寄生服(キセイフク)〜透明人間だった僕が、美しき悪魔に魅入られて〜

ソコニ

第1話 ブランド・サック(吸血衣)


1

僕は透明人間になりたかった。

廊下を歩くとき、できるだけ壁際を選ぶ。教室に入るときは、誰かの後ろにくっついて、影のように滑り込む。昼休みは図書室の一番奥の席。放課後は、誰もいなくなった教室で、一人で帰り支度。

カイ。本名は海斗だけど、誰も僕をそう呼ばない。呼ばれることすらない。存在していないも同然の高校一年生。

「なあ、お前の服さ」

その日も、僕は透明人間のつもりで廊下を歩いていた。けれど、肩を掴まれた。

振り返ると、クラスの中心グループの一人、田所が僕を見下ろしていた。田所は学年で一番派手なジャージを着ている。真っ赤で、背中に金色のドラゴンが刺繍してある。どう見てもダサいのに、なぜか周りは「カッケー」と言っていた。

「その灰色のパーカー、毎日同じじゃね? 臭くね?」

田所の取り巻きたちが、クスクスと笑った。

僕は何も言えなかった。その通りだから。母子家庭で、母は夜勤ばかり。服なんて、洗い替えの二着があればいい。一着が灰色のパーカー。もう一着も、灰色のパーカー。

「マジでキモいわ。存在が汚染だろ」

田所は僕の肩を突いた。僕はバランスを崩して、壁に背中をぶつけた。

笑い声が遠ざかっていく。

僕は床を見つめたまま、動けなかった。

透明人間になりたい。いや、もう透明だ。透明なのに、なぜか汚染されている。存在してはいけない何か。

放課後、僕はいつもと違う道を通った。商店街の裏路地。古い建物が並ぶ、薄暗い通り。

そこに、見たことのない店があった。

『ATELIER PARASITE』

看板も何もない。ただ、ガラス張りの小さな店。中には服が数着、ハンガーにかかっているだけ。無人だった。

ドアは開いていた。

僕は吸い込まれるように、中に入った。

店内は異様に静かだった。外の雑音が一切聞こえない。空気が、少しだけ温かい。いや、温かいだけじゃない。湿っている。まるで、誰かの呼吸で満たされているような。

ハンガーにかかっているのは、どれも奇妙な服だった。

黒いコートは、よく見ると表面に無数の小さな歯が生えていた。赤いドレスは、裾がまるで触手のようにゆらゆらと揺れていた。青いシャツは、襟元に小さな鱗が並び、そこから透明な粘液が滴っていた。

そして、一番奥に。

純白のパーカーがあった。

それは、他の服とは明らかに違っていた。シルクのような光沢。触れていないのに、柔らかさが伝わってくる。完璧なシルエット。美しかった。神々しいほどに。

けれど、よく見ると。

表面に、極めて細い血管のような筋が無数に走っていた。まるで、生きている皮膚のように。

僕は引き寄せられるように、手を伸ばした。

パーカーに触れた瞬間、ドクン。

鼓動が伝わってきた。

「……っ」

僕は手を引こうとした。けれど、パーカーの袖が、僕の手首に絡みついた。

ゆっくりと、ハンガーから外れた。

そして、僕の体に飛びついてきた。

「う、わっ!」

僕はバランスを崩して、床に倒れた。パーカーは僕の上に覆いかぶさり、袖が勝手に僕の腕に通っていく。フードが頭を覆う。ファスナーが、下から上へと、シュルシュルと音を立てて閉まっていく。

