第2話 桂のこれ迄の人生(桂の視点)

2012/8/23(木)PM4:00 桂、当時高校1年生。


「18番、半田三明はんだぞうめい。以上が明日のウインターカップ選抜地区予選のお前達の背番号だ」


 と、俺が所属するバスケ部のコーチ、『日出太陽ひいでたいよう』先生が言い終えた。ちなみに俺の16歳年上だ。


「ハイ先生。何で山野桂君だけユニフォームが無いんですか?」


 と、同じ部員で同学年の『安藤透あんどうとおる』君がそう質問すると、同じく同い年の部員、国太君が「馬鹿、解ってんのに聞くなよ安藤」と安藤君に軽く肘でトンと小突いてにやけながら返事したら、他の全部員が一斉に笑い出した。


「仕方無いだろ、背番号が4から18迄しかないんだ。15着しか無いから16人居るウチの場合、どうしても1人あぶれてしまうんだ。兎に角皆、明日の試合に備えておけ。以上、今日はこれで解散だ!」と先生が退出した後、すぐさま安藤君がこう切り出した。


「ヅラ男、お前だけユニフォーム貰えなくて可哀想だな~」

「そんなお前にもユニフォームをくれてやるから早く着ろ!」


 国太君が続けてそう言い、俺の替えのTシャツに「19」とガムテープで貼り付けて、それを俺に着るように強制して来た。ちなみに国太君は、1年でありながら、2年に混じってスタメンに選ばれた、何とも羨ましい…。仕方無く着ると、それを見た国太君が。


「よ~く似合ってるぜヅラ男」と国太君が指差して笑って来ると、隣に居た半田君も「んだぞおめえ!」と同調して来た。ちなみに「んだぞおめえ」とは「そうだぞお前」という意味だ。そして部員全員から笑い者にされた…。帰宅後、母さんが例のシャツを見て、こっぴどく怒られた。俺、被害者なのに…。


2014/6/19(木)AM10:00 桂、当時高校3年生。


 それから2年近くが経った県大会2回戦を僅差で勝ち、迎えた3回戦。前回ベスト4の「港北高校」と試合し、第4クオーター開始時点で30点差を付けられて、負けはほぼ確定だ。そんな中、日出先生が「安藤、後ろ後ろ!」と言い、マネージャーの晃子さんが「国太君頑張れ~!」と言い、一応背番号9番を貰えた俺も、他の部員達と一緒に桂「ファイトー!」と言うしか無かった。


 そして試合終了1分前、俺は半田君と交代で出させて貰った。しかし、たった1分ではコートを数往復ダッシュする位しか出来なかった。3年間色んな意味で苦労して頑張ったご褒美がこれって、こういうのを『骨折り損のくたびれ儲け』って言うんだろうなあ…。結局最終的に110対65で惨敗した…。


 帰宅後、3つ下の妹「克恵かつえ」が嬉しそうに「兄さん、あたし3年間頑張ったからユニフォーム貰って来ちゃった!」と満面の笑みで、7番のユニフォームを俺に見せて来た。ちなみに克恵は俺と違って、自分達の代でスタメンになれたそうだ。


「兄さんはユニフォーム貰って来なかったの?」との問いに「要らない。ていうかもう、バスケの事なんか考えたくない…。」と言いながら部屋に入って行った。そりゃそうだ、在籍期間中他の部員達にいじめられて来たからだ、主に国太君から…。そう言いながら部屋に行く俺を、克恵は「兄さん…。」と言いながら寂しそうに見ていた…。


2014/7/18(金)AM11:00


 1学期の終業式後、全て赤点ギリギリのテストの結果を両親に報告したら、家族全員落胆した。特に母さんからは又しても、こっぴどく怒られた…。夏休み期間中をフル活用して自動車学校に通い、何とか第1段階を終え、何とかその年の内に免許を取得出来た。


