地味子に擬態して童貞紳士を狙ったら、彼の理性が鉄壁すぎてご飯(精気)が食べられません! ~誘惑したい初心者サキュバス vs 守りたい最強の紳士~

@rikurina

第一部

第1話:サキュバス、アプリの闇に触れる

ブブブブブブブブブブッ!!!

ブブッ、ブブブブブッ!!!


「ひ、ひいぃっ!? 怖い、怖いですぅ……ッ!!」


 安アパートの薄暗い一室。

 私は震える手で、悲鳴を上げ続けるスマートフォンを布団の上へと放り投げた。

 画面には、怒涛の勢いでポップアップ通知が重なっていく。


『はじめまして! 写真見ました、巨乳最高っすね!』

『今から会える? ホテル直行で3万どう?』

『俺のモノ見てください(画像添付)』


「無理無理無理! 日本の男の人、飢えすぎじゃないですか!?」


 私は涙目で頭を抱え、部屋の隅で小さく丸まった。


 私の名前はリリム。

 立派なサキュバスになるため、魔界から人間界へに来たサキュバスだ。

 サキュバスといえば、夜の街で男を誘惑し、夢心地にさせて精気をいただくのが仕事。

 ……なんだけど。


「ナンパ待ちとか、怖くて足がすくんで動けなかったし……」


 路地裏に立ってみたものの、声をかけられた瞬間に「す、すみません!」と謝って逃げ出してしまったのが三日前。

 このままでは精気が尽きて、魔界に強制送還されてしまう。

 そこで思いついたのが、現代の利器『マッチングアプリ』だったのだ。


 プロフィールには、馬鹿正直にこう書いた。


『サキュバスです。初めてなので優しくしてくれる人を探しています。お腹が空いているので、ご飯(精気)をください』


 そして、胸元を少し強調した自撮り写真をアップしたのだが……それが間違いだった。

 登録からわずか十分で「いいね!」の数はカンスト。

 届くメッセージは欲望丸出しの猛獣のような言葉ばかり。


「こ、こんな人たちと会ったら、私なんて骨まで食べられちゃう……っ」


 私は決死の覚悟でスマホを拾い上げると、震える指で『退会』ボタンを連打した。

 ふぅ、と静寂が戻る。

 でも、お腹の虫はグゥと鳴ったままだ。


「……作戦変更、です」


 私は鏡の前に立った。

 派手な衣装を脱ぎ捨て、量販店で買ったヨレヨレのグレーのスウェットに着替える。

 長い銀髪は、きっちりと三つ編みに。

 そして、顔の半分を覆うような、黒縁の野暮ったい「ぐるぐる眼鏡」を装着する。


 鏡の中にいたのは、どこからどう見ても、クラスの隅で本を読んでいそうな地味な芋女だった。

 けれど、今の私にはこれが最強の鎧に見える。


「これなら……これなら絶対に、ヤリモクの変な人は来ないはず!」


 私は別のアプリをインストールし、新しいプロフィールを作成した。


 名前:リリ(20)

 写真:眼鏡と三つ編みで、口元まで隠した地味な自撮り

 自己紹介文:

『人見知りです。真面目な方とお話したいです。まずはカフェでお茶からお願いします。お互いに合意できたら、食事相手(※隠語のつもり)になってほしいです』


 完璧だ。

 これなら、「サキュバス」という獲物を狙う狩人たちは寄ってこない。

 来るとしても、私と同じように奥手で、真面目で、優しい人だけのはず。


 登録ボタンを押す。

 今度は、通知が鳴り止まないなんてことはなかった。

 シーンとした部屋で、静かに待つこと一時間。


 ポコン。


 軽やかな通知音が一度だけ鳴った。

 恐る恐る画面を見る。


『マッチング成立!』


 相手のプロフィールを見る。

 名前は「ケンジ」。年齢は二十代後半。

 写真は、当たり障りのない風景画。自己紹介文も『仕事が忙しくて癒やしが欲しいです。カフェ巡りが趣味です』と簡素だ。


「……この人なら、大丈夫かも」


 獣のようなギラつきを感じない、草食動物のような気配。

 彼なら、私がリードして(※できるつもり)、安全に食事(精気摂取)ができるかもしれない。


 私は高鳴る胸(と空腹)を抑えながら、メッセージを送信した。


『はじめまして。リリです。あの……よかったら、今週末にお会いしませんか?』


 これが、私の運命(と勘違い)の始まりだった。

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