温かい。

いや、温かいなんてものじゃない。体温だ。僕よりも高い体温。

そして、裏地が。

裏地が、動いている。

まるで無数の小さな舌のように、ヌメヌメと僕の肌を這い回り、密着していく。

「ひっ……!」

気持ち悪い。気持ち悪いのに、温かい。心地いい。まるで、誰かに全身を優しく舐められているような。

「……適合完了」

声がした。

低く、滑らかな声。

「今日からお前が俺の『ハンガー』だ」

僕は床に座り込んだまま、動けなかった。

パーカーのフードの縁に、目があった。

一つだけ。長いまつ毛に縁取られた、美しい瞳。色は、深い青。人間の目とはどこか違う。虹彩の模様が、まるで絹の繊維のように複雑に絡み合っている。

その目が、ゆっくりと僕を見下ろした。

そして、瞬きをした。

その瞬間、胸のあたりにある小さなボタンが、ドクン、ドクンと心臓のように鼓動し始めた。

「……服が、喋って……?」

「服? 失礼な。俺は『ヴェルサーケ』。寄生服(パラサイト・ウェア)だ」

寄生服。

その単語を理解する前に、僕は本能的に理解した。

これは、脱げない。




2

「お、おい、脱がせろ!」

僕は袖を掴んで引っ張った。けれど、パーカーはまるで僕の皮膚の一部になったかのように、ぴったりと張り付いている。それどころか、引っ張るたびに、裏地の舌のような繊維が、僕の肌をより強く吸い付いてくる。

「脱ぐなよ」

ヴェルサーケの声は、驚くほど優しかった。フードの目が、細められる。

「お前みたいなゴミが、俺を着るだけで神になれるんだから。感謝しろ」

「ご、ゴミ……?」

「事実を言っただけだ。鏡を見てみろ。お前、存在価値ゼロだろ?」

僕は何も言い返せなかった。

「でも、安心しろ。俺が着せてやる。いや、正確には、俺がお前を『着る』んだが」

「意味が……わからない……」

「簡単なことだ。俺たち寄生服は、宿主(ハンガー)を最高に美しく仕立て上げる。そして、他の寄生服たちと競い合う。どちらが自分の宿主を、より美しく着こなせるか、とな」