 ちなみに落ちた回数は、通常の実施授業12回プラス、仮免、卒検、共に1回ずつ落ちた…。免許取得後、3学期が始まってすぐに就職活動して、『ふじりんごスーパー』という地元のスーパーに、正社員として何とか内定を頂けた。こんな感じで良い想い出が何一つ無い状態で何とか高校を卒業出来た…。


2015/7/10(金)PM3:00


「桂、早くしろ!。いつまで掛かってんだ?。もう3ヶ月以上も経ってんだからいい加減慣れろ!」


 ふじりんごスーパーに入社後、俺はこんな感じで上司に度々怒鳴られ、「すみません」と謝った。その都度パートのおばちゃん達から「ちょっと何でこんな使えない子を正社員にしたの?」と声が聞こえて来た。疲労困憊で夕飯を食べ終え、風呂に入って部屋で1人になり、それ迄のいつもダメダメな人生を振り返りながらふと想った。


「俺の人生って、一生こんな感じなのかな?」


 そんな事を想いながらテレビを付けたら「Mスタ」という音楽番組がやっていて、何気なく観てると、そこから流れて来る音楽に涙を流しながら、ふとこう想った。


「俺もこんな風に誰かの心に寄り添ったり、人を楽しませる曲を作りたい!」


 そう想った瞬間、絶望し掛けてた俺の心に、生きる希望が湧いて来た。俺は先ず高校時代に立て替えて貰ってた、自動車学校の学費と中古車代を年内に返し終えた。


2016/1/4(月)AM9:00


 年末年始の繁忙期を終えた後に、音楽を始める為に必要な機材を調べ、エレキギター、電子ピアノ、作詞本、作曲本、編曲本、そして「Cubawaキューベーワ Pro《プロ》」という最も使い易そうなDAWとその教則本を買った。商品が届き、早速ピアノを練習し始めるが…。


「うわ~難しいなあ、でもこれを弾ける小さい子も実際居るんだよなあ…。」


 と想いつつ、自分の不器用さに落胆しながらも、毎日少しずつ練習に勤しんだ。というより少ししか練習する時間が取れなかった、正社員だから仕方ないか…。同様にギターも、手が痛くなりながら少しづつ練習した。そしてDAWを始めようとしたら、先ずセットアップに手間取った。


「何だこれ?、ある意味楽器より難しいぞ!」


 悪戦苦闘しながらも何とか少しずつ慣れて行き、拙いながらも作詞、作曲、編曲も形に出来るようになって行った。


2017/2/26(日) 桂、仕事から帰宅。


 そうこうしている内に入社から2年近く経ち、会社の仕事は相変わらず並み以下だが、音楽は、ギター、ピアノ、共に何とか初心者は脱し、DAWの操作にも何とか慣れて行った、そしてふと想った。


「俺の持つ音楽の可能性を、東京で試してみたい!」


 前々からそう想ってた俺は、覚悟を決めて両親にその事を報告した。


「まあお前も昔から、一度言い出したら利かないからな~…。」と父さんが言った後に、母さんが「あんたが音楽始めた頃から、いつかそう言い出すかもとは思ってたけど…、解ったわ。但し30になる直前までだからね。あと会社には『資格を取る為に専門学校に入る為』という事にしておきなさい。あと仕送りは一切しないからね!」と渋々了承してくれた…。俺は「有り難う、絶対成功してみせるから!」と両親に感謝を伝えた。


2017/2/28(火) お昼休み中


 翌日のお昼休みに、上司にその旨を報告した。退職願は基本的に、遅くても退職1か月前迄に提出した方が会社的には都合が良いそうで、事情を説明すると上司が「解った。但し今月末までは続けてくれよ」と案外素っ気ない返事が返って来た。まあ俺の今迄の仕事の成果からしたら当然か、だとしてもちょっと寂しいな…。


2017/4/1(土)AM9:00


 そして2年間務めた会社を退職し、片道券を買ってギターを背負いながら


(待ってろよ音楽業界、絶対プロになってやる!)


