第30話 肝試し③
肝試しの時間が近づき、レクリエーション係の言葉を合図に、僕らは集合場所へと移動する。
夜の山、というだけで雰囲気としては十分だ。おぞましいという言葉がよく似合う景色が目の前には広がっていた。
少し進むと、すでに女子の方は集まっていたので、到着するとすぐにペアの相手探しが始まる。
確定演出が出ているので、イレギュラーがなければ伊吹と雛倉はペアになれるはずだ。その先で、伊吹がどれだけ頑張るかはあいつ次第。
そんなことより、僕も相手を探さないと。
できれば知っている人がいいなというささやかな願いはあるけど、そうなると月宮に絞られるんだよな。
……いや、そりゃ月宮であれば嬉しいけど。
伊吹と月宮がペアを組まない以上は、それを望むくらいはいいだろ。好きかどうかは置いておいても、気心知れた相手のほうが安心するし。
「間宮!」
などと考えていると、遠くから男子をかき分けて月宮がこちらにやってきた。男子が残念そうな顔をしているところ、もしかしたら彼らは月宮とペアではなかったのかもしれない。
「間宮、7番なんだよね?」
「そうだよ、ラッキーセブン。月宮は?」
僕が尋ねると、月宮はふふっと笑ってから、紙を開いてこちらに見せる。にいっという笑顔が可愛かった。
「ラッキーセブン!」
「ま、まじか!」
まさか本当に月宮と同じペアになれるとは。神様ありがとう。お正月と腹痛のときしかあなたの存在を認めてなかったけど、僕は今日、あなたを拝みます。合掌。
「うん。あたし、怖いのあんまり得意じゃないけど、よろしくね」
「ああ。頑張るよ!」
僕は別にホラーの類に苦手意識はない。
そもそも、これはお化け屋敷といったアトラクションなどではない。せいぜい、教師が待ち伏せしている程度だろう。
ここで良いところを見せて……って、いや、何を考えてるんだよ僕は。過度な期待は身を滅ぼすんだ。身の丈にあった行動をしろ。
「あ、そうだ」
「ん?」
思い出したので、僕は気になっていたことを月宮に確認することにした。
「さっき、僕が協力をお願いしたとき、どうして渋ったんだ? なにか、気になることがあるなら、言ってほしいんだよ」
僕が言うと、月宮はすっと目を伏せた。
いつもは可愛らしさが前面に出ている月宮だったけど、月明かりに照らされたこともあってか、その横顔は美しさを表していた。
油断していると、飲み込まれてしまいそうな魅力に、僕は思わず生唾を飲み込む。
「……んーん、なんでもないよ」
「やっぱり伊吹の恋を応援するのは気が向かないとかか?」
「そういうんじゃないの。そうじゃなくて、もうちょっと別の……うん、これはやっぱり間宮には言えない」
「そっか」
月宮が、はっきりとそう言うのならば、僕にはこれ以上踏み込む権利はない。
何となく、落ちた空気になってしまったことは月宮も察したのか、いつものように笑って明るく振る舞う。
「それはもういーじゃん! せっかくなんだし、肝試し楽しもうよ!」
だから、僕もそれに乗ることにした。
彼女の言うとおり、せっかくの機会なのだから。好きな女の子と二人で回れる機会なんて滅多にないぞ。
「怖いのに楽しめるのか?」
「は? ヨユーだし。見てろよぉ?」
*
くじの数字順の出発とのことで、僕らは自分たちの順番が来るのを待っていた。
伊吹の姿を探してみれば、雛倉と一緒にいたので上手くペアを組めたようだ。楽しそうに話していたので、良い雰囲気っぽいし。
もしかしたら、伊吹の恋も上手くいくかもしれないな。
何気なく思ったことから、僕は自分がずっと向き合わないようにしていたことを思い出す。
伊吹が雛倉と上手くいくということは、月宮の恋が上手くいかないということだ。
もし、そうなったら。
月宮はどう思うんだろう。
悲しむだろうか。
辛いだろうか。
涙を流すのだろうか。
……月宮のそんな顔は見たくないな。
その時、僕はどうすればいいんだろう。
「なに? あんまりじろじろ見ないでよ」
「あ、ごめん」
無意識に月宮のことを見てしまっていたらしく、言われた僕は慌てて視線を逸らす。
すぐに月宮は「ま、冗談だけどね。あたし可愛いから見たくなるよねー」といつもの軽口を漏らしていた。
「次、7番の二人」
そんなことを考えているうちに、僕たちの順番が回ってきた。
とりあえず考えるのはやめよう。今はこの時間を楽しむんだ。
「それじゃ行こ、間宮」
「ああ」
スタート地点から森に入る。
決められたルートを通り、ゴールまで向かうことになっている。
そういや、この肝試しをゴールしたペアは結ばれる、というジンクスがあるんだっけ。
もちろんそんなジンクスを信じてはいないけれど、でも、もしそうならいいなという気持ちは拭いきれなかった。
ダメだな。
宿泊行事の夜ということもあって、テンションはもちろん思考も変な方向に上がってしまっている可能性がある。
こればっかりは本能の叫びだから、どうしようもないような気がする。
「だいぶ暗くなるな」
スタート地点から少し進んだだけで、道を照らす明かりはほとんどなくなる。頼りになるのは渡された懐中電灯一つだけだ。
この懐中電灯の電池が切れれば一巻の終わりというわけだな。
「……そ、そうだね」
気づけば、さっきまではまだ明るかった月宮の声は震えていて、僕のジャージの裾をしっかりと握っていた。
道を照らす明るさがなくなるのと比例して、月宮の余裕もなくなっていた。
「本当に大丈夫か?」
高校生にしては怖がっている。
いや、確かにホラー系が苦手という人は一定数いるだろうけど、その中でもトップクラスに怯えている様子だ。
「大丈夫よ。見てわかるでしょ!」
「大丈夫なのだとしたら、見て分かんないって」
どう考えても大丈夫じゃないから聞いたんだよ。
などと、思っていると近くの茂みがカサカサと音を鳴らした。得体の知れない獣か、あるいは待ち伏せしていた教師か。
そんなことを考えたけど、月宮からしたらそんなことはどうでも良かったらしい。
「いやぁぁぁあああああああああ!!?!??!?!?」
お手本みたいな悲鳴を上げた彼女は、僕に思いっきり抱きついてきた。むにゅ、と柔らかいものが押し当てられたけど、驚きのあまりそんなことを気にする暇はなかった。
「いやいやいやいや! ちょっ、間宮、早く言ってなにか来てるなにか来るから早く!!! ぼさっとしないで!!!」
こりゃ伊吹と一緒じゃなくて良かったよ。
可愛いという域を超えている取り乱しっぷりだ。
まあ。
僕レベルであれば、この程度も可愛いと思えてしまうのだけどね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます