同じ指輪の秘密
藍川陽翔
第1章「偶然の指輪」
澪は、何気なく手を伸ばしたカバンから指輪を取り出し、指先にはめる。その瞬間、ふと目にしたのは、クラスで話題になっているあの「流行り」だった。
「ねぇ、澪くん、指輪つけてる?」
友人の一人が澪に話しかけてきた。その問いに、澪は少し驚いたように目を細めたが、すぐに思い出す。最近、学校で話題になっているのは、「好きな人と同じ指輪をつける」ということだった。誰が始めたのか分からないけれど、あっという間にその「流行」が広まっていた。
「別に、流行に乗ったわけじゃないけど…」
澪はそう言いながら、指輪を少しだけ眺めた。それは、ただのシンプルなデザインのリングで、特に意味があるわけでもない。ただ、彼が気づいたときには、もう指にしっかりとはまっていた。
「でも、まさか澪くんも…」
友人は、嬉しそうに微笑んだ。「意外と、そういうの気にするタイプだと思わなかったよ。」
澪は笑って、あまり気にしていないふりをした。「まあ、流行に流されるのも悪くないかな。」
その日、昼休みの時間が過ぎると、澪は教室を出て校舎の廊下を歩いていた。いつものように、特に何をするわけでもなく、ただ静かに過ごす時間を楽しんでいた。
そのときだった。
前方から歩いてきたのは、学年No.1のイケメン、優雅だった。彼は、澪が気づくよりも先に、澪に気づいたようで、わずかに目を合わせた。優雅はクラスでも有名な存在で、その美しい容姿と冷徹な性格で知られていた。澪自身も、もちろんその噂を聞いてはいたが、実際に顔を合わせることはほとんどなかった。
しかし、今日、澪は偶然にもその優雅と目が合った。
「…あれ?」
澪は不意に立ち止まる。優雅も、わずかに目を細めながら澪の方向へと歩み寄ってきた。突然、優雅の右手に目が留まる。そこには、澪と同じデザインの指輪がはめられていた。
あれ?
指輪をつけていることに気づいた瞬間、澪は急に自分の心臓が跳ねるのを感じた。その指輪、もしかして…同じもの?
優雅が軽く笑った。「君もか。」
澪は一瞬言葉を失うが、すぐに冷静を取り戻し、ぎこちなく返事をした。「あ、はい。偶然です。」
優雅は小さく笑みを浮かべ、澪を見つめながら言った。「偶然?それならいいんだ。」
その言葉に、澪はどこか気まずさを覚えた。優雅がどうして自分に話しかけてきたのか分からなかったし、同じ指輪をしているというだけで、何か特別な意味があるのかと疑問を抱きながらも、やり過ごしたかった。
でも、優雅の目が澪の指輪をじっと見つめているのが気になった。まるで、何かを探しているように。
「君も、誰かとお揃いにしているのか?」
優雅の言葉が澪の頭の中で反響する。澪は口を開くものの、どう答えていいのか分からない。
「えっと…」
澪は少し間を置いてから答えた。「特に、誰かというわけではないです。流行に乗っただけです。」
優雅はその答えに、ふっと微笑んだ。「そうか。」
その後、何も言わずに、優雅は先に歩みを進めた。澪も、何となくその後をついていくように歩き出したが、心の中ではどこかざわついていた。
優雅があの指輪について、何か意味を持っているのだろうか。それとも、単なる偶然なのだろうか?