 そう心の中で呟き、東京行きの新幹線に乗り込んだ、20歳の春だった。


 そして東京でバイトに勤しみながらも音楽活動に明け暮れ、初めて組んだバンド『アプリコット』でオーディションを受けたが落選の通知が届いて、それを見た女ボーカル杏樹が。


「何やってんのよ、駄目じゃんあんたの作った曲じゃもう。ピアノも下手糞だし…。」


 すかさずギターでリーダーの杏助が「俺の知り合いのキーボーディストを入れるから、お前はクビだ!」と言って俺を見限った。こうして上京から約半年後、俺にとって初のバンドから辞めさせられた…。その間も色んなバンドを組んで音楽活動したものの、全て失敗に終わった…。


 そして2020年初頭、例のパンデミックが発生し、その影響でその時組んでたメタルバンドも解散してしまった…。それから約2年間は●カロオリジナル曲をネットに上げていたが、殆ど再生されなかった…。

そして又リアルで活動するも、どのバンドも今一つパッとしない結果が続いた、そして…。


2026/2/27(日)PM7:00


「もしもし桂、あんた音楽で生活出来そうなの?」


 29歳の冬の終わり頃、母さんから電話が来た。第一声でそう言われ、俺はこれ迄の9年間の散々な結果を正直に打ち明けると、当然母さんは大激怒した。一通り言いたい事を言い終えた後。


「解ってると思うけど今月中に帰って来て、30歳になる前にこっちで就職決めなさい!」


 そう言い終えて電話を切った。仕方なく俺は、都落ちの準備を少しずつ始めた。俺はバイト先に事情をお伝えして辞めさせて頂き、9年間住んだアパートを退去した。


2026/3/31(火)PM3:00


(自分で選んだ道とはいえ、この9年間は一体何だったんだ…。)


 と地元の粟駒高原駅あわこまこうげんえきの中でドーンと落ち込んだ…。


2026/8/3(月)PM3:00


 地元に帰郷から約半月後、有り難い事にすぐに地元の物流センターにパートとして就職出来たものの、生来の不器用さから中々仕事を覚えられず。


「桂、こんなしょうもないイージーミスすんな!。もう入社して3ヶ月以上経ってるだろ!」


 と上司から怒鳴られ、すぐさま年上の先輩パートの男性鈴部さんが「おらしっかりしろヅラヅラ男!」と言うと、すぐさま年下の先輩パートの阿木さんが「ヅラヅラ君だっせー!」と指差しながらそう言って来た。更に年下で同期のパート、島泉さんからも「ヅラヅラさんしっかりして下さいよ!」と矢継ぎ早に責められ、その場の全員から笑い者にされた。


(何なんだ、この職場は…。)と言いたいのを押し殺して、真夏の暑い中、ハンドリフトでの運搬に勤しみ、真冬の寒い中、倉庫内での検品に勤しみ、他にも皆が嫌がる作業を率先して行ない、職場での信頼を俺なりに勝ち取ろうと努力して行った。


2028/7/15(土) お昼休み


 そうこうしてる内に入社から2年半近く経ち、奇しくも俺の32歳の誕生日に俺は上司から呼び出され、こう告げられた。


「桂喜べ、約2年半頑張ったご褒美に、来月から正社員にしてやるぞ!」


「あ、有り難う御座います…。」と言いつつ、本来なら物凄い光栄な筈だが、正直俺はあまり嬉しくない。何故なら先に正社員になった岡沢さんが以前より残業時間が長くなり、責任も増え、パートさんから色々押し付けられていた。


 岡沢さん以上にお人好しな俺が正社員になったら、心身共に今以上にしんどくなるのは明らかだった。正直今でもギリギリの精神状態で何とか続けている。その日の終業後、リストラされて落ち込みながら帰って行く別の従業員を尻目に。


(もし正社員の話を断ったら、次は俺がこうなるかも知れない…。)


