?」

 五十嵐「はい。そうです裕也とは、一緒に競い合いたい。」」

 佐々木「裕也、涼が望んでることだから。」

 山内「俺も他の病気になんか負けない様に頑張る。」

 潮見「裕也は、耳の痛いのはどうなった?」

 山内「あっあれは、どこかに飛んで行きました。」

 潮見「それどころじゃなくなっちゃったんだな。大変だったよな。」

 佐々木「裕也に聞きたいんだけど。」

 山内「なに?」

 佐々木「あの、試合前の選手宣誓は、誰かに相談した?」

 山内「とくさんが言ってた、文句言わせない雰囲気をどうやって作ればよいのか…と思って、涼や担任の先生に相談して。」

 佐々木「やっぱりあれか。悩まさせちゃったなあ…これだから野球を知らずにコーチするもんじゃない…」

 潮見「やらせでしょ?なんて言われたけど、素晴らしかったな。気持ちが、しっかり入ってた。」

 山内「涼が、ハカの話をしてくれたし。やろうと決めてから声の掛け方が変わった気がする。」

 潮見「そんなところを気が付けるのが俺の宝だよ。」

 佐々木「ぼちぼち迎えに行かないと。」

 潮見「我々も撤収しようか?」

 佐々木「裕也。大丈夫かな?せっかくだから、相談の専門家に聞いてもらう?」

 山内「んー独りじゃないって分かったから良いよ。大丈夫。」

 佐々木「そうか。俺たちにいつでも甘えてくれよ。」

 山内「はい。」

 五十嵐「俺も?」

 潮見「まとめて面倒見てやろうじゃない!」

 山内「監督、とくさん…怖くなっちゃったら電話しても良い?」

 潮見「良いぞ。」

 佐々木「良いよ。」

 音:玄関に向かう4人の足音。

 「カチャッ」 とドアの閉まる音。遠ざかるエンジン音。




 語り 場面を切り替えますよ。夕食後の我が家食卓で山内君との経緯を伝える要クン

 。

 佐々木「…そうかも。相談受けた以上永く付き合いたいんだけどね。」

 美紀「そうね。相談員なんて、所詮踏み台よ。特に子どもはどこで光を取り戻せるか分からないのよ。思春期が絡むと難しいものよ。いくら見てるから、付いているからって精一杯伝えても独りで走って行っちゃう時もあるからね。受けたダメージを早く埋めれると良いわね。」」

 佐々木「ダメージが埋まる確認は出来るもの?」

 美紀「お互いの信頼関係次第。元気を見抜けると良い訳よ。」

 佐々木「人柄情報が少なくても、そんなこと出来るものなのかいな?」

 美紀「正直できない。難しいわ。子どもにしたら、相談員も学校の先生も怖いのよ。叱られるのかも…なんて思いがちな訳。」

 美紀「私、お風呂1番の日だから、行ってくるね。続きは後でね。」

 佐々木「はい。」

 要の思い 病気って残酷だ。年齢や状況に関係なく攻められる。容赦ないのが怖い。信じられないほどの短時間で悪くなり、想像以上の長時間で良くなる一方で、悪くなるのを覚悟してないといけない怖さを抱えていく人生って窮屈だろうな。解放されると良いけど。それでも、誰かの目標になったりもするけど、きっと理解者との距離感にも遠慮があるんだろうう。 裕也が言った「涼を縛るつもりはない…」って言える気持ち、大人だなあ。涼に迷惑を掛けたくない…、涼の世話になりたくない…、自分の存在で涼に影響を与えたくない…、責任感強いからそう思うよな。。 感染する病気ではない。裕也本来の人柄を曇らせるほどのダメージから這い上がらないと、暗黒面から脱出できないから3人で伝えた。あれで良かったのか? ダメージに強くなれる反面、目の病気に弱くなってしまうのかも。裕也にとっては、よろめきが起きた時に抜け切れていないダメージから抜け出せるプラすの材料を気付かせてもらえる人が信頼関係を築けると言えるのか。裕也の強みを握る人が感情を司れるのか。毎週顔を合わせる機会が今後継続していくことはない。本人の変化を何で推察して行けば良いのか?その都度「目の調子は?」と、問いかける訳にもいかない。裕也からの絡みを待つだけではなく、こちらから連絡してみようか。寄り添うきっかけがつかめるのかも。そうすると、どうなる?黙っていても、俺が感じられたら良い訳か。そしたら、裕也が安心出来るのか? 俺が感じるとは、ただ敏感に研ぎ澄ませば良いのか? 難しい!キミコに教えてもらおう。


 あー!そうだ!ー! ぐだぐだ言っていないで、悪いところは直し、ちゃえばいいんだ!医療はどうなっているんだろう?