澪はその日、一度もその疑問を解決できないまま、学校が終わり自宅へと帰ることとなった。
次の日、澪は朝からどこか落ち着かない気持ちで学校に向かっていた。昨日、あれだけ偶然に優雅と指輪を重ねてしまったことで、心の中に小さな波紋が広がっていたのだ。自分でも何が気になるのか、正直に言うと分からない。だが、確かに気になる。彼がつけていた指輪、そしてその目線。
澪は登校すると、朝のホームルームの前に友人たちと会話を交わしていた。しかし、昨日の出来事が頭の中を離れず、心ここにあらずという状態だった。
「澪くん、ちょっと顔色悪いけど、大丈夫?」
友人の小野田が心配そうに声をかけてきた。
「え?ああ、大丈夫だよ。」
澪は軽く笑って誤魔化すが、どうしても昨日のことが引っかかっていた。昨日の優雅とのやり取りを振り返るたびに、あの冷たいようでどこか温かさを感じる笑顔が浮かぶ。
「それにしても、あの指輪、何か意味があるのかな?」
小野田がふと口にした言葉に、澪はハッとした。
「え?」
「だって、流行りとはいえ、わざわざお揃いにしてる人たちって、みんな意味があるんだろうなって思うんだよね。もしかして、澪くん、誰か気になる人でもいるの?」
その問いに、澪はすぐに首を振った。「いや、そういうわけじゃないよ。」
ただ、昨日の優雅の反応が妙に気になっていた。しかし、澪はそのことを誰かに話すわけにもいかないし、何も言わずにやり過ごすことに決めた。
午後の授業が始まると、澪は何度も視線を走らせてしまう。どこか遠くに見える優雅の姿を。澪が目を向けるたびに、優雅もまた、ちらりと自分を見ているように感じて、心臓が少しだけ高鳴る。
――こんなことで、動揺するなんて。
澪は自分に言い聞かせた。けれど、どうしても昨日のことが引っかかって、意識していないつもりでも、目の前の優雅が気になる自分がいる。
放課後、澪は友人たちと一緒に帰る途中、校舎の前で立ち止まった。ふと見上げると、目の前に優雅がいた。彼は、他の生徒と少し距離を置いて、静かに立っている。その美しい容姿に、周りの生徒たちがどこか遠巻きにしているのが分かる。
澪の心臓が急に速くなるのを感じた。どうしてこんなことで緊張しているんだろう。昨日の会話はあんなに短かったのに、どうしても彼の存在が頭から離れない。
「……あ、澪くん。」
その声で、澪はハッと顔を上げた。優雅が、何もなかったかのように歩み寄ってきた。その表情は冷静そのもので、まるで昨日の出来事がなかったかのように感じられた。
「昨日は驚いたけど、あの指輪、君がつけているのも偶然じゃない気がする。」優雅の声は静かで、澪の心に直接響くようだった。
「え?そ、そうですか?」澪は何とか冷静を保ちながら答える。
優雅は少し微笑んだ。「うん、偶然でも、君も少しだけ気にしているんじゃないかって思って。」
その言葉に、澪は胸の奥で何かが引っかかるのを感じた。
「気にしてるわけじゃ…」
澪は言いかけて、すぐに言葉を飲み込む。優雅が彼をじっと見つめる。その視線がどこか鋭く、澪は思わず目をそらしてしまった。
「別に、気にしてもいいんだよ。」優雅はふとそう言って、少しだけ歩き出した。澪もその後に続くが、心の中で何かが膨らんでいくのを感じていた。
「それに、もし君が気にしているなら、もっと話してもいい。」
優雅は軽く肩をすくめると、少し照れたように微笑んだ。
その言葉に、澪は一瞬息を呑んだ。優雅が、自分にそんな風に接してくることが信じられなかったからだ。
「……じゃあ、また明日。」
優雅はそう言い残して、どこか遠くに歩き去った。澪はその場に立ち尽くしていた。何かが心の中で大きく動き出した気がしたが、どうしてもその意味が分からなかった。
澪の目の前に、まだあの指輪が輝いているように感じられた。
澪はその日の帰り道、心の中で何度も自問自答していた。優雅の言葉が耳に残る。
「もっと話してもいいんだよ。」
その言葉が、澪の胸を締めつけるように響いていた。あれはただの軽い言葉だったのか、それとも何か意図があって言ったのか。どちらにしても、澪にはそれを見抜く力がなかった。
「気にしてるなら、もっと話してもいい。」