 という不安に苛まれ、帰宅後に夕飯を食べて風呂から上がった後、部屋で思わずリストカットしようとしたが、「駄目だ、俺には自●する度胸なんか無い…。」そんな精神状態で何気なく音楽を聴いていたら、涙が出て来てふと、こう想った。


「俺やっぱり、もう1回音楽がやりたい…。」


 それに普通の32歳男性は恐らく、休日はパチンコや競馬、風●等に行くんだろうけど、それらをやる事なく折角の休日に疲れてるにも関わらず、ピアノやギター、DAWやシンセをずっといじってた、そしてこう想った。


「よし、もう1回音楽をやろう!。但し、会社と両親には秘密裏に…。」


2028/8/11(金、祝)AM10:05


 そうと決まったら俺はお盆休みに入ってすぐ、地元の楽器屋さんに行ってメンバー募集の貼り紙をお願いしに行くと、店員さんが「かしこまりました。掲載期間は1か月となります」と言って貼りだして下さった、ちなみに内容はこうだ。


「当方キーボードで、女性ボーカルを募集してます。下記のリンクで私の曲を是非聴いてみて下さい」


 こんな感じで俺の今迄の自作曲をMyTubeにアップロードして聴けるようにし、LUINEルインと繋がれるようにして、連絡を待つ事にした。早速4日後の午後7時頃、1通のRUINEが来た、内容はこうだ。


「初めまして。私は地元の小学校に通う6年の女子で、『佐藤智枝さとうともえ』と申します。今度学芸会でオリジナル曲を歌いたいので、ポップな曲を作って頂けませんか?、宜しくお願いします。あと私の家族も同伴したい、と言ってるのと、どうしても父が『日時を明後日の正午じゃなきゃダメだ』と言ってるのですがどうでしょうか?」


 俺は所々疑問に想いながらも了承した。その翌日、1通のRUINEが来た、内容はこうだ。


「初めまして。私は地元の高校に通う3年の女子で、『鶴牧蒼絵つるもくあおえ』と申します。現在バンド活動をしており、ギターを担当してます。私達の曲をポップなアレンジに仕上げて頂けますでしょうか?、宜しくお願いします。」


 先の智枝ちゃんが先客の為、その旨を蒼絵さんに伝え、当日近所のカラオケボックスに来ていただくようにお願いすると、蒼絵さんも了承してくれて、俺は当日に備えて準備する事にした。


2028/8/18(金)AM11:40


 俺は少し早めの昼食を取り、尚且つ両親に見つからないように機材を車に載せて目的地に向かい、受け付けから少し離れたベンチで座ってた。オーディション開始約5分前。


「あの、山野 桂さんですか?」と言いながら俺に話し掛ける女性が居た。つり目で背中の真ん中位まで伸びた、ブロンドのサラサラな長い髪で、前髪を左目の辺りで分けている。パーカーにジーンズ姿で、ギターを背負っていた。胸は普通よりやや大きい位だ、Dカップ位かな?。


 俺が「はい、そうですけど」と答えるとその女性は「初めまして、鶴牧 蒼絵です。そして…。」と隣りに居る女性に目をやるとすぐさまその女性が。


「姉の『あびる』で~す。妹の付き添いで来ました~♪」とやや軽いノリでそう言い出した。パッチリした目で、胸元が開いてる白いトップスに黒のタイトのミニスカート姿で、ブロンドでウェーブヘアーの女性で、胸はかなり大きい。Gカップはあると見た、2人共身長170cm近くはあるだろうか?。ちなみに俺の身長は170cmだ…。俺は暇潰しに、蒼絵さんにこう聞いてみる。


「好きなアーティスト誰ですか?」

「ラ●クっす」

「桂さん、智枝ちゃんって何時頃来るんですか?」

「もうそろそろ来る筈なんですけど…。」


 こんな感じで、俺達はもう1人の応募者が来る迄の間、お互いの好きなアーティストの話や他愛のない世間話等をしていたその時、嫌な人達と再会する事となった…。

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