転生したら転生者を狩る暗殺教団員でした~出世拒否して、理想の俺(推し)を布教する~

谷夏読

第1話・転生者を狩る転生者

 息があがる。とにかく走る。全力疾走しなきゃ死ぬ。


「待ちなよ~! ユーリちゃぁぁん!」


 背後で男が俺の名前を呼んでいる。音量の感じで距離感把握。うん、まだ遠い。つかまらない。大丈夫だ。

 俺の足元は石畳。地下に広がるダンジョンなんだから苔むしててもいいものだけど、びっくりするほど綺麗だ。壁も床も天井も薄っすら光ってるから、太陽が無くても明るい。さすがは異世界。どういう理屈かわからない。


 いや、そんな余計なことに思考を割くな。死ぬぞ、俺。

 瞬間、背筋が毛羽立った。振り返らずに右手を背後へぶん回す。


火炎操作フレイム!!」


 俺の右手から火球が生じる。爆音と同時に熱波がうなじの毛を焼いた。あぶなかった! なにかわからないけど、魔術で迎撃できたみたいだ。弓矢かな!? 魔術使ってなかったら絶対死んでた!


「しぶといっ!!」


 背中にぶつけられる女の声。そりゃあ、しぶとくもなるよ。こっちだって命がけなんだからさ!


「アイシャ、電撃系の魔術スキルでやれ! 動き止めろ! 殺すなよ!! ユリアは弓で足を狙えっ! ヘルガはフォロー!!」


 男が女たちに指示を飛ばす。追手の数は全部で四人。数分前まで俺も同じパーティーメンバーだった。空気を叩くような音が聞こえてくる。バチバチ鳴ってんじゃん。痛っ! 弓矢が肩をかすめたんだけど!?


「いいか! 殺すなよっ!! 殺したら仲間にできねぇからなっ!」


 ボコボコにしてから仲間にするとか、ポケモンかな? そんな方法で絆が生まれるのはアニメやゲームの中だけだ。

 俺を異世界転生させたクソ女神! 見てますか!? どうせ見てんだろ、クソ邪神! 絶対許さねぇからなっ!!


 たしかに俺はネット小説が大好きだったよ!

 でもさ! 好きだったのはハーレムとか俺ツエー展開であって、こういう死にゲーみたいな世界じゃないんだけどなっ!!

 ひたすら必死に駆け続ける。身体強化ブーストの魔術で走っても、スタミナには限度がある。このままだとまずい! ヤバい! マジで死ぬ!


「あれだっ!!」


 奇妙な紋章が描かれた床をみつけ、思わず叫ぶ。ダンジョン内に点在する転移陣だ。ヘッドスライディングするように滑り込んだ瞬間、景色が変わった。


 転移した場所は巨大な立方体状の空間だ。広さで言えば学校の体育館くらい入りそう。

 弓矢が掠った腕を確認する。パックリ傷口が開いており、鮮血が垂れて輝く床の上に落ちた。傷痕が残ったらどうするんだよ、ちくしょう。俺は治癒力増加ヒール使えないんだぞ。

 俺は右腕の傷口に布を巻きつけ、止血をしながら追手が現れるのを待った。


 先ず転移してきたのは、金髪森精人エルフのヘルガ。森精人エルフだから顔立ちは整っている。前世の世界で言えば北欧美少女風。武器はショートソードで剣士だ。

更に遅れて魔術杖を持ったアイシャが現れる。アイシャは伯爵家の御令嬢のお貴族様だ。顔が良くて育ちもいい。更に遅れて弓を番えたユリアが現れる。種族は人間ヒュームで胸が大きい黒髪短髪の幼なじみ系美少女。

 揃いも揃って全員十代。まあ、こっちの世界は成人が十五歳で人生サイクル早いし、命の値段も安い。そのため駆け出し冒険者パーティーが全員十代はあるあるだ。


 そして最後に現れたのが、黒髪短髪の少年だ。顔立ちはもろに日本人。

 要するに彼は異世界転生者……正確には肉体ごとやってきた異世界転移者だろう。

 俺と同じく女神の甘言に騙され、こんなクソみたいな世界に飛ばされた被害者とも言える。でも、同情はしない。前世の倫理観やら共感能力を持ち続けてると、この世界では割とあっけなく死ぬ。半年どうにか生き残った結果、いろいろあって俺の心の在り様も変わってしまった。ほんと、ひどい話だよな……。


「もう逃げられないぜ、ユーリちゃん」


 少年こと佐藤奏太は下卑た笑いを浮かべながら俺を値踏みするように見ている。まあ、そういう性欲のこもった目で見られるのは珍しくない。

 俺、というか俺の魂? 人格? が転生した体の持ち主ことユーリ・ヘルマ・プロディトスはハーフ森精人エルフだし、ビジュがすこぶるいい。


「逃げられない、か……たしかにな……」


 俺の口から出てくるのは生前のかすれた声ではなく、凜とした高い声。ビジュだけではなくCVまでいいとか、最高かよ。


「ユーリちゃんが悪いんだぜ? 俺だって強引な方法は選びたくなかったよ。でもさ~、ユーリちゃんが言うこと聞いてくれないからさ~」


 全身を舐るような視線と、脳汁垂れ流してるような歪な笑顔。同性ながら気持ち悪い。


「さっさと洗脳したらよかったじゃないですか。そのチートスキルで」


 俺がため息混じりに言ったら、佐藤が驚いたように目を見開く。


「え? 俺のスキルのこと言ったっけ?」

「名前は『俺の右手の悪癖スキルクラスティ』でしたっけ? 他人の魔術スキルを盗んで強くなる。盗まれた相手は盗まれた魔術スキルを使えなくなる。そういうチートスキルでしたよね?」

