【12】
『――――で? その高校生らしくない、たわわなおっぱいに目を奪われて、あなたは今日一日、何の成果も得られず、のこのこと帰宅してきたという訳ね? この無能が』
転校二日目の定時報告(今日は時間通りに連絡した)にて、相棒の凛子に、開幕早々辛辣な言葉を投げ掛けられた。
無能、そう吐き捨てられてしまった。
「胸だけじゃねぇんだよ……。
『黙りなさい。言い訳なんか聞きたくないわ。この、女子高生に欲情する変態め』
「変態って言うのはやめて」
『ド変態』
「おい、余計に酷くなったぞ……?」
まぁ……返す言葉もないけど……。
変態と呼ばれても仕方がないって意味で……。
「それで? ちゃんと調べてくれたのか? 倉持学級委員長とかのこと」
『ええ、もちろん。私はちゃーんと、今日一日働いていましたから。私は、ね!』
「…………」
言葉にすっげぇ棘があるなぁ……。
心がチクチクするよぉ。
『倉持水地――――この子が、手強いのは無理もない話よ』
「……というと?」
『全国模試三位という超好成績、小学校水泳コンクールで全国二位、中学生の頃には陸上部に所属し、100m走で全国三位。何やら武術の心得もあるみたい』
「マジかよ……絵に描いたような文武両道っぷりだな……」
『それだけじゃないわ、絵画コンクールでも銀賞を取っているし、小学校五年生の時の全国ピアノコンクールでは金賞を獲得してる。勉強、スポーツ、芸術――あらゆるステージで、全国区の実力を誇っているわ』
「ほぇ〜……本当にいるんだなぁ……そういう奴」
『加えて、容姿端麗でFカップよ』
「…………」
どうやら、棘は抜けてなかったようだ。
チクチクは健在していた。
それにしても……。
「武術か……」
これで、オレが背後から近寄られても気がつかなかったことに説明がついた。
何らかの、足音や気配を消す武術の技術……。
それなら、オレに悟られず、近づくことも可能だろう。
『Fカップの件は抜きにして……ああ、別にFカップをオカズにして自分で抜くのは、別に好きにしてもらって構わないから。私はそこまで関与しません』
「しねぇよ……」
いい加減、この刺々しい言葉攻めに嫌気がさしてきた……。
『それを抜きにしても、あなたが今日、動けなかったというのも納得のいく話ね。こんな優秀な子を監視役としてつけられたら、学校内……いえ、少なくとも、学校周辺での動きは、大きく制限されてしまって当然だもの』
「そうなんだよ……言葉一つにすら気を使わなくちゃならねぇ。さっきも話したけど、敬称ミス一つでめちゃくちゃ詰められたからな」
『あなたはともかく、喜田くんの方が心配ね』
「ああ……。倉持学級委員長が、こんなに手強い相手だと知ってりゃあ、喜田くんに自分の正体を晒すことなんてなかったのになぁ……早とちりしちまったぜ」
『もしかしたら、初日、あなたを比較的自由にしたのも、そういう狙いがあったのかもしれないわね』
「……言われてみれば、そうだな……」
もしそうなのだとしたら……オレは上手いこと誘導されちまったって訳だ。
手の平で転がされた。
女子高生の、手の平の上で……。
『私も、もっと念入りに調べておくべきだったわ。まさかクラスメイトに、こんな化け物がいただなんて……』
「化け物って……」
まぁ……そう呼んでも不思議じゃない女子高生ではあるけれども……。
『学校側……もとい、【坊主頭の幻想プラシーボ】の感染源の人物からしても、洗脳し切る前までは、相当警戒していた人物のようね』
「だろうな」
『だから、念入りと言っていいほど、彼女には強く洗脳をかけているんだと思う』
「確かに、彼女だけは狂信的と言えるほど、【幻想プラシーボ】に罹ってるようにも見える……」
とは言っても、余程の人間ではない限り、感染源自身の意思で洗脳を強めたりなどはできない。
そんなことが出来るとすれば、プロの犯行だ。
【幻想プラシーボ】のプロ。
『逆を言えば、この一件に、そのプロが関わっている可能性も、多いに有り得るけどね』