 語り 入浴後にリビングで談笑する二人。

 <徐々にフェードイン>

 美紀「…そうなの。隠しマイクなんて…そんな物買うお金が有ったら、焼き芋タルト買うわ。」

 佐々木「自分の洞察力を高めるのには、どうしたら良い?自分が鈍感で大変。」

 美紀「え?何よそれ? それって…キャプテンとの今後の関わり方問題に関係あるの?」

 佐々木「それもあるよ。」

 美紀「んー洞察力…っていうか、人間力を見抜くと言えば良いの…本音を聞き出すっていうこと?」

 佐々木「両方有りだね。」

 美紀「そうね。簡単に言えば、変化を見つけて心のつぶやきを想像して、受け取るのよ。」

 佐々木「変化を見つけて心のつぶやきを想像して、受け取る。」

 美紀「解説が必要?」

 佐々木「変化を見つけ…」

 美紀「うん。」

 佐々木「心のつぶやき…」

 美紀「うん。」

 佐々木「想像して…」

 美紀「うん。」

 佐々木「受け取る。」

 美紀「そう。」

 佐々木「変化を見つけて心のつぶやきを想像。受け取る。変化を見つけて心のつぶやきを想像して、受け取る。…流石キミコさん!上手くまとめれるね。」

 美紀「そうそう!上手く理解出来たみたい。それで良いのよ。その調子で明日からトレーニングしたらどう?」

 佐々木「えっ?無理無理無理…全く自信ないけど。」

 美紀「もう一つね。私は、父親が居なかったから、頼れる男の人が近くに居てほしいと思ってきた。ここで大事なのは、「考えてきた」じゃなくて「思ってきた」の方が時間が永いのを感じ取ることね。これ大事よ。とくさんと初めてグローバル本社ね出会った日、私が4時間もZに乗っていたのを、ただ見ていた。ずっと。  無闇な割り込みもなく。うるさく尋ねられることもなく。早く替われよ~なんて圧力を掛けることもなくね。この「こともない」っていうのは、4時間の間ズーッとって意味ね。これ大事ね。 相談者の気持ちに入りすぎてボロボロになった私。どこにも居場所がなくなった私だったけど、何か…暖かく感じちゃったの。まだ私、ここに居ても良いんだって気がした。居心地が良くなってきたのが判った。降りた時に「疲れませんでしたか?」って声掛けてもらえて、見守られるってこういう事なんだなって気がしたんだ。「何この人?」じゃなかったのよ。シートに座っている時に見られてるのは分かっていたけど、何故かしら嫌じゃなかった。ここ大事ね。あの日が有ったから、今日が有るのよ。」

 佐々木「何度も聞いたよ。」

 美紀「それでね。今日の回答のポイントは、この永い間思ってきたあこがれと、4時間という時間の長さと、見られてるのが嫌じゃなかったの3点にあるの。初対面の女子に何かを感じた徳山 要君は、その女子に対する心配事を抱えた。「離れると自殺するかも」と。こう感じたのはなぜかな?」

 佐々木「直感一択。」

 美紀「そうかもね。それも、周りを見回す余裕があったお陰よね。職場に戻れば仕事が待ってるのに、初対面女子が気になって戻るのやめたんだよね。普段から「すぐ解決」をして来たからかな?」

 佐々木「もう忘れちゃいました~。」

 美紀「大事なところ。ちゃんとしようよ。人間界とのお別れを目指す時の気配ね。そういう時の気持ちは伝わりやすいと言われてるの。洞察力も、本音の読み取りも関係なく、徳山君の人間性ね。人間性ってのは素直さに比例するみたいね。」

