第17話 骸骨
「もしも生まれ変わったら、もっとまっすぐ生きたいんだ。そして、徳を積む」
またその翌日の午後。
リルはザダのいる屋敷に訪れていた。
ザダは、少し驚いた顔をしながらも、部屋の中に招いてくれた。家の人は、今日から一週間ほど、外国に出かけているらしい。
今朝方、ディビアさん宅に侵入し、宝石「夢の涙」を盗んだ犯人が捕まった。
その知らせが届いたとき、リルとロイは朝起きた後二人でテントの外で相談をしていたところだった。
「事が落ち着くまで、しばらく芸はお休みしよう、リル」
「いやよ!そんなことをしたら、まるで『わたしたちが盗みました』と認めているみたいじゃない!」
「リル、それは違う。……こういう時は、人を刺激しないように、自粛するものなの。お前はまだよくはわからないかもしれないけれど」
「……リル、それでもいや」
「リル……」
ロイが口をもう一度口を開きかけたときだった。
「おーい。お前さんたち。誤解してすまなかった!君たち二人は、テントで暮らしていると聞いて探したよ。見つかってよかった。またどこか外国に行ってしまって手遅れになるかと心配したよ」
「……一体、何の用ですか?」
息を切らしていた、町の恰幅のいいおじさんは、あの日の深夜に会ってしまったおじさんと同一人物のようだった。
「真犯人がつかまった。どうやら外国の人物らしい」
「……?どうしてその人たちだと?」
おじさんは、一瞬口元に手を添えて考えた後、こう言った。
「いやね。目撃情報がもう一つあってね。ミシェルさん宅のヨアさんが、船着き場で彼らの会話を聞いたらしい。北のお屋敷から、宝石を盗んだってね。その場にいた大人にすぐに知らせて捕まえてもらったらしい。実際、『夢の涙』を持っていたんだよ。本人たちは否認しているらしいんだけれど、そいつらに間違いないだろう。他に詳しい内容まではこちらの耳には入ってきてはいないんだけれどね……」
彼は、こちらに向き直って微笑んだ。
「君たちの演技がまた見たい。ぜひ、またあの広場で元気な姿を皆に見せてくれ……」
リルは、ザダが入れてくれたお茶に口をつけていた。
すると、おもむろに彼が口を開いた。
「『夢の涙』はね……この世にいくらかあるんだ。盗賊やお金持ちの間ではそこまで珍しいものでもない。持っていることが、ステータスのようなものでね。そのことが頭にあったヨアが、君のお兄さんを救うために、ある外人たちを使って陥れた。盗み聞きしたみたいだ。彼らもその宝石を今持っているって。そして、荷物を置いた瞬間を見計らって、僕たちが盗んだ夢の涙と、彼らの夢の涙をすり替えた。同じ夢の涙でも大きさが違うからね。ディビアさんのお宅のものは、特別大きかった。少し小さくなったけれど、その外人から盗んだ夢の涙を、この家の主人に渡した。今、船で外国にそれを売りに出かけている」
ザダは、こちらを見据えた。
「僕らのしたことで、君らを巻き込んでしまって、すまなかった……」
そう言ってザダは、リルに向かって頭を下げてきた。
「もしも生まれ変わったら、もっとまっすぐ生きたいんだ。そして、徳を積む」
「徳?」
「そうして、自分を愛し敬ってみたいんだ。そして誰かを自信をもって愛することを学ぶ。そんな人生を、送ってみたいんだ」
「今は、自分を愛せないの?」
「……」
「どうして?」
「人を助けてみたい。人からものを奪うのではなくで、与えて一人一人を幸せにしてみたい」
「今は、それができないの?」
ザダは、ふっとため息をもらした。
「僕は、骸骨なんだ。骸骨にそのような力はない」
「骸骨……?わたしにはあなたが骸骨になんか見えないわ」
「君は、まだ失っていないんだね。だからきっとわからない。どうして君が僕に好意をもったのかはわからないが、僕のことを気にすることはもうやめなさい。君にはもっと別の人間がいる。ここにくるのはもう今日を最後にしなさい」
「何?どうしてそのようなことをあなたに指図されなければならないの?」
リルは、目に涙が溜まってきた。
「わたしには、わたしの好きな人を好きになって、愛したい人を愛する権利があるの」
ザダは、こちらをまたどこか冷たい色を含んだ瞳で見つめてきた。
「それは、誰にも侵されず、私以外の誰かが決められるものでは無い。わたし自身がわたしを愛するがゆえに決めるものなの」
「そう、君は自分自身を愛しているから、それを僕の事が好きだと勘違いをしているだけさ。その勘違いに早く気づきなさい。君は、本当の恋をするにはまだ早すぎる。……僕はね、決していい人間ではない。ここにはないものをまるであるかのように見つめられるのはもううんざりなんだ」
リルは、首を横に振った。
「ちがうの。それは運命の巡りあわせなの。月が満ちて欠けるように、人は永遠と言う時間の中で、得たり失ったりを繰り返す運命なの。そこに大きな理由はきっとないの。あなたという人自身は悪い人じゃない。わたしにはそれがわかるの……」
そこまで一気に言うと、ザダはこちらを振り向いた。
何か、痛みをこらえるような、それでいて読み切れない表情だった。
リルは、急に耐えられないような思いがした。
涙をぬぐってその家から走って飛び出していた。
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