第3話 最強のカシラ

地平線より遙か上に浮かぶ、白い月。

オレとカシラは山頂から遠くに見える海岸を見下ろした。


「な、なんで突然ビーチなんですか」

「女をたぶらかす凶悪な男がこんな辺鄙な村にいるわけがない。そういう輩は大体海沿いでナンパしてる」


どういう理屈なんだ。


「本当はバカンスに行きたいだけなんですよね?」

「まぁ、せっかくの二人きりの旅行だ。疑って悪かったな。他の組の連中が監視してると思ったが、今のところ気配はねェ」


確かにそうだけど、盗賊は夜に活動を行うはずだ。まぁカシラなら脅威でもなんでもないか。


「村の洞窟ん中で出てきた変な妖怪は拳銃チャカと蹴りでぶっ飛ばしたけどな」

「いや……だからそれがゴブリンだって言ってるじゃないですか。さっさとギルドに戻って報酬貰わないんですか?」


確かにカシラは強い。少なくとも洞窟にいたゴブリンの群れをまとめて瞬殺出来るのだから。単体ならオレでも余裕だけど。

でも異世界においても強者に君臨するのか、そこまでは分からないな。


呉武林ゴ・ブリンがただの妖怪だというのか? 俺は妖怪退治をしてるわけじゃないんだぞ!」


剛田が険しい顔で迫る、と思ったその時。


「テメェら、俺らの陣地で何してやがんだ?」


背後から野蛮な声がした。


「見かけねェ輩だな、勝手に来られると困るんだよ」

「フン! 小僧如きが。俺は一国の主だぞ」

「クハハハッ! こんなオジサンが冗談をよく言うな!」


むしろ剛田のナリで、王国の主だとまかり通るほうがおかしい。そこらのガキ大将がCEOだと名乗るようなものだ。


「チッ、舐めやがって!」


銃が弾かれた途端、その男は大人しく倒れた。

夜の静けさが戻ったのように。

だが束の間の出来事だった。


「相手が一人だと思われちゃ困るなァ!」


草むらの影から現れたチンピラ達。おそらくはこの世界における盗賊。


「フン、てめぇらも所詮、ゴブリンと同じだ! 奇襲で上手くいくと思うなよ!」


オレも威勢良く反応し、盗賊の一人に突撃する。


「何を寝ぼけたことを言ってる? この剛田がいる場所は全て、俺のシマだ!!!」


そうだ、暴力が正当化される世界。捕まる心配も無い。は自由なのだ。


「オルァアアアアアァァァ!!!」

「ぐはっ、なんだこの怪物は……」


カシラは圧倒的だった。盗賊の大半が倒れたところで、右手にある拳銃をカチャカチャと鳴らしている。


「チッ、もう銃弾が切れたか」

「その珍しいモノも押収してやる、テメェが死んだらな!」


そいつは斧を手にしていた。剛田に匹敵する体格の割に、動きは素早い。


「ハッ、冥土に行くのはお前のほうだろう!」


自慢の豪腕で上半身に一撃を与えようとしていた。だがオレは察知した。


魔獣モンスターだ!」


完全に嵌められた。もし仮に盗賊の勢力が麓にもいるのだとしたら袋小路じゃないか。

いや盗賊相手はまだマシだ。魔力を持たない人間なら、まずゴリラに勝てっこない。だが……


「フハハハハ! 若い冒険者でもないオジサンごときに倒せるわけないだろう!」

「フッ、動物の相手くらいワケないさ」

「そう言ってられるのも今のうちだな! コイツは俺の言いなりなんだ」


するとサイに似た図体の魔獣は「グオオオオ!」と咆哮した。どうやら魔獣をコントロールする能力を持ってるらしい。


「自分の力で戦わないなんて卑怯じゃないスか?」


オレは倒れた盗賊から奪ったナイフを握りしめる。なぜか剛田の姿が無い。


「オルァァアアアアアァァァ!!!」


茂みに潜んでいた魔獣にのしかかり、猛獣同士のバトルがとっくに始まっていた。どちらも思ったより俊敏だ。


「フハハ! 俺の手に掛かれば猛獣だろうと赤子をひねるようなもんよ」

「キィィィィィィッ!」


手刀で斬る動作をするたび、魔獣は悲鳴を上げる。オレはカシラが優勢だと思っていた。

遠目でも血しぶきが派手に飛んだ後。


「ガルルルル!」

「なんだ、うわぁっ!」


突然、紫色の光がまばゆく。魔獣がツノを振り上げた途端、カシラが山頂より天上まで吹き飛ばされた。

台風みてぇな衝撃波がこちらまで襲いかかる。


「あっ、月の真下にカシラが!」

「うわあああああ、俺を助けてくれぇええええ!」


誰かがクッションにならなければカシラは死ぬ。オレが下敷きになればオレは死ぬ。

今こそカシラへの忠誠を見せる場面だッ!!


「カシラ、今行きます!!!」


運良く茂みや木の中に落ちれば、カシラの体なら平気かもしれない。だが辺りは露出した地面だ。

オレがちゃんと受け止めてやらないと!


月明かりが急に明るくなった気がした。

カシラが白い絨毯にくるまれて、何かに支えられてるようだった。


「あ? 俺はもう天国にいるのか?」

「カシラ、天国から戻ってきてください!」


天にいるカシラに向かって思わずそう叫んだ。


「あはは、ゴリラが宙に浮いてる~」


どこか聞き覚えのある声だった。同時に絨毯の高度が少しずつ下がっていく。


「ちゃんと下ろさなきゃね」


振り返ると勇者の女の子だった。


「そろそろ魔力が切れちゃいそうだから落ちちゃうかも~」

「おい、余裕こいてるくせしてカシラを助ける気がないのか!?」


浮いてるカシラをそっちのけで、オレは真後ろにいる彼女の肩を掴んだ。

ガタッと落下する重い音が響く。


「イデデ、衝撃を尻で受け止めたから良かったけどよォ」


尻に付いた泥をはたきながら剛田は喋った。茂みの中にはまだ魔獣の姿が。


「俺は……魔法少女になるっきゃねェ」


てっきり頭でも打ったのかと思った。


「それ、本気で言ってるんスか?」

「本気だ、俺は魔法少女になるっきゃねェ」

「ええええええええええええええええええええええ!」


もしかしてさっきの魔法で本格的に目覚めちゃったとか……?





「ドラゴン討伐のついでにお散歩だよ~♪」


勇者の女の子はスキップしながら軽やかに言う。


「あのサイが一撃だもんな。おなごにしてはやるじゃないか」

「ふふ~ん、だってあたし強いもんね」


カシラはやけに神妙な顔をしていた。こんなことは滅多にない。


「魔法少女ってまさかお前なのか?」

「あたしは勇者様ってみんなに呼ばれてるけど、魔法少女のほうが嬉しいかも」


ピンク色の髪をなびかせながら、少女は微笑む。


「強いんだな、俺を弟子にさせてくれないか」

「え? あたしが師匠?」


やっぱり頭でも打ったんじゃないか。


「ええええええええええええええええええええええ!」

「ゴリラの調教なら得意だよ~」

「おぉ、調教まで得意なら人に教える才能もあるんじゃないか?」


カ、カシラ、本当に生まれ変わってるぅーーーーー!

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異世界ヤクザ ねいげつ @neigetsu

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