「……ふむ……」
『一応……可能性の一つとして、考えておいた方が良いのかもしれないわね。何せ彼は、あなたへ嫌がらせするためになら、どんな手だって使ってくるから』
「……そうだな……」
彼――――オレの、因縁の敵。
『とりあえず、倉持水地さんの話に戻るわね。感染源の人物が要警戒するに至る理由としては……彼女、この【坊主頭の幻想プラシーボ】が流行り出した際に、一番、抵抗する姿勢を見せていたそうよ』
「だろうな……」
それは、容易に想像できる。
あの有能そうな女子高生が、『薄池高校の関係者は、坊主頭であるべき』なんていう、ふざけた校則においそれと従う姿は想像できない。
きっと……全力で抵抗したのだろう。
抵抗した末に敗北し……洗脳された。
『どうやらこの一件の……最初の情報提供者は、何を隠そう倉持水地さん、本人だったそうよ』
「……そうか」
女子高生という身でありながら、『幻想現象対策部隊』の情報提供窓口まで辿り着けることこそ、有能である証だ。
そんな立派な人物が――外部の、それも極秘組織に助けを求めた……。その時には既に、それほどまで、追い込まれていたのだろう。
もっと早く手が打てていれば……。
『そうは言うけど、事実として、あなたは他の案件に手一杯だったし、他の隊員たちも、それぞれ別の案件に手を付けていた。仕方のないことよ……。きっと、今が最善であり、最高よ』
「……だな。ありがとう……凛子」
励ましてくれた。
こういう時の凛子は、何だかんだ言って、凄く優しい。
欲しい時に、欲しい言葉をくれる。
『まぁ、今日のところは流石に援護できないくらい無能なのだけれどね』
「………………」
余計な一言がある時も多いが……。
それはさておき、倉持学級委員長についての話だ。
「あの子……こちらへ引き込めたら、めちゃくちゃ強い武器になるよな……」
『それはそうだけど、あなたの方法じゃあ、私は賛同することはできないわね』
「だよな……オレも気が進まない」
女子高生相手に……流石に大人気ないよなぁ……。
「本当ならこの案件……オレじゃなくて、他の奴の方が、もっと上手く立ち回れたよなぁ……?」
それこそ……頼り甲斐のある、学級委員長を味方にできて。
『なに弱気なこと言ってんの。仕方ないでしょ? あなたみたいに童顔で、高校に潜入できる人材が、他にいないんだから。『幻想現象対策部隊』は絶賛、人材不足中なの。それに、他の隊員にしたって、他の案件で手一杯なのよ? あなたがやるしかないの』
「…………厳しいなぁ、凛子は」
『そして――――あなたなら出来るの。分かった?』
「…………ん、分かった」
まったく……オレの相棒は、飴と鞭の扱いを心得てやがる。
その後、いくつかの意見交換、情報交換を終えたところで、本日の定時報告、最後の議題に移ることとなった。
『昨日あなたが言っていた、今日、コンタクトを取る予定だった、不登校生であるという彼女……調べてみて、なるほどと思ったわ。確かに、面白い子ね』
言いながら、パソコンのキーボードを打つ音が聞こえてくる。
どうやら、調べた情報を見ているのだろう。
「だろ?」
『ええ……というかこの子――――』
タンッ! と小気味よく、強くキーボードを一回押した音を最後に、画面上の凛子は、パソコンを触るのをやめ、こちらへ向き直った。
すると、オレのパソコンに一通のメールが届いた。
マウスを操作し、そのメールを開封。
そして、添付ファイルをクリックする。
履歴書のようなものが、画面上に表示された。
名前や住所、生活歴、その人物の性格、家族構成……その人物の顔写真。
その人物にまつわる情報すべてが――包み隠さず羅列されている。
表示されている顔写真。
長い赤髪の女子高生。
現在、不登校状態である彼女の名前は――――
『
凛子は続けた。
『あなたたちと同じ、才能が』
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