祝い(チャリパイ番外編)

夏目 漱一郎

第1話 チャリパイ新年会

 新宿歌舞伎町の繁華街から少し離れた静かな区画に、森永探偵事務所はあった。


 2026年元日。この日、森永探偵事務所は当然休みなのだが、なぜかチャリパイの4人は全員顔を揃えていた。それというのも、元日というのはどこもかしこも営業していない店が多くて、それならば事務所にみんなで集まって新年会でもやろうという段取りが出来ていたからだ。


「「「「あけおめ~~~~~っ!」」」」


 正月の風情など一切ない普段着で、いつも通りビールジョッキと焼酎グラス片手に上機嫌で鍋を囲むチャリパイの4人。新年を迎えたのだから振袖を着ようとか、正装しようとかという心遣いは彼女たちには全く起こらないらしい。


「まあ、チャリパイもシリーズ完結したけど、こうして時々出演の機会はあるから気を抜かないでやっていこうな」


 シチローがチャリパイを代表して、新年の抱負を述べながら挨拶をまとめる。


「作者も最近コメディあんまり書かないみたいだし、アタシ達の出番もあまり無いわね」


 てぃーだが少し寂しそうに呟いてビールを煽ると、子豚が悪態をついた。


「まあ、でしょうけどね」



 ほっとけ……


 すかさず、シチローが作者に忖度を利かせフォローする。


「いや、今度の新作は面白いらしいよ。【カクヨムコン11】進化し過ぎたAIは、人類を支配する。絶賛連載中~!」


 流石はシチロー、ナイスフォローである。そして、ひろきがそれに続く。


「ビールおかわり~♪」


 ダメだこりゃ……



☆☆☆



「それにしても……今年も物価が高くて大変な年になるんだろうな」


 近年の物価高騰は、森永探偵事務所の経営者であるシチローにとって深刻な問題であった。なにしろ、毎週のように開催されるチャリパイの宴会のほとんどはシチロー持ちなのだ。「必要経費」で落とすのにも限度があり、これらは森永探偵事務所の経営を圧迫する要素だった。


「まったく、今年はもう少し依頼が増えてくれないと経営が大変になっちゃうよ。何か臨時収入になるような依頼でも飛び込んで来ないかなあ~」


 シチローが零した愚痴の「臨時収入」というワードに、子豚とひろきの二人が思い出したように揃って顔を上げた。


「あっ、臨時収入で思い出したわ! 私、まだ年末ジャンボの当選数字見てなかった」


「あっ、あたしもまだだった!」


「なんだ、二人とも年末ジャンボなんて買ってたんだ。で、何枚買ったの?」


「あたしとコブちゃんで10枚ずつだよ。あたしが連番でコブちゃんがバラ」


「なんだ、たった10枚か。そんなの当たるわけないだろ」


 10枚ずつというひろきの答えに、シチローが呆れたように失笑した。確かに確率論で言えばその枚数で当る確率は、天文学的に低いのだが。


「なによ! そんなの、見てみなければ分からないでしょ! 当たってるかもしれないじゃないのよ!」


「まあ、1枚は当たるさ。が」


「ふん、もし1等が当たっても、シチローには何にも買ってやらないんだからね!」


「ねえ、コブちゃん。スマホで当り番号判るから、答え合わせしようよ」


 子豚もひろきも買った宝くじを財布の中に入れていた。二人で財布の中から宝くじを取り出し、スマホで番号を確認し始める。ひろきは連番で買った為、一目で当りが無い事がわかるが、バラで買った子豚は、まるでのような真剣さで1枚ずつ丁寧に番号を確認していった。


「コブちゃん、凄い集中力ね。そんな真剣なコブちゃん久しぶりに見るわ」


「仕事にもそれくらい真剣に取り組んで欲しいもんだな」


「うるさい、シチロー! 気が散るから少し黙っててよ!」



 10分くらい宝くじとスマホを見比べていた子豚が、突然その中の1枚を手にして勢いよく立ち上がった。


「あ…あたたたたたたたたたたたたたっ」


「なんだよ、コブちゃん。いきなりなんて始めて?」




「当たったわっ! 17!」


「「「なんですとおおおおお~~~~っ!」」」


 なんと! 子豚が買ったたった10枚の年末ジャンボ宝くじの中に、1等7億円の当選番号が紛れていたという。さすがチャリパイの4人の中でも特に設定の子豚である。ここ一番の引きは他を寄せ付けない強さを持っている。


「さあ~みんな、どんどん食べてどんどん飲んでちょうだい! ここは私の奢りよ! 明日は何を食べようかしら。お寿司屋さんとか、二日からやってるのかしら?」


「ええ~、コブちゃん、ホントに1等当たったの? いいなあ~」


「まあ、ひろきも残念だったけど、私がひろきの好きなものなんでも買ってあげるわよ!」


「じゃあ~あたし、業務用のビールサーバーが欲しいんだけど、コブちゃん買ってくれるの?」


「もちろん、買ってあげるわよ!」


「やったー! さすがコブちゃん!」


「まかせなさい! 何なら、わよ。お~ほっほっほっほっ!」


 セレブになり切って高笑いする子豚と、一緒になって盛り上がるひろき。そんな2人を見ながら、「自分も何か強請ねだってみようか」などと考えていたシチローの腕を、てぃーだが肘で突いた。


「ちょっと、シチロー……」


「うん、どうしたの… ティダ?」


 シチローがてぃーだの方を振り返ると、彼女は無言でシチローに「場所を変えて話そう」というように顎をキッチンの方角へと向けた。その表情は何故か曇っていて、シチローは不思議に思いながらもてぃーだと共にキッチンの方へと場所を移した。

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