その一言に、澪は確かに心を動かされた。しかし、その反応が何なのか自分でも分からなかった。優雅のことを意識している自分に、どこか恐怖を感じていた。今まで感じたことのない種類のドキドキが、胸の中に広がっていく。
翌日、澪はいつも通り学校へ向かっていたが、朝からどこか浮かない顔をしていた。いつもなら友達と冗談を言いながら過ごす時間も、今日はうまく笑えなかった。
授業が始まり、ついに昼休みが来ると、澪はふと教室のドアを開けた。そこには、また優雅が立っていた。クラスの誰もがその存在を意識し、優雅の周りには自然と人々が集まっていたが、今日は何故か澪の方に視線を向けてくる。
「澪くん。」
声が聞こえ、澪は驚いて振り返った。優雅が彼に向かって歩いてくる。
「昨日、何か言い忘れたことがあったかもしれない。」優雅は、まるで照れ隠しでもするかのように、少しだけ手をポケットに突っ込んだまま言った。
「言い忘れたこと?」澪は思わず眉をひそめる。
優雅は一度その言葉に答えることなく、澪の目をじっと見つめた。澪はどう反応していいのか分からず、視線を逸らしそうになるが、優雅がその瞬間に口を開いた。
「…君も、もしよければ、もう少しだけ、あの指輪のことを話してみるか?」
その言葉に、澪は息を呑む。何も言わずに、優雅の言葉が澪の心に響いていた。彼が言っているのは、あの指輪のことが気になるのではなく、むしろそれをきっかけにして、もっとお互いのことを知りたがっているのではないか。そう思うと、胸の奥で何かが震えるような感覚があった。
「それとも…君は、気にしてないのか?」優雅が少し口元を緩めて言った。
その言葉に、澪は再び心を打たれる。まるで自分がどう答えるかを知っているかのような優雅の視線。その優雅の冷静な、しかし確実に澪を引き寄せる力に、澪はますます引き込まれていった。
「えっと…」澪は目を合わせたまま、言葉を選ぶ。
「気にしてるわけじゃ…ないけど。」
その言葉が、何だか自分で自分を誤魔化しているようで、澪は思わず顔を赤くした。
「ふーん、そう。」
優雅は一度澪の反応を見た後、軽く笑って言った。「でも、君が気にしてないと言っても、僕は少し気になる。」
その一言で、澪は思わずハッとした。優雅が自分に言うその「気になる」という言葉に、何か心の中で膨らんだものを感じた。それは決して軽いものではなく、心の中に強く残る重みがあった。
「君のことも、少しだけ気になるから。」優雅のその言葉は、澪にとって、まるで温かい手が触れたかのように感じられた。
その後、澪はほとんどの時間を優雅のことを考えながら過ごした。昼休みが終わり、授業が再開されるまで、澪は何度も優雅の言葉を反芻していた。彼の言葉には、優雅な外見とは裏腹に、どこか真剣なものが隠れているように感じられた。
放課後、澪は普段のように帰り道を歩いていたが、今日は何かが違っていた。校舎の出口で、再び優雅が待っている気がして、澪は少し足を止めた。その時、ふと耳にしたのは、優雅の声だった。
「澪くん。」
振り返ると、そこには確かに優雅が立っていた。あの日と同じように、少し遠くから澪を見つめている。
「君、気になる人がいるなら、もっと素直になってみたら?」優雅がそのまま言った。
澪はその言葉を聞いて、急に冷静を取り戻した。どうして優雅がこんなことを言うのか、その意味が掴めなかった。
「気になる人?」澪は思わず口に出してしまった。
優雅は笑みを浮かべ、目を細めた。「うん。でも、君がその気持ちに気づかないうちは、無理に伝えても意味がないから、焦らなくていいんだ。」
その言葉に、澪は少し安心し、同時に心の中で何かがはっきりとした。優雅もまた、澪と同じように、この関係に少しずつ踏み込んでいるのだということを。
そして、優雅が最後に言った言葉が、澪の心に強く響いた。
「指輪が、君と僕の間で、何か特別な意味を持つといいな。」
澪はその後、少しだけ微笑んでから、「うん、そうだね。」と返した。
その後、澪は心の中で何度もその言葉を繰り返していた。優雅が意識的に言った言葉、そしてそれをどう受け取るかは、もう澪にかかっていた。
指輪がただの偶然のものではなく、二人をつなぐ重要な絆になりうることを、澪は強く感じた。
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