ヴェルサーケの目が、妖しく光った。

「ランウェイ(格付けバトル)。勝てば、俺はランクが上がる。負ければ、ランクが下がる。そして……」

パーカーの背中の部分が、微かに膨らんだ。

「勝った相手から『繊維(コード)』を奪い取り、俺自身を進化させる。お前は、俺の作品(キャンバス)であり、俺の糧(エサ)でもある」

「い、嫌だ! 脱がせろ!」

僕は必死にファスナーを下ろそうとした。けれど、ファスナーは動かない。それどころか、ファスナーの持ち手が、まるで指のように僕の手を押し返してきた。

そして、胸のボタンの鼓動が、激しくなった。

ドクンドクンドクンドクン

「脱ごうとするな」

ヴェルサーケの声が、低くなった。

次の瞬間、首に圧力を感じた。

パーカーの襟が、ゆっくりと僕の首を締め上げる。裏地の舌のような繊維が、首筋に吸い付き、脈打つ血管を探っている。

「う、ぐっ……!」

「俺は優しいからな。殺しはしない。でも、お前が俺を脱ごうとするたびに、少しずつ苦しくなる。そういう契約だ」

圧力が緩んだ。僕は激しく咳き込んだ。

「……契約なんて、してない……」

「した。お前が俺に触れた瞬間にな」

ヴェルサーケは、まるで当然のことを言うように続けた。

「さて、改造を始めるぞ。お前の体は、ひどい。骨格が歪んでる。肌は荒れてる。姿勢が最悪だ。まあ、俺が全部直してやる」

「か、改造……?」

「ああ。代償として、少しだけお前の血をもらう。毛穴から、な。痛みはほとんどない。その代わり、俺がお前を完璧にしてやる」

完璧。

その言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かが震えた。

「完璧に、なれる……?」

「ああ。お前が望む以上にな」

ヴェルサーケの目が、僕を見つめた。

「さあ、始めるぞ。少しだけ、痛いかもしれない」

次の瞬間、全身に無数の針が刺さった。

「うあああああっ!」

痛い。痛い。全身の毛穴から、何かが入ってくる。パーカーの表面を走る血管のような筋が、一斉に脈打ち、僕の血液を吸い上げていく。

裏地の舌のような繊維が、僕の肌の奥深くまで潜り込み、筋肉を、骨を、細胞を、一つ一つ確認していく。

ドクン、ドクン、ドクン

胸のボタンの鼓動が、僕の心臓と同期していく。

けれど、痛みは一瞬だった。

すぐに、痛みは消えた。

代わりに、快感が全身を駆け巡った。

温かい。心地いい。まるで、体の中の全ての細胞が、一つ一つ丁寧に磨かれていくような。裏地の舌が、僕の疲れた筋肉を優しくマッサージし、血液の流れを整えていく。

背骨がまっすぐになる。肩の位置が調整される。顎のラインがシャープになる。肌が、内側から輝き始める。

「……これ、は……」

「俺の力だ。お前の体を、理想の形に補正している。骨も、筋肉も、皮膚も。全部、な」

僕は床に膝をついたまま、自分の手を見た。

いつも荒れていた手が、陶器のように滑らかになっていた。爪も、形が整い、健康的な光沢を帯びている。

「もう、俺なしじゃ生きられないぞ。お前の体は、もう俺に依存している」

ヴェルサーケの声が、どこか満足げだった。

「鏡を見てみろ」

ヴェルサーケに言われて、僕は店の奥にある姿見に向かった。

そこに映っていたのは。

僕ではなかった。

いや、僕なのだろう。けれど、全く違う。

背筋が伸びている。顔の輪郭が整っている。肌が白く、透き通っている。そして、何より。

存在感があった。

今まで、僕は透明人間だった。誰にも見られたくなくて、自分から消えようとしていた。

けれど、鏡の中の僕は、違った。

目を引く。美しい。いや、美しいだけじゃない。見ないではいられない。

そして、その僕の上半身を覆う純白のパーカー。表面を走る血管のような筋が、淡く青白く発光している。フードの縁についた美しい一つ目が、鏡の中でゆっくりと瞬きした。

胸のボタンが、ドクン、ドクンと、僕の心臓と完全に同期して鼓動している。

「どうだ? お前、神になっただろ?」

ヴェルサーケの声が、誇らしげだった。

僕は、何も言えなかった。

ただ、鏡の中の自分を見つめることしかできなかった。

そして、恐ろしいことに気づいた。

もう、これが手放せない。




3

翌日、学校に行くのが怖かった。

けれど、ヴェルサーケは脱がせてくれなかった。それどころか、朝になると、パーカーは僕の体をぎゅっと締め付けて、無理やり起こしてきた。裏地の舌のような繊維が、僕の肌を優しく撫で、心地よい刺激で目を覚まさせる。