「え? なんで?」


 佐藤が驚くのも無理は無い。誰だって自分の秘密を看破されたら怖いだろう。


「別の異世界転生者から洗脳系のチートスキルを盗んで、そいつを殺したのはいいです。でも、その殺した彼のハーレムを引き継ぐのは、まずかった」


 俺は指の骨を鳴らしたりしながら話を続ける。


「アイシャさんみたいな伯爵令嬢はハーレムに入れちゃダメですよ。貴族の淑女にとって貞操と純潔は政治の道具ですからね。それどころか、うるさい父親も洗脳して、家や資産まで奪ってしまった。さすがにやりすぎです。無法すぎます」

「なんで知ってんだよ!?」


 疑問に思うのも無理は無い。俺は冒険者ギルドのパーティー募集に応募してきたハーフ森精人エルフの旅人だからね。

 ま、そう思ってるのは佐藤君だけなんだけど……。


「事前に調べさせてもらいました。佐藤さんが洗脳した伯爵から、娘を取り戻してほしいと依頼を受けてましたので」


 佐藤が目を見開き、俺を凝視する。


「本来、狩猟対象は佐藤さんじゃなくて、佐藤さんが洗脳系チートスキルを盗んだ人だったんです。アイシャ様が解放されてたら、ここまでする必要は無かったんですが……」


 ため息が出てくる。俺だって同郷の人を騙し討ちしたりしたくはない。


「まさか……お前……あの頭のイカれた教団の……」

「頭のイカれたって、まあ、否定はできないですね。転生者の佐藤さんから見たら、そうなるのも無理はないですし」


 俺も俺が所属している組織は頭がおかしいと思う。全力でかかわりたくない。でも、強制的にかかわらないといけない。


神聖しんせい狩猟しゅりょう戦線せんせん……? あの、転生者狩りの……」


 ホントひどい話だ。

 アラサーサラリーマンが異世界転生したら、転生者を狩る狂信者集団の人間だった。

 笑えない。本当に本気で笑えない。だから俺は、あの女神を許さない。


「はい。頭のイカれた教団に所属してる狩猟使徒のユーリ・ヘルマ・プロディトスです。そういうわけで教義に従い、邪神の使徒であるあなたを狩らせていただきます」


 俺が剣の柄に手を添えたら、佐藤はヘルガの背中を押した。ここで女の子を盾にすることに、ちょっといろいろ思うところはある。


「殺せっ! こいつは敵だっ!」


 背中を押されたヘルガはそのまま膝をついてしまった。


「おいっ! なにしてんだよっ! アイシャっ! 魔術スキルで殺せっ!!」

「無駄ですよ」

上級火炎操作ハイ・フレイム!!」


 佐藤が俺へと手をかざすが、何も起きない。てか、上級魔術スキル使えたの? いや、俺も死ぬけど、仲間も死ぬだろ。こういうところが、なんというか同情の余地が無いと言うか……まあ、俺も人のこと言えないけど、佐藤はクズだと思う。

 俺以上に倫理観や共感能力、遵法意識を失ってしまった転生者。でも、佐藤だって被害者だ。こんなクソな世界に転生させたクソ女神が全部悪い。


「なんでだよ!? なんで魔術スキルが使えねぇんだよ!」


 説明してあげる義理も無いけど、何も知らずに狩られるというのも、かわいそうだ。いや、こんな感情も無意味だ。切り替えよう。まったくひどい話だ。たった半年で感情や思考を切り替えられるようになってしまった。これも全てあのクソ女神のせいだ。


魔術スキルの発動を阻害する魔戒石まかいせきは知ってますよね? 佐藤さんを討伐するために、この部屋全部を事前に改装しました。床も壁も天井も全部、魔戒石でできてます」


 ただの洗脳チートスキルだけなら、ここまでする必要は無かった。

 でも、彼のチートスキルは他人の魔術スキルを奪うチートだ。そんなバケモノを相手にするなら、これくらい入念な準備が必要になる。

 それでも魔戒石は万能じゃない。チートスキルの発動を完全に阻止できなかったりするが、そこまで説明してやる義理も無い。実際、洗脳されてる女の子たちが完全に自由になってないところから察するに、無効化にまでは至ってないみたいだ。

 これだから異世界転生者のチートスキルはデタラメだ。


「さて、お互い魔術は使えません。ここは男同士一対一、剣だけで決着をつけましょう」


 言いながら剣を抜く。


「男同士ってお前……」

「あ、言ってませんでしたっけ?」


 ニコリと天使の微笑で笑いかけた。


「私……いや、俺は男だよ」


 俺も転生した時、最初は絶世の美少女に転生したかと思ったよ。

 でも、ユーリきゅんは男の子だった。だが、それでいい。むしろ、そこがいい。


「クソが! やってやるよっ!!」


 佐藤が叫びながら剣の柄を握る。その背後に音もなく近づく人影。小柄な少女だ。次の瞬間、佐藤の胸から剣尖が突き出てきた。少女が佐藤を背中から刺したのだ。佐藤は目玉がこぼれ落ちそうなくらい目をカッと開く。少女が、ぐりッと刃を回し、佐藤が血反吐を吐きながら絶叫した。


「すみません。一対一も嘘です。俺、一人、仲間いるんですよね」


 瞬間、佐藤の眉間にナイフが刺さる。毒付きの投げナイフを投げたのは俺じゃない。もう一人の仲間だ。


「あ、仲間が一人も嘘です。二人いました」


 佐藤の首筋に俺は剣を奔らせた。

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