 佐々木「ただ心配だった。前にも言ったよね。これ本音。」

 美紀「照れ屋モード入ったみたいね。それでね、4時間の間、一度も姿勢を崩さずに居たのよ。ショップの人がクッションや飲み物を用意してくれたのも断ってた。目線を外すことなく、Zの中の私を見ていた。見ていてくれるのが分かった。もし、何か言って来たりしたなら、文句言って騒いでやろうと思っていたのに…」

 佐々木「姿勢を変えないとならないほど辛くはなかったし、とにかく目を離したくなかった。ただそれだけ。「エマジェン」一言で伝わる社内規定もあったし。」

 美紀「あら、そうだったの。エマジェンの一言に救われたんだ。」

 佐々木「最後に好きな車にじっくり乗ってから行く…って情報を拾えたからね。社内規定に結び付いた。」

 美紀「悪いことじゃないわ。とにかく4時間は長いモノよ。私なら必ず動くわ。オブジェじゃないし。いし。ま、規定策定は大変だったかも…。反面、規定を守ったから救われたのね。決まりを守るのも人柄よ。人間性よ。問題は、車から出てからよ。」

 佐々木「2m圏内に4時間も一緒にいたからね、何か言った方が良いかなーって思ったよ。」

 美紀「そうよね。まさか誘うのもおかしいし…」

 佐々木「そうそう。」

 美紀「きっと全力で自己紹介や承認受けに来るんだろうなとは思ってたのに。意外とあっさり名刺渡しだけだった。あれも社内規定?」

 佐々木「ノーノー。掛けた言葉の吹き出しみたいな気持ち。」

 美紀「どうして他に何も言わなかったのかな?」

 佐々木「うるさく思われた気がしなかったからだね。」

 美紀「私から悪い評価を受けたり、批判を受けるとは思わなかった?」

 佐々木「そんな評価は想定してなかったね。ただ心配だったから、最初に感じた周波数が消えていたし、窮屈さからも解放された…って聞けなかったからね。」

 美紀「変化を見つけたのね。心のつぶやきを想像するまでもなかったわね。受け取ってくれた。」

 佐々木「そういうこと?」

 美紀「とくさんは、私と出会った時には、自分の人間性の中で自然に、変化を見つけ、心のつぶやきを想像して、受け止めていたじゃない!」

 佐々木「そういうもの?」

 美紀「そうよ。それでね、私の本音って分かる?」

 佐々木「また難問を…」

 美紀「何が難問よ。ヒントも答えも出してるし。」

 佐々木「えっとぉ…これからも、ずっと見守られたい。」

 美紀「んー大体合格!」

 佐々木「正解は?どうやって修業するのさ?」

 美紀「そうだわねえ…あとは、リンゴの皮をむくみたいに話せば良いよ。下心もダマしもないよってね。」


 美紀「ねえ、とくさん。アッ、まあいいや…」

 佐々木「なに?」

 美紀「だから、キャプテンには何も言わなくても良いと思うの。ちゃんと居るからね~って伝えるだけで大丈夫って思うのよ。」

 佐々木「その点は、キミコも入ってくれるから心配してないよ。それにしても、見抜くの上手いね。」

 美紀「そうでもないわよ。相変わらず失敗ばかりでさ…」


 語りまたまた場面切り替わり、:12月中旬 日曜日の午前11時過ぎ

 鎌倉市内 ビストロ「S・コーミング」にて マリナーズ退団式。

 親子合わせて40人ほどが集まっている。その賑やかさ。


 ドアが開き鈴が鳴る音。山内親子が来店する。受付で潮見、佐々木に挨拶する。