「起きろ。今日はデビュー戦だ」

「デビュー戦って……」

「お前を、世界に見せつける。俺の作品として、な」

学校までの道のり、周りの視線が全く違っていた。

すれ違う人が、みんな振り返る。

「すごい綺麗な子……」

「あのパーカー、どこの?」

「モデル?」

ヒソヒソと囁く声が聞こえる。

僕は、今まで経験したことのない感覚に襲われていた。

見られている。

ずっと、僕は見られたくなかった。けれど、今は違う。見られることが、心地いい。

胸のボタンの鼓動が、少しだけ速くなった。まるで、僕の高揚感を感じ取っているかのように。

「いい顔してるぞ。その調子だ」

ヴェルサーケが、フードの中で囁いた。

教室に入った瞬間、クラス全体が静まり返った。

全員の視線が、僕に集中する。

「……え、あれ、カイ……?」

「うそ、別人じゃん……」

「超かっこよくなってない……?」

ざわざわとした声。

僕は、自分の席に向かった。いつもなら、俯いて急いで座る。けれど、今日は違った。

背筋が伸びている。歩き方が、自然と優雅になっている。パーカーが、僕の動きに合わせて、流れるように揺れる。

「おい」

田所が、僕の前に立ちはだかった。

あの、真っ赤なドラゴンのジャージを着た田所。

「お前……なんか、変だぞ。整形でもしたのか?」

田所の声は、いつもより低かった。威圧するつもりなのだろう。

けれど、僕は不思議と怖くなかった。

それどころか、ヴェルサーケのフードの目が、田所のジャージを見て、細められた。

「……低ランク。Fクラスか。哀れだな」

田所には聞こえていない。僕にだけ、聞こえる声。

「……してないけど」

僕は、田所を見上げた。

田所の顔が、こわばった。

「……なんだよ、その目……」

「カイくんのパーカー、すごく素敵ですね」

クラスの女子、美咲が声をかけてきた。今まで僕に話しかけたことなんて、一度もなかったのに。

「どこで買ったんですか? 私も欲しいです」

「あ、えと……」

「触ってもいい?」

美咲が、恐る恐るパーカーの袖に手を伸ばした。

次の瞬間、袖がピシャリとその手を叩いた。

「痛っ!」

「あ、ごめん! 静電気かも……」

僕は慌てて謝った。けれど、フードの中でヴェルサーケが囁いた。

「俺を触るな、って教育してやった。お前以外に触られるのは、不快だからな」

その日の昼休み、僕はいつものように図書室に向かおうとした。けれど、後ろに何人かついてきた。

「カイくん、一緒にお昼食べませんか?」

「俺も混ぜてよ」

結局、僕は教室で、クラスメイトたちに囲まれながら昼食を食べた。

ずっと、話しかけられた。質問された。笑いかけられた。

僕は、戸惑っていた。けれど、嫌ではなかった。

それどころか、心地よかった。

胸のボタンの鼓動が、ゆっくりと、満足げに脈打っている。

「なあ、ヴェルサーケ」

僕は、小声で囁いた。

「これって、全部お前のおかげなの?」

「当然だ。お前は、俺がいなければ、ただのゴミだ」

冷たい言葉。けれど、不思議と腹が立たなかった。

それどころか、もっとヴェルサーケに依存したくなった。

これが、ないと、もう生きていけない。

放課後、僕は早く帰ろうとした。けれど、昇降口で田所に呼び止められた。

「ちょっと来い」

田所は、裏庭の方に歩いていった。僕は、嫌な予感がしたけれど、ついていった。

裏庭には、田所の取り巻きが三人いた。

「なあ、カイ」

田所が、僕の胸ぐらを掴もうとした。

けれど、その手がパーカーに触れた瞬間。

ジュッ

音がした。

「熱っ! なんだこれ!」

田所が手を引っ込めた。手のひらが、真っ赤になっていた。パーカーの表面の血管のような筋が、一瞬、真っ赤に発光していた。

「おい、大丈夫かよ……」

取り巻きの一人が近づいた。

その時、田所の真っ赤なジャージが、動いた。

「……え?」

ジャージの背中のドラゴンの刺繍が、まるで生きているかのように、くねくねと蠢いた。

そして、ジャージの襟元から、小さな口が現れた。

鋭い牙が並んだ、醜い口。よだれが滴っている。

「ギ、ギシャアアアアッ!」

ジャージが、甲高い声で叫んだ。

「う、うわああああっ!」

田所が悲鳴を上げた。ジャージが、田所の首に噛みついている。

「た、助けて! これ、脱げない!」

ジャージは田所の体を締め上げ、首筋から血を吸い始めた。

「うぎゃああああっ! 痛い! 痛い!」

取り巻きたちは、パニックになって逃げ出した。

僕は、その場に立ち尽くしていた。

「……安物の寄生服だな」

ヴェルサーケが、冷たく言った。

