『死神』と『聖女様』は最強幼馴染カップル〜現代に根付いたダンジョンを攻略せよ!

ふじたかなすび

プロローグ

 ダンジョンが出現したのは今より59年前の2000年のことだった。

 世界を襲った未曾有の大地震と共に、世界各地で巨大な門が現れたのだ。

 同時に、人類に『魔力』と呼ばれる未知の力が目覚めた。

 ダンジョン出現当初、日本を含め各国は慎重に調査を進めようとしたが、予想外の障害に阻まれることとなる。

 それはダンジョン内に潜む凶悪なモンスター達だ。

 凶悪なモンスターが人類へ明確な殺意を持って襲いかかって来たのである。

 加えて銃火器など現代兵器が通用しないという事実が判明。調査は断念し、情報はほとんど得られないまま時間だけが過ぎていった。

 そして世界は、最悪の事態に陥ることとなる。


 ──ダンジョンの【反転】。


 後にそう呼ばれることになる現象が起きた。

 突如としてモンスターたちが地上へと一斉に進軍を開始したのだ。

 溢れ出したモンスターは嬉々として地上の人類を襲い始めた。

 それはまるで、巨大なバケツの水をひっくり返したかのような圧倒的な濁流だった。

 後にわかったことだが、ダンジョンは放置される続けると内部の魔力濃度が蓄積され、限界を迎えると地上へ魔物を吐き出す性質を持っていたのだ。

 当時、それを知る者は誰一人としておらず、世界中が地獄に変わった。

 僅か数年で死者は10億人を超え、日本だけでも1000万人近くが命を落としたという。

 道端に死体が転がっている光景が日常となり、空気は死臭に満ち、町という町が叫び声と絶望に沈んだ。

 この『ダンジョン黎明期』を、後に生き残った者たちはかつてを振り返ると必ずこう口にする。

 「あれは地獄そのものだった」と。

 そんな地獄を切り抜け、仮初とはいえ世界に安定をもたらしたのはいち早く【反転】を押さえ込んだ日本、アメリカ、ロシア、中国、ギリシャ、インド、エジプトの7カ国だった。

 この7カ国が手を取り合い、人類の存続を賭けた国際組織、後の『世界ダンジョン協会』を発足。

 自国の防衛を確保しつつも、各国から精鋭を派遣し、壊滅寸前の国家へと救援に駆けつけた。

 救われた国々は次々と協会に加盟し、組織は世界規模へと拡大。

 もちろんすべての国を救えたわけではない。地図から消えた国の数はもはや数えることも虚しい。

 それでも『世界ダンジョン協会』の働きによって人類は絶滅を免れ、仮初とはいえ平穏を取り戻した。

 やがて人類に余裕が生まれると各国は法整備やダンジョンの研究を進め、そこに探索者という新たな職業が誕生する。

 探索者は、己の魔力を武器にダンジョンに挑む者たちの総称だ。

 その危険性を正しく管理するため、ダンジョンと探索者にはFからSまでのランクが設けられ、無謀な挑戦による犠牲を防ぐ仕組みが整えられた。

 多くの犠牲のもと今の平和がなされていることを忘れてはならない。

 そして今を生きる人類には平和を守り、そしてダンジョンとは何かを解き明かす義務があるのを忘れてはならない。


 ☠️


 暗い、暗い闇の世界。

 目を背けたくなるほどの数多の命を飲み込んできたダンジョン。

 人類を滅さんと殺意渦巻き、人間の際限ない欲望も容易く飲み込むブラックホールのような亜空間。

 凶悪なモンスターが蔓延り今日もやってきた命知らずの人間を貪り喰らう。

 そんな地獄のような世界で、それに抗う影が2つ存在した。

 1つは大鎌を振るいながらモンスターを刈り取る爽やかな少年。

 1つは神聖な杖を持ち、少年を支援しながら戦う美しき少女。

 それぞれ名を霧崎夜火、椎名真白。

 1組の男女はダンジョンの地下深く、デッドラインと呼ばれる下層域にて戦闘を繰り広げていた。

 対し、モンスター達超常の存在は群れを成し、埒外な力で持ってそれを排除せんと迫る。

 体躯は10mはあろうかという巨体。

 全身は真っ黒で、シルエットは地上に生息する熊のよう。

 成人男性すら片手で握り潰せるほど巨大な手から伸びる極太の爪は鋼鉄すら切り裂くほど鋭利で、触れるだけで人間の体など切り刻まれる威力を秘めていた。

 しかし敵はそれだけではない。


「夜くん、シャドーベアーの影に子が」


「ああ」


 巨体に隠れて隙を窺うのは影熊の幼体。

 それでも2m以上の巨体と人を殺すには十分な腕力と爪を有している。

 自身より巨大な成体と重なり合うことで姿を隠し、成体との戦いに意識を割いている人間の不意を突いて殺す。

 遥に強いモンスターが人間のような悪知恵を働かせ狡猾に命を狙ってくるなど恐怖でしかない。

 今回の獲物も、今まで通り狩るだけ──、しかし


「親子もろとも斬り裂けば問題ない」

 

