幕間〈2〉 報告と王令

外界の音が完全に遮断された、王城最奥の密談室

重厚な扉が閉ざされ、人払いが済んだことを確認してから──

剣聖ハルトは、椅子にドカリと腰を下ろした


その所作一つで、部屋の空気が張り詰める


向かいに座るのは、この国の王──ラルフ・ピース

だが今の彼は、王ではなく、かつて剣を教え込まれた弟子の顔をしていた


ハルトは回りくどい前置きを一切せず、単刀直入に告げる


「魔王と、その配下が村を襲った

……俺が撃退した」


その一言に、ラルフは息を呑んだ


宰相が思わず身を乗り出す

規模は?

被害は?

配下とは何者か?

問いは無数に浮かんだが──


「よい」


ラルフは、手でそれらを制した


「師匠が『撃退した』と言うのなら、それで十分だ」


それは盲信ではない

ハルトという男が、必要なことしか語らない人間だと、誰よりも理解しているからだ


彼が詳細を語らない時は、

それ以上を聞く必要がないか、

あるいは──聞くべきでない理由がある…


「宰相」


ラルフは、王の声で命じた


「王令だ!剣聖ハルトからの報告は絶対とする」


宰相が背筋を正す


「直ちに『魔王の出現』、およびそれに伴う

最大限の注意喚起を、世界全土へ通達せよ」


「はっ! 直ちに手配いたします!」


深く一礼し、宰相は密談室を後にした




扉が閉じ、再び静寂が戻る


それを見届けてから、ハルトはふっと鼻を鳴らした


「……いい王になったな、ラルフ」


「師匠のおかげです

しかし……魔王、ですか

世が、また荒れますな」


二人は酒を酌み交わした

この時点では、何も疑っていなかった


王は、命令が正しく伝えられることを

剣聖は、報告が事実のまま扱われることを


──だが


その報告は、王城を出た瞬間から、

まるで伝言ゲームのように、少しずつ歪められていった


誰かが言葉を足し、

誰かが主語を入れ替え、

誰かが「分かりやすい敵」を欲した結果──


剣聖の『魔王とその配下が村を襲い、撃退した』

という事実は、いつしか、こう書き換えられる


世界大罪人名簿ワールド・モースト・ウォンテッド

SS級指名手配:魔王ディアナ

SS級指名手配:堕ちた勇者ヒイロ

罪状:国家転覆の陰謀および、大規模破壊活動への加担


こうして

王と剣聖の知らぬところで、

一つの「報告」は「断罪」へと姿を変え──


勇者ヒイロと魔王ディアナは、

世界中から追われる身となったのだった

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