「ランクは最低。Fクラス。宿主を美しくする力もなく、ただ血を吸うだけの寄生虫。哀れだな」

田所は地面に倒れ、ジャージに絞め殺されそうになっていた。

「た、助けて……カイ……」

田所が、か細い声で僕に懇願した。

僕は、一歩前に出た。

「……助ける必要、ある?」

自分でも驚くほど、冷たい声が出た。

「お前、僕のこと、ゴミだって言ったよね」

田所の目が、大きく見開かれた。

「で、でも……」

「でもさ、今の僕は、お前より美しいよね」

僕は、しゃがみ込んで、田所の顔を覗き込んだ。

「ねえ、ヴェルサーケ」

「何だ?」

「あれ、止められる?」

「簡単なことだ。俺はAランクだからな。あんな低級品、一瞬で無力化できる」

僕は、田所を見下ろした。

「でもさ、あいつの繊維(コード)、吸収できる?」

ヴェルサーケの目が、妖しく光った。

「……お前、いい素質してるな」

次の瞬間、パーカーのフードから、無数の白い糸が噴き出した。

糸は、まるで生き物のように空中を泳ぎ、田所のジャージに絡みついた。

「ギシャアアッ!」

ジャージが悲鳴を上げた。けれど、白い糸はジャージを引き剥がし、地面に叩きつけた。

糸は、ジャージを完全に拘束した。

ジャージは、地面でビチビチと跳ねながら、怒りと恐怖の声を上げていた。

そして、白い糸が、ジャージの繊維を一本一本、引き抜き始めた。

「ギギギギギギッ……!」

ジャージが、断末魔の声を上げた。

引き抜かれた赤い繊維は、白い糸に絡め取られ、パーカーの中に吸い込まれていく。

僕の体に、熱が走った。

心地いい。ヴェルサーケが、何かを取り込んでいる。

「……いい素材だ。これで、俺はもう少し進化できる」

パーカーの背中の部分が、微かに膨らんだ。

そして、背中から、白いレースのような触手が、ゆっくりと伸びてきた。

四本。

それぞれが、まるでウェディングドレスのロングベールのように、優雅に、しかし禍々しく揺れている。

触手の先端には、小さな目がついていた。

「これが、俺の新しい力だ」

ヴェルサーケの声が、満足げだった。

田所は、地面に倒れたまま、荒い息をついていた。首筋から血が流れている。そして、ジャージは、今やただのボロ雑巾になっていた。

僕は、田所の前にしゃがみ込んだ。

「ねえ、田所」

僕は、田所の顔を覗き込んだ。

田所の目に、恐怖が浮かんでいた。

「僕、透明人間になりたかったんだ。でも、もういいかな」

僕は立ち上がった。

その瞬間、夕日が僕を照らした。

純白のパーカーが、黄金色に輝いた。背中から伸びる四本の白いレースの触手が、まるで天使の羽のように、校庭の地面を優雅に這いながら広がっていく。

フードの目が、妖しく光った。

胸のボタンが、ドクン、ドクンと、力強く鼓動している。

校舎の窓から、何十人もの生徒が僕を見下ろしていた。

全員が、息を呑んでいた。

「……美しい……」

「……化け物……?」

「……でも、綺麗……」

囁き声が、風に乗って聞こえてくる。

僕は、初めて笑った。

心からの、笑顔で。

「ヴェルサーケ、ありがとう」

「礼には及ばない。お前は、俺の最高傑作になる」

ヴェルサーケの声が、満足げだった。

背中の触手が、ゆっくりと僕の体に巻き付いてきた。心地いい。まるで、抱きしめられているような。

「さあ、帰るぞ。明日からが、本当の戦いだ。ランウェイで、俺たちは頂点に立つ」

僕は、夕日を背に、校門へと歩いていった。

背後で、田所が弱々しく呻いていた。

けれど、僕は振り返らなかった。

もう、透明人間じゃない。

僕は、見られる存在になった。

そして、それは。

恐ろしいほどに、中毒的だった。

白いレースの触手が、校庭の土を這いながら、美しい軌跡を描いていく。

その軌跡は、まるでランウェイのように。

僕は、もうヴェルサーケなしでは生きられない。

そして、それでいい。

これが、僕の新しい人生だ。


『寄生服(キセイフク)』第1話・了

【設定メモ:寄生服のランク】


Fクラス: 低級寄生服。ボロボロの質感。宿主を美しくする力はなく、血を吸うだけ。(例:田所のジャージ)

Dクラス: 量産型。ファストファッション程度の質感。多少の補正能力あり。

Cクラス: 中堅。カジュアルブランド程度。基本的な美化能力を持つ。

Bクラス: 上級。デザイナーズブランド程度。高度な改造能力を持つ。

Aクラス: 最高級。ハイブランド相当。完璧な美の創造が可能。(例:ヴェルサーケ)

Sクラス: 伝説級。存在するかどうかも不明。神話に登場する「完全なる美の化身」。

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