 その驕り故に、シャドーベアーは死を持ってその身が砕け散ることになる。

 少年、夜火の大鎌を持つ腕がブレたのと、影熊親子の視点が上下逆転したのはほぼ同時だった。

 シャドーベアーの肉体は刃物で断ちにくい。

 それは魔力濃度が濃い環境下で自然と肉体が強化されていると同時に、シャドーベアーの筋肉の厚さが原因だ。

 しかし夜火の大鎌はその肉体をまるでバターのようにスッと絶ち切った。

 宙を舞うのは奴らの胴体。

 影熊親子は命の灯火が消えるその時まで勝ちを確信した表情のままだった。

 胴体から湧き出る泉の如く鮮血を隠れ蓑に新たなモンスターが襲いかかってくる。

 中層に現れるウルフ系モンスター。

 俊敏な足や強靭なアギト以外にも属性を纏う事で凶悪性が増した上位互換。

 今、夜火の眼前に現れたのは氷属性のアイス・ウルフだった。

 大きく開いた口は蒼白く輝いていた。

 ブレスだ。

 それを浴びれば骨の髄まで凍りつく冷気の波動。

 それが夜火に放たれる──刹那。

 背後からレーザーの如く放たれた魔力がウルフの頭部を貫いた。

 真白だ。

 索敵に優れた彼女は波のように押し寄せるモンスターを正確に把握している。

 自身もモンスターと戦いながら夜火に迫る危機をいち早く察知し手を打ってみせたのだ。


「余計なお世話かもしれませんが」


「いいや。ありがとう」


 戦闘中ということもあり短めに言葉を交わしながら、夜火は真白の背後に目掛けて大鎌を投げた。

 そこには今まさに真白に噛みつこうと迫っていた雷を纏ったライトニング・ウルフの姿があった。

 その牙が真白の柔肌に届く前に投擲された大鎌の刃が命を狩り取る。

 大鎌はそこから大きく旋回。軌道上にいるモンスターを殺し尽くしながら夜火の手元に戻ってきた。


「余計なお世話だったかな?」


「ふふっ、いいえ。とても助かりました」


 まだまだ無数のモンスターに囲まれている中で、朗らかに微笑む真白に、夜火の頬も自然と緩む。

 襲いくる多種多様なモンスターの首を斬り落とし、その数を減らしていく。

 際限ないように思えたモンスターの波に終わりが見始める。

 しかし────、


「まだまだやる気みたいですよ」


「往生際が悪いな……」


 どこからともなく先程と変わらぬ量のモンスターが奥から押し寄せてくる。

 さっきからこれの繰り返し。

 これで11回目である。

 いい加減にしろと辟易する夜火だが、真白は追加されたモンスターの質に違いが出ているのをいち早く気づいていた。


「どうやら終わりが近いようです。後ろのモンスター達は精々下層部の上層辺りのレベルです。『ダンジョンコア』も限界が近いのかもしれません」


「みたいだな。だが……ダンジョンめ。時間稼ぎのつもりか、最後の抵抗かは知らんがスピード特化のモンスターばかり生み出しやがって。これじゃあ狩るのが手間だな」


「でしたら、ここは私にお任せください」


 夜火のボヤキを聞いていた真白が女神の如く微笑むと杖を掲げた。

 杖の先端に膨大な魔力が収束し、球体を作り、巨大な魔力玉が闇を照らす月のように鎮座する。

 何をするつもりなのか瞬時に悟った夜火は自身の周りのモンスターを蹴散らして、すぐに真白の元に移動した。

 直後。


 ドゥゥゥンンンンン───ッッ‼︎‼︎


 重々しい音と共に魔力玉から四方八方へ魔力のレーザーが放たれた。

 2人を囲っていたモンスターの大群は、瞬く間にその数を減らす。

 ライトニング・ウルフが雷の速度で逃げようが、氷の壁で身を守ろうが正確に、的確に頭部や心臓の役割でもある魔石を撃ち抜いていく。

 波のように押し寄せていた大群はこの数瞬で物言わぬ尸となった。


「お見事」


 杖を降ろした少女に惜しみない賞賛を贈る。

 激しい戦闘があったのが嘘のように静寂が訪れた。

 夜火は広大なフロアを一瞥する。

 広がるのはモンスターの亡骸でできた大地。

 夜火が可能な索敵範囲内に僅かでも息のあるモンスターはいない。

 どのモンスターも急所を貫かれ絶命していた。

 あんな乱戦のように乱れたモンスターたちを1匹の例外もなく。

 その腕前に舌を巻く。


(さすが真白。俺じゃあこんな芸当不可能だ。やっぱり魔法や魔力制御に関しては手も足も出ない。そこだけは大分差をつけらちゃったな)


