僕らの夏のゴブリン戦争
らびぬい
第1話 ゴブリン戦争の幕開け
第一話 ゴブリン戦争の幕開け
日本時間、深夜零時五六分。
そこでは幾十のパソコンが設置され、常時、同数の団員が向かい合っている。
毎日のように緊迫した空気が流れるその空間。
世間話に花を咲かせる者など誰一人として存在しない。
そんな空間で突如、
『ビービービーゴブリン発生! ビービービーゴブリン発生! ビービー……』
ゴブリンの発生を告げるサイレンが鳴り響いた。
「報告を!」
擦れがかりつつもどこか野太さも感じさせる声を張り上げたのは、WGSP団長、ファイティング・スピーリット。
白髭を蓄えた立派な老人であるが、その体躯はがっちりとしており、近づく者に威圧感を感じさせる。
ファイティングが声を張り上げた瞬間、指令室にいる全団員が団長の指示に答えるべく、カチカチとキーボードを鳴らす。
そして、暫時が経過し、一人の団員が報告の声を上げた。
「報告します。日本国大阪府大阪市都心部でゴブリンが発生」
「日本だと? そうか、珍しいな。規模は?」
「それは……」
その問いには別の団員が返答した。
「代わって報告します。規模はかつてないほどに甚大。既に多数の人的被害等が発生している模様です」
「
「
「分かった。至急、現地の団員に自衛隊その他軍隊と協力し、応戦するよう伝えろ。各国にあるWGSP支部への情報共有や応援要請も頼んだ。情報収集も継続して行え。何かあれば随時俺に報告しろ」
『了解!』
・・・・・・
「何よ、これ……」
大きな瞳、佳麗な鼻、プルプルとした桜唇。それらが完璧な配置で並び、見る者に大人を感じさせる顔立ち。百六十五センチという女性にしては長身な彼女の腰まで届く、サラサラした暗め茶髪のロングヘア。世界でトップクラスに美麗という言葉が似合う若干一七歳の少女、
現在は残念ながらその端麗な姿には不相応といえる作業用の青い団服を身に纏い、腰には漆黒のライフル銃をぶら下げている。
彼女が御洒落をしたら一体、どうなってしまうのだろうか。そんな疑問が見る者の頭に浮かぶのは必然だろう。
そんな光は、眼前の光景に言葉を失った。
WGSP日本基地
そして、到着した光を待っていたのは目を覆いたくなるような惨状であった。
「何よ、これ……」
高層オフィスビルが根元から圧し折られ瓦礫と化していたり、車が横転または転覆し烈火を上げていたり、道路が大地震でもあったかのようにバキッと割れていたり。まるで、SFアニメに出てくる終末世界のような惨状が眼前に広がっていた。
光が本部からの伝令を受けてから経過したのはたった八時間程度である。
そんな短時間で大阪都心部は壊滅状態と化していた。
聞いてはいたが、確かに
今までも世界中でゴブリンの襲撃はあったが、ここまでの規模のものは無かったはずだ。
それに、日本でのゴブリン発生はこれが初めてなはず。
光の脳裏に、嫌な予感が走る。
取り敢えず、先に到着しているはずの自衛隊等の部隊と合流しなければならない。
光が到着するまでの経緯などを聞いて、それを元に本部に現場の報告し、状況に応じて加勢をしなければ。きっと戦況は芳しくないだろう。
周囲を見渡せば、瓦礫と化したビルの陰でゴブリンと戦闘を繰り広げる自衛隊らしき部隊が目に入った。距離はそこまで離れていない。
取り敢えずあそこへ向かおう、そう光が足を踏み出した瞬間。
「あれは……」
光が合流しようとしていた部隊の更に後方に広がる濃霧の中で、微かに、巨大な影が見えた。
踏み出そうとしていた足を静かに戻す。
「そんな、発生は確認されてないって言ってたじゃん……」
この大阪の惨状はヤツによるものか。
嫌な予感が当たってしまった。おかしいと思った。
普通のゴブリンがいくら発生したとて、ここまで壊滅的な状態になることなどあり得るはずがない。
光が駆け寄ろうとしていた部隊が巨大な影に向けて攻撃を行っているが、恐らく、効果はないだろう。
巨大な影はバリバリと道路にヒビを入れながら、こちらへと迫り、次第に巨大な影は姿を現した。
一メートル程の体長である通常のゴブリン。
その五十倍以上の大きさはある巨大な緑の怪物。
「――ゴブリンストロング」
それが巨大な影の正体であった。
『グァァァァァァァァァァ』
ゴブリンストロングはトラックを飲み込めるほどの巨大な口腔をこれでもかと開き、咆哮。
直後、光の耳を
そして、気付けば前方にいた部隊は跡形もなく
「クソッ」
ゴブリンストロングは光一人で敵うような相手ではない。
訓練を受けたWGSPの団員が百人がかりで漸く、という相手だ。
――早く、本部にヤツが発生したことを伝えなければ。
光は乗ってきたワゴンに飛び乗り、そのまま大阪を後にした。
・・・・・・
「スーツのお陰で助かったわ」
あれから約四時間。
現在、光は一縷の希望をもとにWGSP日本基地のある福岡に向けて車を走らせている。
先程までは本部と通信を行いながら走行していた。
だが、奴らに通信設備がやられたのか、その通信もぷつりと途切れてしまった。
とはいえ、本部にゴブリンストロングの発生を伝達することは叶い、更に少しは情報を得ることができた。
どうやら、ゴブリンは大阪だけではなく、現在進行形で世界中に発生しているらしい。
韓国や中国、モンゴル、アメリカ、ドイツ、果てはブラジルや南アフリカ等、WGSPの基地が設置されている国々でゴブリンの発生が確認されたらしい。
それが、本部から聞くことができた少ない情報の全容だ。
本当はまだ訊きたいことが山ほどあるのだが、何も訊けないよりはマシだと思うしかない。
ここまで来る道中の光景は、酷いものであった。
約四時間で、光が通った全ての町が破壊され瓦礫の山と化し、人々は皆、どこかに姿を消していた。
光が大阪まで向かった時点では、こんな状態ではなかった。
規模こそは違えど、どの町も大阪のような惨状を呈していた。
光自身、道中何度かゴブリンに襲われた。
だが、ゴブリンは足が遅い。全速力でなくても車であれば容易に逃げ切ることができた。
恐らく、光が運よく遭遇しなかっただけで、大阪の他にも日本各地、いや、世界各地でゴブリンストロングが発生しているのだろう。
世界各地でゴブリンストロングが発生し、その巨大な体躯で街を壊滅していった。そう考えればどの街も壊滅状態にあることの説明がつく。
光はそんなことを思いながら車を走らせていく。
「この町も同じね」
漸く広島まで辿り着くと、光は車を止めて言葉を零した。
広島は光の生まれ育った地だ。
光は変わり果ててしまった故郷の姿に心を痛めた。
『誰かぁぁぁ助けてくれぇぇぇぇ』
街を見渡せる小高い丘の上で呆然と変わり果てた広島を眺めていると、男性の低い悲鳴が耳に入った。
恐らく、ゴブリンに襲われているのだろう。
実は道中で何度か、今のように助けを求める叫び声が聞こえたことがあった。
だが、駆け付けたころにはもう遅かった。
「手遅れかもしれないけど」
今回もまた、間に合わないかもしれない。頭ではそう思いながらも光はゴブリンとの遭遇という危険を背負い、叫び声の聞こえた方向に車を走らせた。
それに、何故かこの叫び声は、聞き馴染みのあるような気がした。
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