新撰組のお正月

@Rabimama

第1話


仕事に追われる新撰組にも、正月はやってくる。

朝の空気は冷たいが、どこかゆるんでいる。


「おい、起きろよ」


斎藤が、にかっと笑った。


「うーん……僕、昨夜は遅番でさ。

祇園の騒ぎの後始末でさ……」


沖田が布団の中でぐずっていると、斎藤はぱっと布団をはいだ。


「それは気の毒な年越しだったな。

まあ、とりあえず――あけましておめでとさんだ」


「……おめでとう」


「両御所はもう正装して出てるぞ。

早く挨拶してこい。ぼやぼやしてると、雑煮もなくなっちまう」


「ぞ、雑煮?」


「ああ。昨日から井上さんが頑張ってたからな。

江戸風の、試衛館の雑煮だろう」


「わっ、やった!」


沖田はぴょんと跳ね起き、慌てて身支度をすると、

斎藤と並んで近藤のもとへ向かった。



いつもなら早朝から響く木刀の音も、この日ばかりは聞こえない。

かわりに、ふわりと甘い匂いが漂ってくる。


「うーん、正月って匂い!」


独り言のようにつぶやくと、白い息がふわりと浮かんだ。

庭の隅には門松が立ち、昨夜降りた霜が笹の葉をきらきらと光らせている。


背後から足音がして、原田と永倉が顔を出した。


「おー、おめでとさん」

「これから挨拶か?」

「ああ」


広間では、羽織袴の近藤勇がどっしりと座り、

隊士たちの挨拶を受けていた。

その隣で土方が、心ばかりのお年玉を配っている。


ほんの一口のお神酒。

そして、ささやかな雑煮。


親元へ帰ることもなく、

ひたすら働く隊士たちにとって、これが正月である。



「のんびりしたいよねえ。

隊士だって正月くらい、のんびりしても罰は当たりませんよ」


そう言っても仕方がない。

京の都は、正月だろうが休みなく動いている。


「ああ、俺、昼から巡察だ」

と原田。


「僕は昨日が夜番だったんで、本当は休みなんだけど……

壬生寺の御住職に頼まれましてね。そっちの手伝いです」


「ふふ。終わったら、お節付きですよ」


「あけまして――」

「おー、おめでとう!」



ちょっとくじけることもある。

愚痴も、こぼれる。


それでも、仕事は続き、

若さは、まだそこにある。


雑煮の湯気の向こうで、

新撰組の正月は、静かに始まっていた。

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