 山内寛人(裕也の父親)「先日は、話を聞いてやってくださり、ありがとうございました。」

 潮見「いえいえ。大変なダメージですけど、負ける訳にはいきませんし。」

 佐々木「力になれるなら、いつでも登板しますから。」

 山内 父「3人のお陰で一つのピンチを乗り越えたようです。ありがとうございました。涼君にもお礼したい…」

 潮見「涼! ちょっと来てくれないか!」

 五十嵐「はい。何?」

 潮見裕也のお父さんがね。」

 山内 父「涼君!裕也を助けてくれてありがとう。」

 五十嵐「いえ。僕こそありがたいです。裕也は一生の相棒ですから。これからも…」


 語り:その場を離れテーブル席に座る要クン。ちょっと寂しそう。


 えがお「…とくさんは、あっちでしょ!ここは6年が座るのよ!!」

 にこやか「笑顔の近くが良いのよ。私の真似!」

 佐々木「俺も今年で退団なんだ。」



 語り 一瞬の静寂。だっ!!」

 杉下「子どもが嫌になったのか?」

 佐々木「それはない。5年間審判員させてもらって、その後に高校の野球部のコーチになりたい。甲子園に行きたい。120パーセントの目標がないと、80パーセントの実力も出ないんだ。」

 杉下「飽きちゃうのか?」

 佐々木「実際に野球を経験していないのに、コーチとして基本を伝えるのが無理があることに気が付いた。」

 杉下「へー。」

 竹内雅治(双子の父親)「もったいない…」

 音 :親子、仲間が談笑するう店内の賑わい。


 竹内 父「佐々 木さんは、どうして子ども達に佐々木コーチと呼ばせないんですか?」

 佐々木「あれはですね。家には子どもがいないんです。普段奥さんから「とくさん」って呼ばれているもんですから、もし子どもが居たらきっと、「とくさん」って呼ぶんだろうな~て思うんです。子どもから「とくさん」って呼ばれるの、どんな気分なのか感じてみたくて。僕のエゴから、行儀悪くて本当にすいません。」

 竹内 父「そうなんですね。子ども達が野球から帰って来た時には「とくさん、とくさん」って、ちょっとヤキモチを感じましたよ。」

 佐々木「そうなんですか!そういうものなんですね。」

 竹内 父「まあね。恥ずかしいです。(小声で)」

 佐々木「でも、女の子のお父さんと、男の子のお父さんの違いを知りましたよ。竹内さんは、優しい。話し方が違う。」

 竹内 父「言われたことありません。子どもって、不思議なもんで。親があの時やりたくてもできなかったことを、簡単に軽々とやってしまいます。なんだか親は、子どもから「心配、心配って言ってるだけでまだ信用できないの」と言われてる気がします。親にとって子どもは、もう一人の自分。訳わからない時は、奥さんの部分と思うようにしてます。」

 えがお「エッなに二人で話していたの?私の事?ねえ、お父さん今度サーフィンやりたい。教えてくれない?ね!にこ!」

 にこやか「そうそう。やりたい。教えてほしいな~そうだ、隊長も誘わないと。隊長!裕也!裕也どお? あっ、そこに居たの…隊長今度私たちサーフィンお父さんに教えてもらうから、一緒にやろうよ!」

 山内「急にそんなこと言われても…」

 えがお「私たちとじゃ嫌なの?信用できないの?」にこやか?」

「私たちに付いて来たら良いの!」



 語り:しばらくの間。


 要の思い おい裕也。何か言え。返事しな裕也!イエスだろ!


