異世界ヤクザ

ねいげつ

第1話 ヤクザ召喚

ズゴッ!


腐臭漂うゴミ箱の中に、オレの顔面が押しつぶされた。


「ウゲェェ」


絶賛リンチ中である。元野球部、運悪く体格が良すぎたせいで、東京のヤクザの一介に雇われてしまった件。


気づけばなぜか隣には俺を襲った剛田までいた。


「ああん? なんだァここは?」

「うぐぐ!」


ベッドに座った漢二人。オレは首根っこを掴まれた。


「よくも舐めやがったな! 俺に睡眠薬を飲ませて、辺鄙な田舎まで連れてったんだろ?」


ドアは開きっぱなしだった。剛田の怪力のせいで早くもゴミ溜めで瀕死しかけた時の感覚を思い出す。アスファルトに慣れすぎたせいか、オレもこんな絵に描いたような大草原を見るのは家族旅行ぶりだ。


「どうなんだ言ってみろ!」

「そんなこと出来るわけじゃないですか……カシラ、うぐっ!」


吐き気がするほど苦しい。でもオレには分かった。紛れもなくそういうことなのだと。


「多分、ここって異世界なんだと思います」

「ハァ? 異世界? って何だっけなぁ」

「えっと……モンスターとか、オレたちのシマにはいない強い敵がたくさんいるんすよ。もしかすると魔王もいるかも」


剛田は急に腕を組んで考えるポーズをした。あぁ、生きた心地がしない。


「よく分かんねぇが、ここにチンタラいるわけにはいかねぇ。須藤組が俺たちを追ってきてるかもしれねぇからな」

「まぁ……盗賊とか、魑魅魍魎はいそうですけど」


やっぱり年行ったおっさんだからなぁ、異世界と言われてもピンと来ないのだろう。AV雑誌くらいしか読まなさそうだし。

一応、他の奴らも一緒に転生してるかもしれないし、カシラの言うとおり、外を確かめたほうが良さそうだな。


剛田は立ち上がるとドアの外に出て、辺りを見渡す。


「おう、なかなか空気はいいじゃねぇか。やること終わったら、たまにはゴルフ場で俺の腕前を見せてやろう」


大きく胸に息を吸い込みながら、ドヤっと言う。確かに最高の日和だが、ゴルフ場はないと思う。

肩にポンと手を当てられ、ずしっとプレッシャーが掛かった。


「いいな? 今回はお前の言葉を信じる。吐いた唾は飲めんぞ!」


グイッと肩に圧がかかる。剛田の特殊スキル、「にらむ」は人類最強レベル。

というか、黄ばんだ歯に口臭を撒き散らす、まさしく生けるゴリラ。


「は、はい……カシラ」


眼圧に押されながら、少し顔をずらす。

草原の奥にあるオアシスが視野に入った。なんて癒やされるんだ、対照的すぎる。


「ぴぎぃいいいい!」


遠くには轢き殺されたスライムの姿が。でもまだ何匹も居る。後ろは勇者パーティーかな。


「勇者様! やり過ぎですよ」

「えぇ~ちょっと勢いが強すぎたかなぁ」

「水スライムが跳ね返ってこっちもベチャベチャなんですよ……」

「とにかく数が多いから気にしてられないもん、まとめて片付けよっ!」


意外にも勇者はキャピキャピした女の子だった。可愛い。


「ああん? ガキの声がするなぁ」


と剛田が振り返った途端、ベットリしたものが直撃する。


「うぎゃ!!!」


スライムの群れがこっちに飛んできた。


「うわわ、スライムがあっちまで飛んでいきましたよ!?」

「あちゃ~なんかこわ~いオジサンがいるよ? きゃははは、変な顔~」

「ちょっと、いくら勇者様だからといって失礼な態度はダメですって」


嫌な予感がする。だけど水スライムを浴びた後の顔面はツヤを帯びていた。もしや洗浄効果なのでは。


「いやぁ綺麗ですよ。まるで綺麗なジャ……」


そう言いながら笑いを抑えきれなくなる。


「コラァ、俺の顔に唾つけやがったな! ガキのくせにいい度胸してんじゃネェか!」


剛田は勇者パーティーに向かってダッシュした。スライムは全滅したけど争いの種が蒔かれてしまう。

こっちに火の粉が飛ばなくてマジよかったわ。笑ってる顔、見られないといいけど。


「あっ、ゴリラがこっち来てる~ 逃げなきゃ~!」

「もしかして新種ですかね」


真面目そうな眼鏡の少年もゴリラネタに便乗してる。見たところ魔法使いっぽいナリだな。


「エクストリーム・ハイキック!」


勇者の女の子がスライムの残骸をサッカーボールのように蹴り飛ばす。


「おじさ~ん、ほらパスするよ」

「ガハハ、2度目が通じると思うなよ!?」


華麗な回避、と思いきや今度はケツがびっちょり。眼鏡の少年も駆けつけ、勇者パーティーとヤクザ2人は運命の出会いを迎えた。


「坊主君はもしかしてオジサンの付き人?」

「い、いや違ぇよ……オレのカシラだ」


こうして異世界ヤクザの1日目がスタートしたのである。

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