 真白を見ると、彼女はうっとりするような笑顔を浮かべこちらを見ていた。

 夜火も僅かに笑みを浮かべながら、思考する。

 先程の真白の芸当だが夜火も一応、似たようなことはできる。

 ただ彼女のような精密性はなく、精々薙ぎ払うだけの力のゴリ押しだが。

 それも敵味方の識別も関係なくその場にいる全てを……。

 過去。

 まだダンジョンに潜れず特訓に明け暮れていた時のこと。

 魔力制御が上手くできず暴発して真白を殺しかけたことがあった。

 その時は面倒を見てくれていた『先生』のおかげで彼女に傷1つつくことはなかったが『ある事件』がきっかけで抱えていたトラウマが刺激され、それ以降魔法師のような魔力を主体とした戦い方は諦め、真白を守る生粋の前衛になった。

 もちろん全く使えないわけではない。

 なんなら数多い探索者の中でも優れた部類に入るくらいには猛特訓して苦手を克服している。

 だが、一時期逃げていたのは事実でそこで大きな差が開いてしまったのだ。


「あとはこの先にあるダンジョンの命、ダンジョンコアを深く傷つけたら終わりだ」


「はい。また手を打たれる前に行きましょう」


「だな」


 2人は極上のモンスターの素材である山には目もくれず、最下層へ繋がる階段を降っていく。

 やがて最下層へ到達すると広々としたフロアの中心に、10mは超える巨大な紫紺のクリスタルが宙に浮いていた。

 これがダンジョンコア。

 ダンジョンの心臓であり、モンスターを生み出す母体でもある。

 これを破壊するのではなく、深く損傷を与える。

 コアはそれ自体が強固でありながら膨大な魔力に覆われているためそれを突破した上で傷つけるのは中々に難しい。

 

 ────普通なら。


 今、コアの前にいる2人は例外だ。

 コアを傷つけるどころか容易に破壊することもできる。

 夜火は漆黒の大鎌に魔力を流し、斬れ味、威力共に上昇させ、コアが壊れる手前まで出力を調整する。

 そして大鎌を一閃……する直前のこと。

 大地が盛り上がり、コアを隠すほどの岩の巨人が現れた。


「はぁ。本当に往生際の悪いやつだ」


「ですがどうやら巨人を完全に生み出す余裕はなかったみたいです」


 真白の言葉の通り、岩の巨人は上半身から下がなかった。地面と繋がったままで不自由そうに手をばたつかせていた。

 しかし、侵入者を見るやすぐさま攻撃モーションに入る。

 腕を引き、殴り掛かろうとする巨人に向かって夜火は大鎌を振りかぶり、今後こそ一閃を放つ。


 ザンッ!


【──────────】


 岩の巨人はバターの様に両断され、背後にあったコアごと深々と斬り裂いた。

 コアには無数のヒビが走り、眩い輝きが急激に色褪せていくと同時に充満していた『魔力濃度』の低下を肌で感じた。

 背後にいた真白がパチパチと拍手を送る。


「破壊一歩手前のギリギリ。流石です。これでダンジョンはコアの修復に長い年月を使うことになるので【反転】のリスクを抑えることができますね。同時に、破壊してダンジョンコアの莫大な魔力が他のダンジョンに譲渡されることもない……完璧な仕事です」


「これで協会からの依頼は達成だな」


「はい。学校も1週間近く休んでしまいました。みなさんもとても心配しているそうです」


 そう言いながらスマホの画面……おそらく連絡アプリを見てクラスメイトの通知を確認しているであろう真白が呟いた。


「真白は友達いっぱいだもんな」


「夜くんが作らなさすぎるんです。それに夜くんの心配をしている子もいますよ?」


 画面を見ながらにこやかな真白。

 何がそんなに嬉しいのかわからないが、彼女が笑顔ならそれでいいかと流す。

 ダンジョン内とは思えない軽い会話を交わしながら2人はダンジョンを後にした。









あとがき


初めまして『ふじたかなす』と申します。

今まで読み専だったのですが、せっかくならコンテストに参加してみたいと思いオリジナル作品に初挑戦してみました。

もし矛盾やミスなどに気づきましたらそっと教えてくださると幸いです。



面白い!

続きが気になる!

など思っていただけたのなら、よろしければ応援コメントや⭐︎をいただけるとかなり嬉しいです。

 

次の投稿は明日を予定しています。


これからよろしくお願いいたします。

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