 山内「俺もやってみたいと思ってた。」

 えがお・にこやか「よし!!やったぜ裕也!」


 語り クリスマスプレゼントを見つけたかの様に喜ぶ二人。離れた場所からハイタッチのポーズをとる。それに巻き込まれる山内君。


 えがお「中学入っても、私たちから逃げるなよな。」

 にこやか「こえからも、隊長なんだからな。助けてやるよ。」

 山内「オレの前世は、しもべかメリーゴーランドの馬?」

 えがお「隊長のくせに!いちいちうるさいなあ。モテ期だと思えよな。」

 山内「へいへい。」

 えがお「にこ!裕也のお父さんにもOKもらわないと!」

 にこやか「そうか。なんて言うんだったかな? 不束者…だっけ?」

 えがお「違うよ。昨日のあれで良いから。」

 にこやか「あれね…やってみる。 裕也のお父さん。私たち、裕也と一緒に真っ直ぐな大人になって行きたいから、これからも誘って良いですか?」

 えがお「裕也を助けてあげたいです。」

 にこやか「私たち無茶な事しないし。」

 山内 父「ゆ、裕也で良ければいいですよ!お願いします!」

 にこやか「涼のママ!あのお、涼の邪魔をしないから、たまには誘っても良い?涼は、責任者だし…。」

 五十嵐蘭菜「え!この空気にノーとは言えないけど、毎週う誘われるわけじゃないでしょ?」

 にこやか「うん…はい。」

 五十嵐 母「じゃあ、長く長く、お互いが仲良く出来る様にしてほしいな。」

 にこやか「長く、長く…」

 えがお「そのつもりです。.」

 五十嵐 母「じゃあ、涼も行け!」

 五十嵐「道ずれ?」

 えがお「裕也には、涼が必要なの!それに、私たちと一緒なら、頭でっかちにならなくて済むんだけど!」

 五十嵐 母「そうよ!」

 五十嵐「オレたちメリー馬とトナカイの二役?二刀流?」

 にこやか「デートは二十を過ぎてからよ!」

 五十嵐 母「無茶しないって、そういうことね。分かった。」

 竹内 父「私たち山内さん、五十嵐さん、いまを信じて。」

 五十嵐 母「一緒に積み上げましょ!」

 にこやか「はい。」

 竹内 父「山内さん、五十嵐さんすみません。」

 語り:ぺコンと会釈する二人。可愛い!


 えがお「落ち着けよ、にこ。」

 語り:普段からサザンの楽曲しか流さない店内に流れ始める「北鎌倉の思い出」。


 佐々木「すごいな双子の突破力って。竹内さんも大変だろうな。」

 潮見「うん。宇宙のエネルギー量でぶつかって来るね。こりゃ負けるは。とくさんがツインズに話したの?」

 佐々木「ちょっと一言「時々声かけて」って言っただけなのに。告白タイムだね。涼かな?」



 潮見「最後に代表してキャプテンから一言お願いします。」

 山内「えー!えー!そんまこと?聞いてないし…」

 にこやか「しっかりしなさいよね、隊長!私たちの代わりに頼んだわよ。行くんだ~」

 山内「そんなこと言われても…」

 えがお「行きなさいよ。隊長。」

 にこやか「頑張れ裕也。」

 五十嵐「とくさん家みたい…」


 山内「あのー」


音 要の携帯電話が鳴る。

 ※佐々木「アッ!ごめんよー!!はい。」

 美紀「とくさん!私ね、里親になりたい。」

 佐々木「キミコが良ければ賛成だよ。」

 要の思い この話、今か?キミコもお母さんを夢見てきたんだ。家族が増える。楽しみ。ん?まさか…母子でサーフィンか?


 山内「僕たちは、このチームで野球が出来たお陰で自分に自信を持てる様になりました。仲間と力を合わせてピンチを乗り越えました。監督やコーチのお陰で将来を覗ける踏み台が見つかりました。繰り返して練習したら、いざという時に応用が効くことが身に付いてきました。真面目にやっていれば上手く行くのが分かってきました。 お世話になってきた皆さんにお礼します。 ありがとうございました。これからも、頼りになるこの仲間を大切にしていきます。」

 一気に巻き起こる拍手と口笛。歓声。

 えがお「隊長!!すっごーい!!」

 にこやか「よくやった

 !」


 佐々木「これで良かったんだよなん…」

 潮見「良いよ。子どもたちに残るハカだよ。」


 語り:ちょっとだけ決勝戦前の回想ね。マリナーズ応援団の前に集結した子どもたち。

 山内「仲間のお陰で今日の決勝戦が闘えます!」

 杉下「今日も最善を尽くしてプレーします!!」

 五十嵐「僕たちは、野球を通して挨拶とお礼と感謝の大切さを教わりました!」

 杉下「始まったプレーを見て、自分に何が出来るのか考える様になりました!」

 山内「気合の入った強い相手と対戦するけど、しっかり地面を踏んでプレーしてきます!!」


 全員「応援!お願いします!!」


 音:BGM曲終わりまで。

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子どもたちのハカ 星野玄明 @sotobori

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